後藤先生の徒然日記

恐竜の寿命・ゴジラの死因 (2008年7月22日)

 今年も夏休みに入って日本のあちこちで"定番"の恐竜展が開かれている。恐竜の化石や復元模型をみると大人でも想像を掻き立てられる。 マイケル・クライトンの『ジュラシックパーク』が翻訳された時も、映画化された時もいち早く読み、見た。 恐竜の血を吸った蚊が琥珀の中に閉じ込められ、その赤血球からDNAを取り出して・・・遺伝子工学技術を駆使して・・・現存する爬虫類の遺伝子を組み合わせて・・・・という発想は、いかにもありそうで生命科学の知識が豊富なクライトンならではと感心したものだ。 爬虫類である恐竜の赤血球には核があったろうし、琥珀のなかでは数千万年を経てもDNAの損傷も少なかろう。

 東邦大学を定年退職する前年、夏休みオープンキャンパスで高校生に『恐竜の寿命とハチドリの寿命』と題して模擬講義をした。 ティラノサウルスの体重は5トン、ハチドリの体重は5グラムと、その差は百万倍。では寿命はどのくらい違うか。 鳥類は一般に長生きでちっぽけなハチドリでも12年ほど生きる。 6500万年前に絶滅したといわれる恐竜の寿命については体重何十トンにもなるマメンチサウルスのような大型恐竜だと100年から200年(その根拠は知らない)、ティラノサウルスクラスだと最長寿命28年という値が報告されている(Science 313:213-217, 2006)。 ティラノサウルスの場合は出土化石も結構多いので骨(の化石)に残された成長線から推定した死亡年齢をもとに生存曲線を作って調べているので一応信頼できそうである。 ハチドリとの差はせいぜい2,3倍だ。 張り切って話したのだが、受験生には恐竜よりも試験情報に関心があると見えて、集まったのはたった10名ほどだった。

 恐竜の話となると、僕らの世代はゴジラを抜きにすることはできない。 東宝映画でゴジラが登場したのは1954年だから僕の中学生のころだ。 当時は今のような恐竜ブームではなかったが、東西冷戦の最中、核実験が盛んに行われた時代に放射能で恐竜を蘇らせた独創的な作品だった。

 7年ほど前になるが、ボルチモアで行われたアメリカスポーツ医学会年会で『老化・病態・運動におけるタンパク質の酸化傷害』という教育講演をすることになった。 めったにない機会だから何か印象に残るものを織り込もう、と思いついたのがゴジラだ。当時はまだゴジラこと松井秀樹選手がヤンキースで活躍する前だったがゴジラはアメリカでもよく知られたキャラクターだと聞いていた。 東京市街を暴れまわったあと、海に入って生まれ故郷の太平洋の島?に戻ろうというゴジラを追いかけて、科学者が東京湾の海中で新兵器オキシジェン・ディストロイヤー(酸素破壊器)を使って退治するという場面がある。 ゴジラは活性酸素で死んだと思い込んでいた僕は、これを講演の締めくくりに使おうと思った。教室スタッフにゴジラのビデオを借りてきてもらい幾つかの場面を選び出した。 ところが渡米間際にポスドクのA君からあれは酸欠によるのだと聞かされ、この"名案"はボツになった。

 しかし、待てよ、後でビデオをよく見るとゴジラは酸欠のため苦し紛れに海面に飛び出したあと再び海中に沈み死に絶えている。 ここで"苦し紛れ"に思いついたのは 虚血再還流による活性酸素の発生である。心臓や脳では血栓形成などで酸素不足になったあと、暫くして血流が再開して酸素が供給されると活性酸素が大量に出来て心筋細胞や神経細胞が傷害を受ける。ゴジラの場合もそう考えられないか。酸欠のあと海面に出て急に酸素を取り込めば死因は活性酸素の可能性がある。こんど機会があったらゴジラの死因の話をしよう。


アメリカスポーツ医学会で使う予定だった幻のスライド(ROS:活性酸素)

 

 

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