■温泉微生物の研究の歴史

我が国における温泉生物に関する最初の記載および主な研究は・・・ 江本義数 氏によると世界有数の温泉保有国である我が国における温泉生物に関する研究は100年以上も前から行われていたとされています。

※参考文献: 日本の温泉植物についてはじめて記述したのは誰か 植物研究雑誌、37; 283 - 285, 1962

日本における温泉生物に関する最初の記載および主な研究

●植物

1881年
Marburg 大学の Rein J.J.
研究テーマ:
箱根須沢の温泉生物
詳細な内容:
地理学者の Rein が 1874,1875年に日本全国を旅行し、その時の状況を記録したものですが、その中には温泉に関する記載があり、“箱根須沢の岸から湧出している温泉(59℃)に Conferva (現在では Sirogenium sp.) の生息を認めた”という記述があります。さらに彼はその著書の中で“観察した植物の中でこの Conferva が最高の温度で生育している植物である”ということも併せて記述した。またこれは特殊環境に生息する生物に関する最初の記述でもあると考えられます。 参考文献: Japan nach Reisen und Studien in Aufrage der koniglich preussischen Regierung dargestallt. Band 1. Natur und Volk des Mikadoreiches i-xii, 1-630, 1881 (第1巻、第一部、第3章地理学の項)
1888年
勝山忠雄、岡村金太郎
研究テーマ:
北海道定山渓温泉のツヅミモ(Cosmarium botritis )
参考文献:
定山渓温泉紀行、植物学雑誌、2 : 119 - 121, 1888
1890年
堀 正太郎
研究テーマ:
島根県玉造温泉、岐阜県濁河温泉のラン藻類(Oscillaria、現Oscillatria)
参考文献:
温泉中ノ植物、植物学雑誌、4 : 19 - 22, 1890
1897年
三好 學
研究テーマ:
伊香保温泉の鉄バクテリア および 日光湯本温泉の硫黄バクテリア
参考文献
日本鑛泉ノ生態學的研究略報、植物学雑誌、11 : 285 - 290, 1897
1943年
根来健一郎
研究テーマ:
草津温泉の藻類
参考文献:
群馬縣草津温泉ノ藻類植生、植物学雑誌、57 : 302 - 312, 1943

●動物

1915年
松村松年
研究テーマ:
北海道定山渓温泉のオンセンバヘ(Scatella calida)とタテヤマオンセンバヘ(Scatella tateyamana)
参考文献:
岡田弥一郎:日本に於ける温泉動物研究の概要、植物及動物、4 : 95 - 102, 1936

●温泉動植物についての集大成

1965 - 1969年
江本義数
研究テーマ:
我が国の温泉中に棲息する生物
詳細な内容:
温泉に生息する生物を種ならびにそれらの生息地の pH 、温度、泉質別に整理し、また、様々な角度から分類しまとめたものを報告しています。それによると温泉には植物では細菌類、藻類、蘚苔類、シダ類等が、動物では原生動物門、腔腸動物門、扁形動物門、輪形動物門、環形動物門、軟体動物門、節足動物門、脊椎動物門等に属する生物の生息が確認されました。
参考文献:

1)江本義数:我が国の温泉中に棲息する生物(その1)、温泉工学会誌、2; 148 - 159, 1964

2)江本義数:我が国の温泉中に棲息する生物(その2)、温泉工学会誌、3; 19 - 29, 1965

3)江本義数:我が国の温泉中に棲息する生物(その3)、温泉工学会誌、3; 89 - 101, 1965

4)江本義数:我が国の温泉中に棲息する生物(その4)、温泉工学会誌、3; 173 - 182, 1965

5)江本義数:我が国の温泉中に棲息する生物(その5)、温泉工学会誌、4; 39 - 50, 1966

6)江本義数:我が国の温泉中に棲息する生物(その6)、温泉工学会誌、4; 90 - 104, 1966

7)江本義数:我が国の温泉中に棲息する生物(その7)、温泉工学会誌、4; 151 - 165, 1967

8)江本義数:我が国の温泉中に棲息する生物(その8)、温泉工学会誌、5; 24 - 31, 1967

9)江本義数:続・我が国の温泉中に棲息する生物、温泉工学会誌、5; 61 - 91, 1968

10)江本義数:続・我が国の温泉中に棲息する生物(その2)、温泉工学会誌、6; 29 - 53, 1968

11)江本義数:続・我が国の温泉中に棲息する生物(その3)、温泉工学会誌、6; 85 - 11, 1968

12)江本義数:続・我が国の温泉中に棲息する生物(その4)、温泉工学会誌、6;135-164, 1969

13)江本義数:続・我が国の温泉中に棲息する生物(その5)、温泉工学会誌、7; 25- 52, 1969

14)江本義数:続・我が国の温泉中に棲息する生物(その6)、温泉工学会誌、7; 75 - 108, 1969

1969年
江本義数
研究テーマ:
日本の温泉生物学の歴史についてまとめたものを江本義数が発表しています。
参考文献:
1)江本義数:日本における温泉生物学の進歩、温泉科学、20; 126 - 134, 1969

 

海外における温泉生物に関する最初の記載および研究

1827年
Agardh C.A.
アドリア海北部海岸地帯への調査旅行の帰りに立ち寄った ボヘミアのKarlsbad 温泉における藻類の研究が温泉生物に関する最初の記載とされている。その後、彼はその成果をいくつかの論文に発表し、さらにその内容について発展させたものを Larobok i botanik (1830 - 1832) にまとめている。
参考文献:

1) 廣瀬弘幸:温泉と藻類、藻類、1 : 10 - 16, 1953

2) Gillispie C. C. : Dictionary of Scientific Biography, p69 - 70 , Charles Scribner's Sons, 1970

3) Agardh C. A. : Larobok i Botanik, Thomon, 1829 and 1832 (2 vol.)

1862年
Brock T. D
「Corn F. が“フィールドにおいて、ある場所が様々な色彩に見えるということは単なる興味でなく、その色の違いが生物種の泉温の違いによる棲み分けを表している”という興味深い記述をしたことが真の温泉生物に関する最初の研究であると考える。」とういことを著作の中で述べている。
参考文献:

1) Brock T. D. : Thermophilic Microorganisms and Life at Hight Temperature, p 41, Springer-Verlag, 1978

1978
Kushner D. J.
『特殊環境』を編集
内容:
第一線の研究者によって、様々な特殊環境に生息する微生物について書かれたものである。
1978年
Brock T.D.
アメリカ合衆国の Yellow Stone National Park を中心として行われた彼の膨大な研究内容が紹介
参考文献

1) Kushner D. J. : Mikrobial Life in Extreme Environments, p 1 - 465, Academic Press, 1978

2) Brock T. D. : Thermophilic Microorganisms and Life at Hight Temperature, p 1 - 465, Springer-Verlag, 1978

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