掲載:2008年9月5日

国際会議の報告:第4回国際アホウドリ・ミズナギドリ類会議

アメリカ合衆国魚類野生生物局アホウドリ再生チーム第4回会合と第4回国際アホウドリ・ミズナギドリ類会議に参加して

「アホウドリ再生チーム」第4回会合(US Fish and Wildlife Service Short-tailed Albatross Recovery Team Fourth Meeting, START4)は、南アフリカ共和国ケープタウンで2008年8月8-10日に、ひきつづいて8月11-15日に、国際アホウドリ・ミズナギドリ類会議(Fourth International Conference on the Biology and Conserva tion of Albatrosses and Petrels, IAPC4)が開催された。

1)アメリカ合衆国魚類野生生物局「アホウドリ再生チーム」第4回会合

国際会議に先立って開催されたこの会議では、「アホウドリ再生基本計画」(Short-tailed Albatross Recovery Plan)の最終稿をまとめるために、3日間にわたって 、参加者13人(下記、2日目まで、オブザーバーの John Cooper を含めて14人)による議論が、朝から夕方まで(0800〜1700時過ぎまで)徹底的になされた。

参照

「アホウドリ再生チーム」会合報告

参加者

第1日に、前回会合(2004年8月、モンテビデオ)以降の保護研究の成果と進展が中間報告され、アホウドリ保護の現段階が確認された。この日の最初に、長谷川は Short-tailed Albatross population monitoringと題して、鳥島の従来コロニーで営巣 地の保全管理作業による繁殖成功率の改善の結果、従来コロニーから200羽以上のひ なが巣立つようになったことと、新コロニーが2004-05年繁殖期に確立して以来、従 来コロニーから多数の若齢個体が移入した結果、急速に成長していることを報告した 。 また、鳥島集団とほぼ同率で成長していると仮定して、尖閣諸島集団は、現在、繁 殖つがい数が75〜80組、総個体数が400〜450羽と推測した。

第2日には「再生基本計 画」の草稿(draft recovery plan)に対して寄せられた意見や批判(public comments)を吟味し、保護の数値目標(recovery criteria)を見直した。とくに、個体群 存続可能性分析(population viability analysis)による個体群絶滅確率と保護目 標との整合性を検討した。 また、小笠原諸島へのひなの移動による第3繁殖集団形成 計画や衛星追跡によるアホウドリの海洋生息場所利用研究の意義や目標、今後の進め 方についても議論した。

第3日には、再びVORTEX model によって個体群存続可能性を分析し、指定解除基準(delisting criteria)を再々度、詳しく検討し、見直して、 1)繁殖つがい数が全体で1000組以上であること、かつ、2)個体群の成長率が7年以 上にわたって平均6%以上であること、かつ、3)鳥島以外で250組以上のつがいが繁 殖し、そのうち小笠原諸島聟島列島で少なくとも75組が繁殖すること、に改訂された。   最後に、この目標を達成するための保護課題を再検討し、最後に参加者による投票 で、保護課題の優先順位づけをした。その結果、優先順に、1)鳥島から小笠原諸島聟島へのひなの移動と飼育、2)鳥島での繁殖状況監視調査の継続、3)聟島から巣立 ったひなの衛星追跡、4)聟島の飼育場所の維持管理と監視調査、5)聟島でデコイと 音声再生装置を保守管理、6)尖閣諸島集団の監視調査、7)アホウドリの海洋分布域 と漁業海域との重複の解析、8)ひな移動と飼育後に聟島でデコイと音声再生による 誘引の実施、9)アホウドリの食性の研究、10)鳥島燕崎の従来コロニーでの砂防工事、などとなった。  

この3日間の議論と合意をもとに、「アホウドリ再生基本計画」の最終稿(final version)がまとめられ、アメリカ野生生物保護局から公表される。

[長谷川のコメント]

