手賀川で釣り針が引っかかっているカンムリカイツブリを二度助けたことがある。私の仲良しのコブハクチョウバロンたちが連れてきて、私に釣り針と絡まった糸を取らせたのだ。
一度目はおそらく鉄砲で打たれたのであろう、片羽が無いカンムリカイツブリのオスのカンちゃん(命名:私)。大きなコイ針が足に刺さっていたので取ってあげた。
二度目は大柄で嘴の先が欠けている“長老”っぽいオスのカンムリカイツブリだった。彼の左足の内側の水掻きにタナゴ針が刺さっていた。私を怖がっている様子だったがどうにか取らせてくれた。嘴が折れているため自分で針を外せなかったのだろうか。釣り針を取ってあげたことで私を信じてくれたのか、2羽のうち1羽(カンちゃん)は私の姿を見ると寄って来てくれるようになった。
カンムリカイツブリは渡り鳥だ。暖かくなれば北に帰って行く。“長老”は春になると姿が見えなくなる。だが、カンちゃんは飛ぶことが出来ず留鳥となったのか、岸辺にいる私によく挨拶に来てくれた。コブハクチョウのバロンたちが私のそばに居ると、他の鳥たちも安心して集まってくる。カンちゃんもすぐ近くにやって来て魚を獲り、私に見せてくれることがある。遠くにいるとよくわからないので、カンちゃんらしき姿が有れば「カン!カンムリ!」と声をかける。するとカンちゃんは片羽で羽ばたいて挨拶をしてくれる。
ある日、カンちゃんに連れ合いができて、私のところまで連れてきて紹介してくれた。その年、雛が4羽生まれた。カンちゃんは2羽のヒナを連れてきて私に会わせてくれた。このことを鳥仲間のTさんに話したところ「千葉県北西部でカンムリカイツブリの幼鳥が観察されたのはすごく珍しいことなので写真が欲しい。」と言われた。その記事がカンちゃん親子の写真とともに読売新聞に掲載された。令和元年8月25日発行(千葉版)の記事『旅する鳥たち90 カンムリカイツブリ “冠羽 子育て期に大きく”』だ。そこには今は亡き知人のIさんが撮影したカンムリカイツブリの成鳥の写真も一緒に紹介されている。
カンムリカイツブリは夫婦分かれて子育てをする面白い習性を持つ鳥と聞いた。連れ合いのメスは下流で見ることができたが、私は警戒されて彼女を写真に撮ることはできなかったが、カンちゃんはヒナが生まれたことを私に“自慢げに見せてくれた”ように感じた。その2年前にもカンムリカイツブリのヒナを目撃したので、某鳥類研究所に報告したのだが「そんなはずはない。何かの見間違いでしょう。カンムリカイツブリは手賀沼では営巣しません。」と言われたのを昨日のように覚えている。今は亡きIさんも報告し、同じようなことを言われたそうだ。
(カンムリカイツブリ/カイツブリ科 2022年3月.記)