BioLTop 東邦大学生物多様性学習プログラム
 トップ > 野外実習 > 房総丘陵・大福山 2005年度実施要項

蜘蛛類の同定と観察の手引き

はじめに

イオウイロハシリグモ(撮影:網代春男) クモ類は、節足動物門のクモ形綱に属する動物の総称である。節足動物には、ほかに昆虫類(いわゆる昆虫で6本の脚と1対の触角を有し、翅をもつ種類が大半を占める)、甲殻類(エビ・カニ、ダンゴムシ類)、多足類(ヤスデ類とムカデ類)が含まれ、クモやカブトガニなどは鋏角類というグループにまとめられている。この鋏角類にクモ綱が入るのであるが、クモの姉妹群には、サソリ類やダニ類がいる。絶滅したウミサソリ類やカブトガニ類は海生の鋏角類で、陸上に進出したクモ類の祖先とは姉妹関係にあるらしい。らしい、と書いたのは絶滅したグループも含めて、節足動物を構成する昆虫、甲殻類、多足類、クモ類の類縁関係や、クモ類に中でのダニやサソリ、カニムシなどの関係についてもまだ決着がついていないのである。
 いったいクモとはどういう動物なのか、この実習を通して肌で理解していってほしいものである。


スケッチ

スケッチ拡大図へ背面図・腹面図

歩脚の構造と各節の名称、及び頭部正面図

雌雄の違い・成体と幼体の違い

 ある程度成長した個体において、触肢末節がふくれている個体は雄、そうでない個体が雌である。幼体で判別が困難な場合は無理に判別しない。
 雌では外雌器の、雄では触肢の構造が明瞭となったものが成体、そうでないものが幼体である。生殖器の構造がやや不明瞭で、恐らくあと1回の脱皮で成体になるであろう個体を亜成体と呼び、幼体と区別することがある。しかし、亜成体であるかどうかの判断は曖昧なものなので、目録では幼体として構わない(思春期はまだ子ども扱いで)。ちなみに、アシダカグモでは成体となった後も脱皮を行なうことが知られている(この点は昆虫と大きく異なるので注意したい)。

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観察・採集の手引き

網の基本構造

網の基本構造

網の張り方

以下にオニグモの造網過程を示す。網について観察、研究を行なう上では不可欠な知識であるので、最低でも一通りは目を通しておいてもらいたい。なお一概に円網といえども、その造網過程は種によって細部で異なる。また、アシナガグモ科の網については十分に造網過程が解明されていないため、ぜひ観察記録をとってもらいたい。

網の張り方クモはまず一定の場所を定めて糸を出して風に流す。
糸の先がどこかに引っかかると、これを補強して橋糸をつくり、糸の中心より糸を引きながら下におりる。
枠糸を張りながら放射状に縦糸を次々に張る。
中心からうず巻き状に足場糸(粘らない)を張る。
粘性のない縦糸を伝わり長和外側から中心に向かって足場糸をはずしながら横糸を張っていく。横糸は粘球をつけるので粘る。
網が完成し、クモは中心に座を占める。

網の分類・機能

1.円網 対象:オニグモゴミグモアシナガグモなど

 円網には種ごとにさまざまな大きさや形のものが存在する。オニグモやコガネグモは垂直円網を、アシナガグモは水平円網を張る傾向は見られるが、網の角度は周囲の環境などにより同じ種でも変化が見られるため一概には言えない。垂直円網は横方向に空中を移動する飛翔昆虫を捕らえるのに適し、水平円網は羽化して水面から上昇する昆虫を捕らえるのに適す。
 コガネグモ科やアシナガグモ科の円網の横糸には粘球と呼ばれる糖タンパク質がつけられており、この粘着力により獲物を捕らえる。これらの円網に獲物がかかると、クモは獲物に捕帯と呼ばれる糸をふきかけて包み、それから捕食する(wrap & bite型)トリノフンダマシの網では粘球がとりわけ大きく、網に獲物がかかると横糸の一方が縦糸から外れ、強力な粘球に捕らえられた獲物がぶら下がった状態となる。一方でウズグモ科に見られる円網の横糸には粘球はなく、篩板から作り出される細かい糸(篩板糸)により粘性を持たせている。粘球を持つ円網と篩板糸による円網はそれぞれ独立に進化したものと考えられている(収斂)。これらの網を見つけたら、実際に触って確かめてもらいたい。
 また、縦糸や横糸の数、こしきの構造なども種によって異なるため、網によってある程度の同定が可能である。手始めに、ゴミグモとオニグモの糸と網の構造を観察してみてはいかがだろうか。

