雌モズのモッチーとの出会いは2013年の秋。八千代薬草園だった。
2016年の初冬。私がカキノキの剪定をしていると、目の前に雌のモズがカキノキの枝に現れた。モズは私をじっと観察しているようだった。そして、まるで私の気を引くようなそぶりで目の前をちょこちょこと何度も横切る。私は、わざと知らん顔をして作業を続けてみた。すると、私から50cm位くらいの所にある枝まで近づいて止まり、私の顔を見る。
モズは私と目が合うと「ジェジェジェチーチ」と鳴き始めた。私が彼女の真似をして「じぇじぇじぇちーち」と返事をすると、「ツツチッ、ツツチッ」とホオジロに似た鳴きまねを始めた。モズの雄が求愛のために他の鳥の鳴きまねをすることは知っていたが、鳴きまねをする雌もいること教えてもらった瞬間だった。モズなのでとっさに「モッチー」と声をかけると、こんどは「チュンチュンチュン」とスズメのように鳴いて尾羽を上下させながら更に近づいてきた。「モッチー、よろしくね。」と言ったところへ雄のモズが現れ、モッチーは追われて竹藪の方へ逃げて行った。
翌日、カキノキの剪定をしていると、またモッチーがやって来た。私に話しかけようとしているのか、目が会うなり「ジェジェジェジェ」と鳴きながら低姿勢になり尾羽を上下に振る。「モッチー、おはよう。」と挨拶をすると、「チュンチュンチュン」と返事をしてくれた。足元のカキの葉をどかすとミミズが出てきたので、モッチーに「食べる?」と聞いてみた。するとモッチーは私の目を見て「チュンチュンチュン」と鳴いた。試しにそのミミズと、そばにいたコガネムシの幼虫を掌に乗せて見せると、モッチーはほんの一瞬だけ掌に止まり、ミミズではなくコガネムシの幼虫を咥えて持ち去った。こんなことを数回繰り返すうちに「何かちょうだい」とやって来るようになった。そこで鳥の餌のミルワームを買ってきて与えてみると、気に入ったらしく、とても喜び、私の肩や頭に止まるようになった。
モッチーは八千代薬草園で働く仲間たちにも少しずつ慣れていった。スタッフのNさんが土をいじっていると「何かないかな」とやって来るようになった。翌年の春、私は試しにキウイの蔓で止まり木を作りカキノキの枝に掛けた。「ここにおいで、モッチー!」と止まり木を揺らしながら声を掛けることを何度か繰り返すと、止まり木に止まってくれるようになった。モッチーは止まり木をとても気に入ってくれて、ブランコのように漕いで楽しむようになった。ある時は、モッチーがいることを知りながら「モッチー居ないな?」と、私がわざとあさっての方を向いて言うと、背後から飛んで来て、止まり木ではなく私の頭に止まった。
八千代薬草園には、時々ハヤブサやアオバズクなど他の猛禽類もやって来る。彼らが来て鉢合わせしそうになると、モッチーは体を細くしてじっと様子をうかがう。どうやら枝になりきっているつもりのようである。「モッチー、もう行ったよ。」と声を掛けると、「ジェジェジェ」と返事をしてくれる。
(モズ/モズ科 2022年1月.記)