鳥島では1950-51年繁殖期にアホウドリの生存が再発見され、少なくとも75組のつがいが繁殖するようになったのは、35年後の1985-86年繁殖期であった。 したがって、単純に鳥島での歴史を小笠原諸島聟島列島に当てはめれば、小笠原諸島で75組のつがいが繁殖するようになるのは、ひなの移動と飼育が終了する2011-12年繁殖期から 数えて30〜40年後、つまり、順調に行っても2040〜2050年ごろになるだろう(残念な がら、長谷川はそれまで生き延びることはできない)。 そのころ、鳥島集団の繁殖つがい数は4000〜5000組、総個体数は2〜3万羽になると予想される。 もし、鳥島から小笠原諸島聟島に移動するひなの数を増やせば、より早く目標に到達することができる (ひなの数を2倍にすれば、約10年短縮)。

この目標は、現在の時点での保全生物学的にみた到達目標で、これ自体も将来の保 護の進展により見直されることがありうる。  

2)第4回国際アホウドリ・ミズナギドリ類会議

アホウドリ類についての最初の国際会議は、1995年8月にオーストラリアのタスマニア島のホバートで開催された。 この会議では、アホウドリ類の生態や保護についての研究発表がされたあと、とくに混獲問題について2日間にわたってワークショップ が開催された(はえなわ漁業による混獲問題を最初に指摘したNigel Brothers の提言により、Graham Robertson, Rosemary Gales, John Croxall, Henri Weimerskirsch が推進した)。 このワークショップでは、世界のアホウドリ類の多くの種の個体数が減少傾向にあり、その原因ははえなわ漁業による混獲(bycatch, incidental takes)であることが確認され、アホウドリ類を苦境から救うために緊急に取り組むべき 行動計画が提案された。

第2回会議は、2000年5月にハワイのホノルルで開催され、アホウドリ類の他にミズナギドリ類をも含め、これら仲間の生物学や保護について研究発表がなされた。 ここでも混獲問題は重要な課題と位置づけられ、その防止・軽減(bycatch mitigation) のための基礎的研究が数多く発表された。 会議の最終日に再び混獲問題のワークショップが開催され、その現状と取り組むべき課題、今後の行動計画が活発に議論された。 つづいて、第3回会議は2004年8月にウルグアイのモンテビデオで開催され、南アメリカの漁業者や一般の人びとにマゼランアイナメ底はえなわ漁業によるアホウドリ類 の混獲問題を知らせることに貢献した。 この会議ではまた、底曵網漁業(詳しくは、オッタートロール漁業あるいは船尾式板曳網漁業)の曳綱にアホウドリ類が激突して (翼を骨折して飛べなくなり)死亡する事故が頻繁に起こっていて、それもアホウドリ類の個体数の減少の原因となっていることが指摘され、事故防止手法の開発が求め られた。 さらに、衛星追跡やデータロガーによって、アホウドリ類の移動経路や採食 海域、生息場所利用の実態が広範に解明された結果にもとづき、多くのC域」(marine hotspots)として指定し、アホウドリ類やその他の海鳥類を保護する方針が打ち出された(第3回会議 www.mnc.toho-u.ac.jp/v-lab/ahoudori/information/topics/top040913.html)。

こうした経緯と背景で、第4回会議は南アメリカのケープタウンで開催された。 この会議でも漁業と海鳥との相互作用(沖合はえなわ漁業や底曳網漁業による混獲問題)は重要な話題ではあったが、混獲防止手法が確立し、現場で実施されて、実際に犠牲となった海鳥の個体数は減少していることが報告された。 これまで10年間以上にわたる取り組みによって、着実な成果が得られたことを多くの参加者は歓迎した。

しかし、世界のアホウドリ類22種のうち18種は、主にはえなわ漁業による混獲の結果、個体数が急速に減少していて、この状態を放置すれば多くの種は絶滅すると予測されるため(個体群存続可能性分析による)、国際自然保護連合(IUCN)はこれらを絶滅危惧種に指定し、現在でもなお漁業者に混獲防止・軽減措置の履行を求めている(www.savethealbatross.net)。 また、残る4種も準危惧種に指定され、アホウドリ類は鳥類の中で 最も絶滅が懸念されている科(family)の一つである。