2.蹄型円網 対象:ジョロウグモ

成熟したジョロウグモの網の形は馬の蹄に似ているため、蹄型円網と呼ばれる(幼体では円形の時期もある)。ジョロウグモの網はどの成長段階においても3重網で、横糸の数や構造も他の円網とは異なるため、幼体であっても網のみで同定が可能である。獲物は捕帯で巻くより先に噛み付くことが多い(bite & wrap型)。

3.棚網 対象:クサグモなど

棚網の上に引き回された糸にぶつかって獲物が棚網に落ちると、その振動を感知して獲物に駆け寄り、糸を巻きつけて捕獲する。糸に粘球はない。

4.不規則網 対象:オオヒメグモなど

不規則に張られた糸の中でも、壁や地表面と接している糸の端には小さな粘球が複数ついており、地面を徘徊しているアリなどが触れると糸が切れて吊り上げる。吊り上げられた獲物に粘球糸を投げつけて動けなくし、捕獲する。

5.シート付不規則網 対象:ニホンヒメグモ

不規則網に迷い込み、糸にぶつかってシート部に落下した獲物を、下からシートごと巻き込んで捕獲する。クモは不規則網の中央にいる。シートつきの不規則網はニホンヒメグモのみであるので、網による同定が可能。

6.皿網 対象:ヘリジロサラグモアシナガサラグモなど

皿網の上に張られた不規則網に触れて落下した獲物を、シート状やお椀上の皿網の下から噛み付き捕食する。

7.篩板糸網 対象:ウズグモオウギグモハグモなど

糸に粘性はあるが、粘球によるものでなく、糸にさらに細かい糸を絡みつかせて粘性を出している。この微細な糸は篩板という突起から作り出す。網の形は種によって多様である。

8.受信糸網 対象:ヒラタグモミヤグモなど

巣を中心に四方に長い糸を出しており、この糸に虫が触れると動きを感知して、クモは巣から飛び出し獲物を捕獲して巣に引きずり込む。ヒラタグモの網を見つけたら、そっとはがしてみてもらいたい。

以上は日ごろよく観察される網をおおまかに分類したものである。この他にも多様な網が存在するので、実際に自分の目で観察してもらいたい。フィールド図鑑のPxx 6−11には代表的な網の写真が掲載されているので、こちらも参考にして頂きたい。
円網の記録をとる際は、円網が完全な円ではないことに気をつけなければならない。場所によって半径や横糸の数が変わってくるので、一定の基準を設ける必要がある。横糸の記録には、円網の上端を0度としたとき45度にあたる部分での計測値を標準とすること。

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採集方法

クモは草原や森林のみならず、高山から海辺、砂漠、さらには都市に至るまで、陸上のあらゆる環境に生息し、また水中に生息する種もあるため、その採集方法は多岐に渡る。しかし、多くは昆虫類の採集方法を用いて捕まえることができる。
生態観察を伴うクモ類の採集ではルッキングを基本とし、ルッキングによる調査が一通り終了してから他の方法を補助的に用いることが望ましい。以下にそれぞれの採集方法の解説と対象とするクモ類について概説する。

1.ルッキング

とにかく目を使って丹念にクモを探す方法である。全てのクモを対象とする。環境や調査目的にもよるが、真剣に探すと時速50m程度の移動速度になるため、あらかじめ調査地を決めておかないと非常に効率が悪くなってしまう。他の採集方法と違い、クモの生態に関する知見を多く得ることができる。それぞれの種の習性や生活環境を事前に知っていると、効率の良い採集ができる。採集する前に、クモがどのような環境にいたのかを詳細に記録すること。
移動速度が遅いためか、地元の方に声をかけられる事が多いので、それなりに説明できるように構えておきたい。

2.シフティング

適当な量の落葉層の土壌をふるい(目の粗いものがよい)にかけ、クモを採集する方法。地表を徘徊する種や、落ち葉の隙間などに生息する種を主な対象とする。サラグモ、コモリグモ、ワシグモなどが多く採集される。ふるいは台所用の水切りかごで代用できる。ムカデやヤスデなども出てくるので、噛まれないように注意すること。

3.ビーティング

樹木の枝先を棒などで叩き、驚いて落下したクモを捕虫網や傘などで受け、採集する方法。ハエトリグモや一部の造網性種を主な対象とする。

4.スウィーピング

捕虫網を振り回して採集する方法。草地に生息するクモ類を主な対象とする。短時間に多くの個体数を採集することができる。ビーティングやスウィーピングではクモ類の他にハチなどが採取されることがあるので、注意すること。

