掲載:2004年7月31日

米アホウドリ再生チーム会合

アメリカ内務省魚類野生生物保護局「アホウドリ再生チーム」第2回会合が開催

 アメリカ連邦政府によってアホウドリが絶滅危惧種保存法(Endangered Species Act 1973)の対象種になったことから(2000年8月1日)、内務省魚類野生生物局(US Fish and Wildlife Service)に、アホウドリの再生計画をまとめるための「アホウドリ再生チーム」(Short-tailed Albatross Recovery Team)が組織されました(2001年)。この第1回会合は2002年11月にハワイ諸島のカウアイ島で開催されました。その第2回会合(略称はSTART 2)が、2004年2004年5月25-28日に、千葉県我孫子市にある山階鳥類研究所と沼南町の手賀沼の丘公園にある県立少年自然の家で開かれました。
 この会合には、アメリカのアラスカから5人、西海岸から3人、東海岸から1人、ハワイから1人、オーストラリアのタスマニアから1人、日本からは専門家4人と環境省野生生物課から1人が出席しました(チーム構成員14名と連絡調整担当者2名)。この他にオブザーバーとして、山階鳥類研究所や小笠原自然文化研究所(父島)などから、数人が参加しました。
 会議では、まずアホウドリについての調査研究の最新情報が報告され、つぎに2002年の第1回会合での議論をもとにまとめられた「アホウドリ再生計画(草稿)」について、突っ込んだ議論が行なわれました。つづいて復活基準(recovery criteria、絶滅危惧種から指定解除の条件や、危惧種から危急種への指定変更の条件など)が議論され、そのためになされるべき53の個別保護課題が列挙され、投票によってそれらの優先順位づけが行なわれました。
 この会議にもとづいて、「アホウドリ再生計画」(Short-tailed Albatross Recovery Plan)がまとめられ、公開の意見聴取を経て、2005年2月ころに発表される予定です(この「再生計画」は英語版ばかりでなく、日本語版も用意されるので、いずれ、だれでも読むことができます)。
 この会議で決まったことをくわしく述べることはできませんが、保護目標とでも言うべき指定解除の条件と予算について、概要を説明します。

この会合で合意された指定解除の条件は、

  1. 全体で1000組のつがいが、3つの異なる地域にある島々で繁殖し(再婚中や休止中のつがいは除く)、かつ、
  2. そのうちの4分の1にあたる250組以上が、2つ以上の非火山島(=鳥島以外)で繁殖し、かつ、
  3. 250組の1割にあたる25組以上が、尖閣諸島以外の島(=小笠原諸島聟島列島)で繁殖し、かつ、
  4. これらの3繁殖集団(鳥島、尖閣諸島、小笠原諸島聟島列島)の個体数が、いずれも、過去7年以上の期間に3年移動平均で年率6%以上で増加していること。

 さらに、これらの繁殖地やその周囲の採食海域がなんらかの保護管理の下にあることを推奨した(たとえば保護区指定など)。

 この目標設定の特徴は、繁殖地の「安定性」を重視したことです。アホウドリ集団全体の8割をかかえている主繁殖地の鳥島は、2002年8月に噴火した活火山で、もし、親鳥が卵や小さいひなを抱いている時期に突発的な大噴火を起こせば、繁殖集団に大打撃を与えるおそれがあります(その確率を推定することは困難ですが、そうした噴火が短期間に引き続いて起こることはごく小さいと考えられます。過去には1902年8月と1939年8月に噴火)。また、尖閣諸島(現在、南・北小島の2島で繁殖している)は中国や台湾、日本の間で領土問題が決着しておらず、もしも領土をめぐって、不幸にして武力衝突が起これば、そこに生息・繁殖する野生生物の保護は吹き飛ばされてしまいます。鳥島は自然条件が不安定で、尖閣諸島は政治的に不安定です。したがって、どちらの条件も安定した場所に第3の繁殖地を確保することが、アホウドリの復活に緊急で必須な条件だと、再生チームは認識したのです。

 小笠原諸島 聟島<むこじま>列島では火山が噴火するおそれはなく、領土問題もありません。ここには1930年代までアホウドリが繁殖していました。そして、近年、1羽の成鳥が嫁島<よめじま>に住み着いていて(つがい相手はいない)、聟島本島の属島の鳥島には時々、若鳥が姿を現しています。ですから、そこに繁殖地を復元することは荒唐無稽な話しではなく、現実的です。

 ただ、このための方法は未確立で、これからさまざまな着想を比較検討して、もっとも妥当な方法を決め、新繁殖地形成計画をまとめてゆかなければなりません。

当面は、

  1. 第3繁殖地の候補地となる島を選定し、
  2. 鳥島からひなを移して(人工飼育し)巣立たせ、
  3. 若鳥となって帰ってきた時に誘引して定着させる

という大計画をまとめなければなりません。
これは、確立した方法を組合わせて済むわけではないので、ある種の冒険です。新しいことに取り組むには、つねにこうした冒険が伴います!
  この事業は、国際共同チームによって推進されますが、日本側からの積極的参加や支援、とりわけ地元である小笠原の人々の理解と協力が不可欠です。こうした協力体制づくりも同時に進められなければなりません。
この聟島列島新繁殖地形成計画を含むアホウドリ再生計画には莫大な資金が必要です。チームの構成員である北太平洋延縄漁業協会(シアトル)の事務局長ソーン・スミスさんが中心になって資金確保に奔走し、このために約274万ドル(約3億円)の予算をアメリカ連邦政府が今後4年間に支出することになりました。その一部は、アメリカ内務省魚類野生生物局と山階鳥類研究所との契約によって実施されます。
今後は、個別の復活課題を効率的に推進するための小委員会(subcommittee)の編成やそれぞれの課題に対する予算配分などが検討されます。

 ぼくは、アホウドリの保護研究を始めたころから、活火山の鳥島はアホウドリにとって危険なので、いずれは小笠原諸島聟島列島に繁殖地を分散させなければならないと考えてきました。しかし、その事業はぼくの生存中に始められることはまずなく、将来の世代の仕事になるにちがいないと思ってきました。
  しかし2002年8月11日に始まった噴火は(幸い、小噴火で鎮まった)、噴火の現実性と聟島列島への移住の緊急性を再認識させました。鳥島はいつ噴火するかもしれない火山島なのです(三宅島のような大噴火になることをも念頭におかなければなりません)。
  来シーズンからは巣立つひなの数が毎年200羽を超えることも、「聟島作戦」にとって有利に働きます。

 

「アホウドリ再生チーム」会合報告