そのため、これらの種を保全する国 際的協定(ACAP:Agreement on the Conservation of Albatrosses and Petrels)が結ばれているだけでなく(日本は未加盟)、国際鳥類保護団体バードライフ・インテーナショナル(BirdLife International) はアホウドリ保護特別委員会(Albatross Task Force)を発足させ、世界各地で漁業とアホウドリ類との相互関係を改善するために活動している。

また、この会議では、アホウドリ類 以外のミズナギドリ目海鳥類(とくに大型のpetrels)についても個体群の現状や混獲の影響などを協力して情報を収集することが提案された。

3)アホウドリ・セッション

この会議では、8月12日にアホウドリ・セッションが設けられ、4つの研究発表がされた。長谷川は最初に、Long-term population monitoring and conservation of the Short-tailed Albatross Phoebastria albatrus on Torishima, Japanと題して、鳥島での30年間以上にわたる個体群監視調査と繁殖成功率引き上げのための営巣地改 善を報告し、今後の繁殖集団の成長を予測した。 そのあと、ジュディ・ジェイコブス さんがアホウドリの小笠原移住計画のリハーサルとして行なわれたコアホウドリとクロアシアホウドリのひなの移動・飼育結果を報告し、今年実行されたアホウドリのひなの鳥島から聟島への移動と飼育の成功を、出口智広さんが報告した。

さらに、ポール・シーヴァートさんによって、鳥島の火山噴火のような突発的出来事と混獲のような日常的出来事のどちらがアホウドリの個体数の減少により大きな影響を及ぼすかというシミュレーション研究の結果が発表された(Myra E. Finkelstein, Shaye Wolf, Mary Goldman, Paul R. Sievert, Greg R. Balogh, Hiroshi Hasegawa & Daniel F. Doak: The anatomy of a (potential) disaster: volcanoes, behav iour and life history of the Short-tailed Albatross Phoebastria albatrus)。 この共同研究は、過去に鳥島で起こった頻度あるいはそれ以上の頻度で起こり、たと え鳥島に滞在している全個体を死亡させたとしても、火山噴火はアホウドリ集団に壊 滅的な影響を及ぼすことはなく、むしろ、わずかであったとしても漁業による混獲率 の上昇の方が急速に個体数を減少させ、絶滅をもたらす可能性が高いと結論づけた。

その理由は、繁殖期であっても営巣地にいる個体数は通常、全体のおよそ25%で( 繁殖個体の割合は全体の半分以下で、両親の片方が巣に就いているとして。 この他に 若い鳥が求愛行動をしているが)、それらがすべて死亡したとしても、繁殖年齢に満たない若い鳥は大部分が海上にいるので噴火の影響を受けずにすみ、片方の成鳥も生き残り、それら約75%の個体が数年間から十数年間を海洋で過ごして、火山活動が鎮まってから繁殖を再開し、個体数を増やすことができる。 それに対して、海洋での混獲は全年齢の個体の死亡率を増加させるので、その死亡率がある水準を超えれば、繁殖によっても個体数を維持することができなくなるからである。

アホウドリが、現場での保護活動(従来コロニーでの砂防や営巣環境改善、北西斜面での新コロニー確立、北太平洋における混獲防止の取り組み、など)によって、この仲間では信じられないほどの高い増加率(年7.54%)で鳥島の繁殖集団が成長していることに、多くの研究者が注目した。また、火山噴火に備えて、鳥島から小笠原諸島聟島にひなを運んで人手で飼育し、新しい繁殖集団を確立する保護計画は、アホウ ドリ類では画期的な取り組みであると評価され、大きな関心を集めた。

その他のセッションでも、アホウドリが取り上げられ(Rob Suryan, Kathy Kulezによる研究発表)、この鳥の保全研究が急速に進展していることを会議の参加者に印象づけた。

 


謝辞:これらの会議への参加は、(財)山階野生鳥獣保護研究振興財団からの助成(307,000円)により、可能になりました。深くお礼申し上げます。