5.ツルグレン装置

土壌を紙袋などに入れて持ち帰り、ツルグレン装置を用いて採集する方法。採集された土壌動物の中からクモを選り分ける。土壌中の生物相を明らかにするならば非常に効率が良いが、クモのみを対象とする場合はあまり用いられない。

6.各種トラップ

ピットホールトラップやマレーズトラップによってもクモの採集が可能である。

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採集したクモの扱い

 採集したクモを標本として持ち帰る場合は、その場で液浸する。ただし、見つけたクモを次から次へと無差別に液浸にすることは、倫理的にも好ましいものではない。また、液浸標本からはほとんど生態学的なデータが得られないので、液浸にする前に十分な観察を行なうこと。
 小型のクモの場合は吸虫管を利用する。ただし、吸虫管内でクモが他のクモを補食することがあるので、適宜液浸にするなどの対策が必要である。
 ハエトリグモ科では体色が同定の際に重要となるため、プリンカップやバイアルなどに1個体ずつ入れ、生かして持ち帰る。

採集・観察用具


用具 使用方法
クモ捕獲用容器 カップ型のものならば何でも構わないが、マヨネーズの容器の底を抜いたものが便利(形が自在に変型できるため)。ペットボトルの底を抜いたものでも代用できる。多少使いにくいかもしれないが紙コップなどでも良い。捕獲後の容器への移し替えを考えると、ユニパックが便利。ただし、クモを潰さないように注意が必要。
観察用サンプル瓶 採集したクモを野外で観察するための容器。厚みのあるガラス瓶ではルーペのピントを合わせずらいため、プラスチック製のサンプル瓶を用いる。
エタノールを入れて持ち運ぶ瓶 簡単にふたができてエタノールがこぼれない容器ならば何でも良い。栄養ドリンクの空き瓶や小型のペットボトルなどで代用可能。小型のクモ用に10mlのバイアルを併用すると、持ち帰った後の作業で小型種を損失する被害を最小限に抑えることができる。
捕虫網 ビーティングの際の受け網や、高所に造網したクモの捕獲、スウィーピングに用いる。
金魚網 クモを捕獲する際の受け網として用いる。また、大形の徘徊性種を捕獲する際にも使用できる。
たたき棒 ビーティングの際に枝を叩くために用いる。丈夫な棒を現地調達すれば良い
軍手 ある方が何かと便利だが、軍手をした状態ではクモを扱いにくいので、必要に応じて用いる。
吸虫管 小型のクモの採集に用いる。
ルーペ 野外で簡易同定を行なうには、10倍以上の倍率の物が好ましい。
スプレー 中に水を入れ、クモの網を観察する際に用いる。24時間「露のかかった美しいクモの網」を再現できる。100円均一のもので構わない。
色鉛筆 ハエトリグモの体色の記録に用いる。

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標本の作成

クモは乾燥すると体が縮んでしまい、同定が困難になるため、液浸標本とする。液浸の際には80%程度のエタノールを用いるのが一般的だが、分子遺伝学的な研究に用いる場合は無水エタノールを使用する。ホルマリンはクモの関節を固くしてしまうので使用しないこと(発ガン性の面からもホルマリン標本は同定を断られる)。エタノールよりも安価なメタノールやイソプロパノールでも液浸標本は作成できるが、色落ちが激しく、クモのからだも痛みやすいので勧めない。
クモは1個体ずつ瓶に入れ、さらにラベルを入れる。ラベルには片面に番号、採集地、採集年月日、採集者名、もう片面に学名、和名、同定者名を記す。ラベルの無い標本は、どんなに貴重な種であろうと学術的な価値が全くないものとなるので、必ずラベルは入れること。それぞれの標本に関する詳細な情報は情報カードやデータベースソフトなどを利用して整理することが望ましい。
液浸標本にしたからといって、クモの強度が上がった訳ではないので、取り扱いには充分に注意すること。特にヒメグモ科やオニグモ属の標本は腹部が痛みやすいので、決して標本ビンを振ってはならない(腹部がはじける)。

