キャンパスの敷地内には毎年5羽前後のオナガが営巣に来てくれる。2024年8月現在、12羽である。決まって毎年のように会うぎゃお君(命名:私)は、ここ6年連続で来てくれている。ぎゃお君は大柄で、左目の上に傷跡があって羽が生えず地肌が見えている。なので一目で彼とわかる。ぎゃお君はキャンパスにかろうじて残っているクロマツの上で毎年営巣をする。困ったことに、ここの元住民であるハシボソガラスのガーコと初代ワンワンガラスのペアを追い出してしまったのだ。ハシボソガラスは(おとなしいからなのか、オナガに数で負けたのか、彼らに聞いてみないとわからないが、)追い出されて営巣地を明け渡した。私がガーコにどこに行くか尋ねたところ、お隣の日大キャンパスのケヤキにした…とか伝わってきた。
このオナガ一家、かなりうるさくて、ギャーギャーと鳴いては何かと騒ぎ立てる。観察をしてみると、ぎゃお君がこの一家の主で、彼の連れ合いさんとその子たちで構成されている小さな群れのように見えた。ぎゃお君が皆に食べ物を与えている姿をよく見かける。彼らは雑食なようで、肉類や昆虫、植物のタネ、野菜クズなど何でもござれだ。衝撃的だったのは、カラスのヒナを食べていたことだ。それは、最近おしゃべりを始めた“おはようガラス(命名:私)”のハシブトガラスのヒナのようだった。その時にハシブトガラスの親が私に「助けて」と訴えてきたが、私にはどうしようもなく、ただ見ていた。他にもスズメやカワラヒワたちがオナガの餌食になったことがあった。
オナガは集団で狩りをする。かなり賢い。やはり、というかさすがカラス科の鳥だ。体は小さいが大きなカラスを襲い、食べてしまう。せめて私の目の前ではやめてほしい。ある時は他の鳥の持っている食べ物を横取りしたりもした。頭が良いというよりも、ずる賢い。
ぎゃお君はキャンパスのクロマツのてっぺんに近い所に、大きく雑な巣を作っている。観察をしてみると、ぎゃお君と連れ合いさんが巣を守り、近くには絶えず、巣立った子たちが居た。雑な巣の中でヒナがかえると親子全員が交代で食べ物を運んでヒナを育てているように見えた。食べ物を運んで来る巣立った子たち(“サポーター”と呼んでいる)の姿は、もう成鳥のように見えた。私の目には、1シーズン前に巣立った子たちが下の子たちのお世話を手伝っているように映った。この事を鳥に詳しい知人に話をしたところ、彼からは「そういう話は聞かない」という返事が返ってきた。なので、あれはおそらく私の見間違いだったのだろう。でも、いずれオナガの生態もいろいろとわかってくると思う。なので、もしかしたらそんなこともあるのかもしれないと、ちょっと期待している。…と、ここまで書いてきて、そういう論文があることをつい最近知った。これから研究が進んでいろいろわかってくることが楽しみだ。余談だが、実はキャンパスのシジュウカラも同じようなことをするのを目撃している。
2年前のこと。クロマツのそばを通った学生がオナガに襲われた。クロマツのまわりではぎゃお君の家族が揃って大騒ぎをしていたので何かあるなと思いながら行ってみると、ヒナの1羽が下に落ちたらしく、茂みの中から可愛いヒナが私をじっと見ていた。原因はこの子だと思い、学生たちには近づかないようにお願いをした。ぎゃお君たちは学生たちを攻撃したが、なぜか私には何もしなかった。6日後には落ちたヒナも無事に飛べるようになり、家族に合流することができた。その子は今でもたまにキャンパスに遊びに来てくれる。興味深い経験をさせてもらった。
(オナガ/カラス科 2023年12月,2024年8月.記)