伊豆諸島鳥島

第83回鳥島アホウドリ調査報告

4.鳥島におけるクロアシアホウドリの新コロニー形成

 ぼくがアホウドリの新コロニー形成に対して、かなり楽観的期待をしているのは、鳥島でクロアシアホウドリの新コロニー形成をつぶさに追跡観察してきたからです。

 1977年にぼくが最初に鳥島に上陸した時、クロアシアホウドリは燕崎だけで繁殖し、126羽のひなを確認しました(足環標識)。

 その後、1980年代の前半から、山頂をはさんで燕崎の反対側に位置する北西斜面で、数羽から20羽近くのクロアシアホウドリが集まって求愛ダンスをしている光景が時どき目撃されるようになりました。しかし、営巣・産卵は確認されませんでした。

 1987年秋に燕崎で地滑りが起こり、土石流が発生して以降、北西斜面でクロアシアホウドリの小集団がいくつか見られるようになり、1988年12月に北西斜面で初めて4個の卵が生まれ、それらから1羽のひなが巣立ちました。翌1989年にはそこで10個の産卵があり、5羽のひなが巣立ちました。

 こうして北西斜面にクロアシアホウドリ新コロニーが形成されました。明らかに、燕崎での地滑りによる営巣場所の破壊が、クロアシアホウドリの新コロニー形成のひきがねとなり、営巣場所を失った鳥たちが、北西斜面に新天地を求めたにちがいないのです。

 その後、北西斜面では繁殖個体数が爆発的に増加し、2003年春にはついに従来コロニーと新コロニーとで巣立ったひなの数が逆転しました(図1.注:巣立ち年は産卵年のつぎの年)。

▼図1.伊豆諸島鳥島におけるクロアシアホウドリの巣立ちひな数の増加

 このクロアシアホウドリの新コロニー形成は、アホウドリの新コロニー形成の先行モデルといえ、ぼく自身がアホウドリの新コロニー形成の人為的促進計画を考えたとき、このクロアシアホウドリの実例が念頭にあったのです。