同定の手引き

クモは形態的にも非常にバリエーションに富んでいます。その体つきを見るだけでもその個体がどのようなクモなのか、かなりの情報を引き出すことができます。例えば各歩脚の長さ、太さ、つき方などから造網性のクモであるか、そうでないか大まかにわかります。同じ陸上選手でも短距離走の選手と長距離走の選手の筋肉のつき方が違うように、クモも普段の生活スタイルが体つきに現れているのです。検索表や図鑑を使って細かい種の同定を始める前に肉眼やルーペで大まかに観察し、どのようなグループのクモなのかを推理してみましょう。わかりやすいものは科まで行き着くことができます。
 下の項目は、特徴の現れやすいポイントと、後の同定のときに役立つので大まかに見たときにチェックしておくと良いポイントです。慣れるとだんだん見るポイントを選べるようになると思います。(同定をするときは、もちろん形態的な観察以外にも採集場所など野外での記録や、生体時の様子も参考にしてください。)

仮同定チェックリスト

背側から見て
  • 腹部に節のようなものがあるか
  • 腹部の形
  • 頭胸部と腹部の比率
  • 頭胸部の形
  • 歩脚のつき方、太さ、長さ
  • 目の配列(見えれば)
  • 中窩
腹側から見て
  • 牙の開き方
  • 触肢の先端は膨らんでいるか、複雑な構造があるか
  • 胸版の形
  • 腹部にクチクラ化した外雌器があるか
  • 出糸突起の数と形状、配置
  • 篩板の有無
  • 官突起の有無

同定の手順

  1. 採集された標本および個体を1個体ずつガラス瓶に移す。
  2. 肉眼で見て、似た形のものをおおまかにまとめる(ソーティング)。科レベルでまとめることが理想であるが、これは可能な限りで良い。クモの体型を区分けする基準を読み取りながら行なう。この作業にあまり時間をかけると根気がもたないので、ある程度で見切りをつけ、“その他”として扱っても良い。
  3. それぞれの個体について、全体の姿から、科(慣れてきたら属、種)の“あたり”をつける。慣れないうちは、図鑑をはじめから眺めて似ているものを探す。
  4. “あたり”をつけた科や属内の各種についての特徴を、同定する標本と照らし合わせる。この照合にあたっては、原記載やリビジョンなどの分類学的論文を用いることが望ましいが、これらを実習中にすべて取り寄せることは困難であるため、ひとまずは図鑑に出ている範囲での照合を行なう。照合の際は、一般に雄では触肢(p=パルプ)、雌では外雌器(e=エピジナム)の形態を比較が重要となる。ただし、パルプやエピジナムのみでの同定は非常に危険である。得にハエトリグモ科の場合は生時の体色も同定の重要な決め手となる(液浸では色がぬける)ため、記録を怠らないようにする。多くの場合、幼体での確実な同定は不可能であるので、幼体の同定は後回しにする。明らかに同種と思われる成体の標本が存在し、季節的に問題がなければ同種として扱うことも可能であるが、よほど明瞭な特徴のある種でなければ属レベルの同定にとどめる。
  5. 照合の結果、図鑑に記されたものと全ての特徴が一致するならば、一応の同定とする。ただし、照合の際に少しでも一致しない点があるならば、それは同定を科、または属のレベルでとどめる。ここで一応の同定としたのは、図鑑が発行されてから現在までに種の再検討が行なわれている可能性があるためで、その確認には最新の日本産クモ類目録(http://www.asahi-net.or.jp/~dp7a-tnkw/より入手可能)を参照する。ここで、新たな種の記載や学名の変更がなければ同定に問題はないが、図鑑発行以降に新たな種が発表された場合や、種の記載年、記載者が図鑑と異なる場合は確認が必要となる。学名に変更がなくとも、属内の種数に増減がある場合は図鑑に掲載されている特長とは他の部分で細分化されている可能性があるので、そのような場合においても最新の論文を参照したい。確認の際に用いる文献の入手方法については後述するが、この作業は実習の期間内で終わらせることは非常に困難であるため、ある程度の覚悟と根気が必要となる。また、新たな種の記載や学名の変更がなくとも、現在知られている種と明らかに一致しない点がある場合は、新種の可能性もあるため、専門家に同定を依頼することが望ましい。

検索表を用いての同定

検索表は熟練しないと正しく使えないことが多く、また細部の特徴を実習室の実体顕微鏡で判別することは非常に困難であるので、検索表を用いてのクモの同定はあまり勧めないが、図鑑では全く手がつけられない時には有効である。検索表による同定は、1つの判断の違いで結果が大きくことなるため、いくつかの可能性を考えながら検索を進める必要がある。また検索表による同定結果が出た後に、図鑑や論文の記述との照合作業を怠ってはならない。

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参考書

図鑑
『原色日本クモ類図鑑』 八木沼健夫著 1986年 保育社

 日本産のクモ類全般について詳細な記述があり、数多くの種のパルプやエピジナムの形態が掲載されている。このため、かなりの種について論文を取り寄せなくとも同定が可能である。ただし、発行から約20年を経たため、内容がやや古くなってしまった部分は否めない。たいていの大型書店には置いてあるので、クモ学に興味を持たれた方は、絶版になる前に購入することを進める。

図書館○/書店○

『原色日本蜘蛛類大図鑑』 八木沼健夫著 1960年 保育社

 原色日本クモ類図鑑の元版といえる。東邦大学の図書館には、かつて発生生理学研究室にいらした近藤先生による修正が加えられたものも所蔵されている。

図書館○/書店×

『写真日本クモ類図鑑』 千国安之輔著 1989年 森林書房

 日本産クモ類各種の全体とパルプ、エピジナムの写真が掲載されており、写真による同定が可能である。

図書館○/書店×

『(学研の図鑑)クモ』 中平清著 1977年 学習研究社

 言わずと知れた学研の図鑑である。生息場所ごとに記されているため使いやすく、また写真も見事である。絶版、家にある方は大切にして頂きたい。なお近年改訂された「(学研の図鑑)昆虫」や「(小学館の図鑑NEO)昆虫」には数十種のクモと生態写真などが掲載されている。

図書館○/書店×

『クモ基本50』 新海栄一・高野伸二共著 1987年 森林書房

 季節ごとにクモが掲載され、非常に使いやすい図鑑である。基本50とは名ばかりで、かなり多くの種が扱われている。名著と賞されるが絶版。

図書館○/書店×

『フィールド図鑑クモ』新海栄一・高野伸二 1984年 東海大学出版会

 フィールド図鑑なだけあり、野外で使うには便利である。書店で見かけた場合は迷わずに買いたい。たいていの図書館には所蔵されている印象がある。

図書館○/書店△(少ない)

『校庭のクモ・ダニ・アブラムシ』 浅間茂著 2001年 全国農村教育教会

 タイトルは「校庭の?」となっているが、「身近な?」と置き換えても良いのではないかと思う。住宅地や公園などでよく見かけるクモについて詳しい。

図書館○/書店○

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教科書・参考書
『クモの生物学』宮下直2000,東大出版会

 大学生向けのクモ学の教科書と言える。クモを学ぶ上では避けて通れない一冊。

図書館○/書店○

『クモの生物学』吉倉真1987、学会出版センター

 クモに関する事項が網羅的に記されている、いわば“クモの百科事典”的な書である。

図書館○/書店△(注文)

『Biology of Spiders』R. N. Foelix1996、OXFORD UNIVERSITY PRESS

 英文ではあるが、こちらもクモの百科事典的な書である。比較的新しい知見も数多く掲載されている。

図書館○/書店△(注文)

『クモ生理生態事典』池田博明1988、著者自刊

 発行当時までに発表された各種の記事を集約してあるため、考察の際に非常に便利である。 http://www.ne.jp/asahi/jumpingspider/studycenter/spiderdic.htm から閲覧可能

図書館○/書店×

『クモの巣と網の不思議』池田博明2003、文葉社

 東京蜘蛛談話会の中心人物らによる書である。造網性種の網の多様さについて、非常に読みやすく書かれている。まだ不明な事項や今後の研究課題についても触れているため、研究意欲のかき立てられる一冊。大きな書店ならばたいていは置いてある。

図書館×/書店○

『標本学』国立科学博物館2003、東海大学出版会

 クモの標本作成・管理をはじめ、採取法などについても詳しい記述がある。他の生物についても詳しく書かれている。一見の価値あり。

図書館○/書店△(少ない)

『クモの学名と和名』八木沼健夫1990、九州大学出版会

 クモの学名の意味や由来について辞書的に書かれている。学名に関連した記事や、近代の日本のクモ学者についての記事もあり、面白い。

図書館○/書店×

『昆虫の誕生』石川良輔1996、中公新書

 節足動物の中における昆虫、多足類、クモ形類、甲殻類の系統関係が整理されており、クモ類の位置について基礎的な理解の助けとなる。

図書館○/書店○

『生物学の考える技術』近藤修(訳)1995、講談社(ブルーバックス)

 論文・レポートを書く上で必要な基礎的な事柄がまとめられている。各種の検定について、その数学的な理論ではなく使い方を例解しているためわかりやすい。

図書館○/書店△(少ない)


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その他

今回は、読み物的な書の掲載を見送った。

2001年現在までに発行されているクモ関連の書籍については、
『高橋登2001:20世紀のクモの本追記、Kishidaia、No.81、p.22-26』に、詳しい。
上記ページへは、谷川明男さん運営サイト「クモ 西表島」→’キシダイアhttp://www.asahi-net.or.jp/~dp7a-tnkw/kishi.htm)’より’81’をクリックしてPDFファイルを閲覧することができます。

これは関西クモ研究会機関誌「くものいと」No.29に特集された「20世紀のクモの本」で紹介された87冊に、著者の推薦する30冊のクモの本を加えた計117冊が紹介されている。資料探しの際にぜひ活用して頂きたい。
2001年以降にも多くのクモ関連の書物が発行されているので、各自興味に応じて探して頂きたい。クモの本を探す際は、昆虫や多足類、さらには害虫やペットのコーナーにも目を向けて探すと、思わぬ発見をすることがある。

クモ関連の書籍に関する私見

一般にクモの本は、需要が少ないせいか絶版となってしまうことが多い。そのため、書店でも一期一会となってしまうことも珍しくはない。良いと思った本は買っておいた方が無難である。
 当たり前のことではあるが、絶版になってしまった本を読むには、図書館で借りるか古本屋で購入しなければならない。古本屋で目的の本と出会える確立はそう高くはないが、運良くみつかればしめたものである。よほど大きな図書館でなければ、クモ学の専門書(ましてや洋書となると)は蔵書されていないが、侮ってはいけないのが地方の図書館である。地方の図書館では、自然科学系の児童書の扱いで数多くのクモ関連の書籍を所蔵していることがある。これらの児童書として扱われるクモの本は、その多くに詳細な観察記録や美しい写真が掲載されているため、クモ学の入門にはうってつけであると思う。そしてこれら児童書扱いされるクモの書籍は、大学の図書館には所蔵されていない。現在では多くの公立図書館でインターネットからの蔵書検索が可能なので、一度地元の図書館で調べてみる価値はあると思う。
また、東邦大学在学中ならば、船橋市図書館の利用カードを作成できるので、こちらを利用してみるのも手である。なお船橋市立図書館の蔵書は、http://www.lib.city.funabashi.chiba.jp/から検索できる。船橋市北図書館の前館長である三沢博志さんは自然誌文献資料収集の第一人者であり、司書として多くの自然書を収集されている。新京成電鉄利用者を含め、近くの方は一度足を運んでみてはいかがだろうか。

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文献の入手について −便利な検索−

レポートの作成にあたり、文献を用いる必要が生じるかと思われるので、ここでクモ類の文献の入手方法について概説する。

クモ学の文献検索は、以下のサイトからの検索が便利である。

 このうち、jDreamでは検索結果に和訳されたAbstractが表示されるため非常に便利だが、収録数が少ない印象を受ける。CiNiiでは検索結果の一部(主に国立科学博物館関連のもの)が直接電子ジャーナルとリンクしており、PDF形式の論文が無料で入手できる。クモ学分類検索システムの検索結果は、表題や著者名などの最低限の情報のみだが、日本各地の研究団体の発表している論文を数多く収録している。
 また、http://celt.vassar.edu/suter/spiderform.htmlからJournal of Arachnologyの総目次が検索できる。その他、電子ジャーナルを扱うサイトから検索をかけても良い。
  クモ関係の論文が掲載されている雑誌は、残念なことに本校の図書館にはあまり所蔵されていない。しかし、一部の雑誌は電子ジャーナル化されており、インターネットを利用して入手することが可能である。東京蜘蛛談話会誌Kishidaiaは72号から最新号までをhttp://www.asahi-net.or.jp/~dp7a-tnkw/kishi.htmから入手できる。また各種情報はARACHNOLOGY http://www.arachnology.be/Arachnology.htmlから入手することが可能である。
 図書館に所蔵されておらず、電子ジャーナルでも見つからない場合、論文を取り寄せることになる。在学中は図書館の蔵書検索画面「Toho University Media Center Catalog」 http://lib.toho-u.ac.jp/opac/opac_search.cgi のリクエストサービスから申し込むことが可能である。文献の料金は後払い(着払い)であるため、届くまで料金が分からないので注意。やる気次第では研究室からの支払いとすることも可能である。詳細は要相談。

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クモに関するリンク集


URL サイト紹介
THE ARACHNOLOGY HOME PAGE
http://www.arachnology.be/Arachnology.html
クモに関する情報を幅広くリンクしている
(英文)
Arachnological Society of Japan
http://www.asahi-net.or.jp/~hi2h-ikd/asjapan/
日本蜘蛛学会の公式HP(試用版)
学会の歴史や入会案内など
Tokyo Spider Study Group
http://homepage3.nifty.com/~hispider/tss1.htm
東京蜘蛛談話会HP
クモ関連のTOPIXや東京クモゼミ報告など、Kishidaia、Acta arachnologica、Atypusの総目次や、クモ生理生態学事典へのリンクあり
クモと西表島に関する各種情報
http://www.asahi-net.or.jp/~dp7a-tnkw/
谷川明男さんのHP
沖縄クモ図鑑(画像つき)、日本・神奈川・沖縄の目録、Kishidaia、(東京蜘蛛)談話会通信、遊絲(日本蜘蛛学会ニュースレター)の一部がPDFファイルで公開されている。また谷川流近似種同定術として、ツリガネヒメグモ属、アシブトヒメグモ属、サヤヒメグモ属、シロカネグモ属、アシナガグモ属の同定のポイントが図説されている。
加村研究室
http://www.res.otemon.ac.jp/~kamura/index.html
追手門(おてもん)学院大学人間学部社会学科の加村隆英先生のHP
日本産ワシグモ科の同定の手引きなど。
Jumping Spider Study Center of Japan
http://www.ne.jp/asahi/jumpingspider/studycenter/
池田博明先生のHP
ハエトリグモ科の各種情報、日本産アリグモ属の各種について、詳しい図説がある。
実用クモ検定に挑戦してみては?
J-S-P-G クモの写真館
http://www.bltz.jp/jspg/
グラフィックデザインユニット「ブリッツ」の HP
ハエトリグモ科を中心に美しい写真が掲載されている。
「私の蜘蛛写真集から」
http://www.asahi-net.or.jp/~vp6m-bn/
伴満(ばん・みつる)さんのHP
日本産のクモが写真で紹介されている。
但馬(たじま)のクモ図鑑
http://brookspider.hp.infoseek.co.jp/
兵庫県北部の但馬地方のクモを紹介したHP
掲示板あり
ささがにの郷ビオトープ研究所
http://mirukashihime.cool.ne.jp/biotop/
八幡明彦さんのHP
クモと環境について詳しい
虫めづる
http://www.cyberoz.net/city/sekine/MMZ.htm
せきねみきおさんのHP
キッズ版として「くもの図鑑」、「くものあみなど」などがある。「くもの図鑑」は「クモ基本50」と同様に、季節ごとにクモを扱っているため、調べやすい。また「くものあみ」には各種の網の写真が掲載されている。子供向けの言いまわしだが、専門的な知識が簡潔に語られている。キッズ版とういうよりは、入門版とすべきであろう。

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千葉県の保護上重要なクモ類

絶滅の危険がある種 − 生息場所が限られており、開発等の環境変化で絶滅の危険がある種

名称 ランク 千葉県内の生息地 特記事項
カネコトタテグモ 市川、船橋、佐倉 今後、千葉県南部からの発見がなければ、その分布は地史との関係があると思われる。
キシノウエトタテグモ 内浦山、柏、佐倉、市川、千葉 東邦大学構内にも分布
ワスレナグモ 習志野、柏 習志野の分布は東邦大学構内からのもの
キノボリトタテグモ 鴨川、千葉、清澄山、八千代、山倉ダム、内浦山 実習地周辺からも採集される可能性がある。コケの生えた老木に注目して探す。
コケオニグモ 柏、高宕山、佐倉 全国的な希産種。実習地周辺からも採集される可能性がある。コケイロオニグモと称されるオニグモの苔色型色彩変異個体との混同に注意。
キヌアシナガグモ 内浦山、小櫃川、清澄山 渓流環境に生息
【ランク】 A:最重要保護生物 B:重要保護生物 C:要保護生物 D:一般保護生物
評価基準

減少が続いている種 − 県内での分布域が狭まり、減少が続いている種

名称 ランク 千葉県内の生息地 特記事項
ナカムラオニグモ 北部を中心に分布 分布の南限は、平均気温15度の線に一致(ナカムラオニグモ線)し、県内では千葉市や富津市などがその地域にあたる。
オニグモ ほぼ全域 身近なところに生息するクモであるが、都市化とともに急激に減少している。
コガネグモ ほぼ全域 草原面積の減少により、都市部周辺から姿を消しつつある。
【ランク】 A:最重要保護生物 B:重要保護生物 C:要保護生物 D:一般保護生物
評価基準

 なおこれらの詳細については、『千葉県環境部自然保護課2000:クモ類.「千葉県の保護上重要な野生生物」―千葉県レッドデータブック―動物編:315-321.』を参照して頂きたい。

詳細については千葉県庁ホームページ内
 ”「千葉県の保護上重要な野生生物 - 千葉県レッドデータブック - 動物編」の発行について”より
「千葉県レッドデータブック共通評価基準及びカテゴリー」をご覧下さい。

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発見次第報告してもらいたい種

以下に示す種を発見したら、至急連絡願います。 連絡先

これらの種は生態学的知見も少ないため、発見した場合は捕獲せず(液浸にしたら許しませんよ)に観察記録をとってください。

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クモ目録の作成にあたって

 クモ学の発展とともに、目録の書式も変化している。かつての目録は「どこになにがいたか」という情報のみを示したものが主体だったが、現在では「いつどこにどの成長段階でいたか」という情報が求められるようになってきている。
 これまでに発表された目録は、図書館やインターネット上から入手が可能であるが、古いものから新しいものまで混在しているため、どれを参考とするか迷うことと思う。そこで、以下に現在クモ目録を作成する上での最低限の知識を記す。現在の書式は変更の余地のない完璧なものではない(と思う)ので、これ以上の部分については各々の創意工夫により、より良い目録の作成を目指して頂きたい。

科、種の配列については最新版のカタログを参照する。

日本のクモ目録においては日本産クモ類目録 http://www.asahi-net.or.jp/~dp7a-tnkw/ が良い。

学名についても最新のものを用いる。

目録には属名、種小名のみではなく、命名者名、年号も記述することが望ましい。

雌雄および成長段階は以下の記号を用いて標記する。

雌成体=F、雄成体=M、雌判別可能幼体=f、雄判別可能幼体=m、幼体=y、卵のう=e

“sp.”は特定の分類群内の一種であることを示し、“spp.”は特定の分類群内の複数種であることを示す。

例えば、採集されたクモがゴミグモ属のある一種である場合はCyclosa sp.とし、ゴミグモ属の複数の種をまとめて扱うときはCyclosa spp.とする。その他学名については平嶋義宏2002:「生物学名概論」、東京大学出版会、249pp.に詳しい。

目録を学術誌に投稿する場合は、成体の採集された種についてのみ記し、幼体のみ採集された種は載せない(幼体での正確な同定は難しく、また偶産種の可能性もあるため)。

自力での同定が不可能である種は、専門家に同定を依頼し、論文中にその旨を記す。ただし今後の研究のためにも、レポートには幼体やsp.扱いとした種も載せて頂きたい(今回の調査は9月中旬のクモ相についての情報であり、今回幼体のみ採集された種に関する情報も、今後の採集の指針を立てる上では非常に有用であるため)。

引用文献の書き方にはいくつかの書き方があるので、実習の手引き(1年次に配布されたもの)や他の論文を参考にして記す。

どのように記すにしろ、論文(レポート)の読者が引用文献に興味を持った際、それを入手するための最低限の情報が記されていなければならない。

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KISHIDAIA投稿規程

  1. 投稿資格は本会会員とする。ただし、共著者には、会員以外の者を含むことができる。依頼原稿については、本会会員でなくとも、運営委員会の承認があればよい。
  2. 投稿内容は、クモや東京蜘蛛談話会に関しての論文、解説、記録、紀行文、感想などとする。
  3. 原稿の採否については、運営委員会にて決定する。また、原稿に対して加筆・削除・訂正などをお願いすることがある。
  4. 貢数は図表を含めて、刷り上がり8貢以内とし、超過貢分は著者負担となる。ただし超過貢分の代金を徴収しない場合があり、別項に記す。超過貢代は1貢につき2、500円とするが、印刷費の変更等により金額が変わることがある。
  5. 特別な費用を要する印刷は、その実費を著者負担とする。
  6. 別刷りは50部単位で作成するが、その費用は全額著者負担とする。
  7. 論文の著者校正は1回だけとする。DRAGLINESなど短文の場合は著者校正を省略する場合がある。

■超過貢分を徴収しない場合

補1)談話会活動報告(観察会報告・合宿報告など)は超過貢代を取らない。
補2)各県別目録を積極的に掲載する方針が1997年4月の総会で確認され、主旨に沿う原稿に関しては超過貢代を取らずに掲載する。
補3)その他運営委員会で認めたもの。

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