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第125回鳥島オキノタユウ調査報告(最終回)

オキノタユウは島内の3区域で営巣し、繁殖つがい数は1,000組を超え、繁殖集団は年率9.12%で指数関数的成長。鳥島集団は完全な回復軌道に乗る!

 からまで、第125回鳥島オキノタユウ調査を行ないました。鳥島にはに上陸し(42年前に初めて鳥島に近づいて沖の海上から従来コロニーを観察した日と同じ)、まで28日間滞在しました。例年に較べて、今年は雨や強風の日が多く、穏やかな日はだけでした。この調査の結果を報告し、鳥島集団の将来を予測します。

繁殖つがい数とカウント数

 繁殖つがい数を確定し、各コロニーとその周辺に滞在していた個体数をカウントした結果を、表1にまとめました。

表1.鳥島のオキノタユウ集団 : 2018年11-12月期のセンサス結果
つがい数とカウント数(平均と標準偏差、最大・最小)を示す。
調査日数は、北西斜面で11日、燕崎斜面とその崖上、鳥島全体では6日。
  従来コロニー 新コロニー 鳥島全体
燕崎斜面 燕崎崖上 北西斜面
繁殖つがい数(組)
563
59
389
1011
前年比
+25
+17
+48
+90
増加率
+4.6%
+40.5%
+14.1%
+9.8%
カウント数
(羽)
平均
846.7
118.5
637.3
1605.5
前年比
+32.7
+33.7
+82.7
+150.3
増加率
+4.0%
+39.7%
+14.9%
+10.3%
標準偏差
25.7
12.7
20.8
50.2
最大
875
127
666
1645
最小
811
94
603
1523
若年個体の割合(%)
51.6
86.6
80.8
65.9

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 鳥島には3区域にコロニーがあります。そのうち、燕崎斜面の従来コロニー(写真1)では563組が産卵し、昨シーズンから25組、4.6%増加しました。この従来コロニーのうち西地区(写真1の右上写真23)では、2017年の泥流に浸食された区域(写真2の左端)で、繁殖つがい数が昨シーズンから4組減少して40組、泥流の影響を受けなかった区域では16組増えて356組、結局、西地区では12組増加して、つがい数は396組でした。
 また、東地区では、泥流の影響を受けた旧区域(写真1の左上写真4)でつがい数が昨シーズンより11組も減少し、泥流の影響を受けなかった上側の新区域(写真1の中央下)では24組増えて、この区域全体では13組増の167組でした。
 急傾斜の燕崎斜面にある従来コロニーでは、以前に発生した泥流の影響が残っています。

▼写真1 燕崎斜面にある従来コロニー(2018年11月24日)
2018年には泥流が発生しなかった。

▼写真2 従来コロニー西地区の俯瞰(2018年11月24日)
崖下にある区域には泥流が流れ込まない。

▼写真3 従来コロニー西地区(2018年12月3日)
手前は、2017年秋に発生した泥流の跡で、大きな石が残っている。

▼写真4 従来コロニー東地区の従来区域の上部(2018年12月3日)
かなり急傾斜な斜面に営巣している。手前は泥流の跡。

 一方、広くてなだらかな北西斜面の新コロニーでは389組が産卵しました(写真5)。昨シーズンより48組、約14%の増加です。この新コロニーは、デコイと音声による誘引の結果、2004年に4組のつがいが産卵して、確立しました。それからわずか14年間で、鳥島全体の38%を占めるまでに急成長しました。これは、1)従来コロニーから巣立った若い個体が、飽和状態に近づいた従来コロニーから、この新コロニーに移入していること、2)従来コロニーに較べて、この新コロニーでは繁殖成功率が約10%高いこと、のためです。

▼写真5  北西斜面の新コロニー(2018年12月6日)
ここは、1930年代にサツマイモ が栽培された畑の跡で、平らな場所に鳥たちは丈夫な巣を造っている。この周囲はなだらかな斜面で、営巣に適した広大な空間がある。

 また、燕崎斜面の崖上にある平らな場所に2004年に自然に形成された新コロニーでは59組が産卵し、昨シーズンより17組、約40%も増加しました。この区域の大部分は火山砂の裸地で、ハチジョウススキやイソギクなどの植生がまばらに生育しています(写真6)。オキノタユウは草丈の高いハチジョウススキの草むらの中やその側で営巣しています。この新コロニーは、2012年まで繁殖つがい数は10組以下でしたが、2016年から急に増え始め、3年目で50組を超えました。この原因は、1)ハチジョウススキの生育がよくなり、好適な営巣場所が供給されたこと、2)繁殖つがい数が多くなり、繁殖前の若い個体に対する誘引効果が高まったこと、3)燕崎斜面の従来コロニーで営巣していた、あるいは営巣を試みていた個体が、2017年の大泥流の影響を受けて、止むなくすぐ上にあるコロニーに移動してきたこと、などでしょう。

▼写真6 燕崎の崖上にある新コロニー(2018年11月26日)
平らで広い区域だが、植生はまばらである。そのため、強風や強雨の影響を受けて、ここでの繁殖成功率は大きく変動する。この区域のあちこちから、1930年代に捕獲された鳥たちの骨が見つかる。かつて、この一帯にかなり大きなコロニーがあった。植生が適度に回復すれば、大きなコロニーが形成されるだろう。

 結局、鳥島全体の繁殖つがい数は少なくとも1,011組で、昨シーズンより90組、約10%増えました。ついに念願の1000組に到達しました。

 それぞれの区域でカウントした個体数は、燕崎斜面で平均846.7羽(昨年から32.7羽、4.0%の増加)、北西斜面637.3羽(82.7羽、14.9%の増加)、燕崎崖上では118.5羽(33.7羽、39.7%の増加)でした。鳥島全体でカウントされた個体数は、平均1605.5羽で、昨シーズンより150.3羽、10.3%の増加でした。また、カウント数の最大は1645羽で、昨年より121羽、7.9%の増加でした。カウント数と繁殖つがい数の増加傾向はほぼ同じでした。

 抱卵期にコロニーに滞在している個体は、卵を抱いている親鳥や再婚中の成鳥、繁殖前の若い個体からなります。それらの若い個体の多くは数年後に繁殖年齢に達します。したがって、カウント数の傾向から繁殖つがい数の傾向を予想することができます(経験的には、カウント数は約5年後の繁殖つがい数の目安になる)。

 表1には、各コロニーの個体のうち黒褐色の羽毛を残している比較的若い個体(おおむね10歳以下)の割合(各日の割合を平均した値)を示しました。燕崎斜面の従来コロニーでは、若い個体が占める割合はおよそ半分で、カウント数、つがい数とも昨シーズンから4〜5%の増加でした。若い個体が少ない従来コロニーでは、今後、つがい数はわずかに増えるだけで、2年後の2020年にはおよそ600組になるでしょう。

 それに対して、北西斜面の新コロニーでは、若い個体の割合が8割に上り、昨シーズンからのつがい数、カウント数の増加率が14〜15%でした。燕崎崖上の新コロニーでも、若い個体の割合が最も高く9割近くで、つがい数、カウント数と増加率とも最も高く約40%でした。したがって、これらの2つの新コロニーは今後も急速に成長すると予想され、2年後の2020年には、北西斜面の新コロニーは約500組になり、崖上の新コロニーは約100組に達すると予想されます。そして、鳥島全体では2020年に約1,200組になるでしょう。

鳥島集団の今後

  1979年からこれまで、鳥島集団の繁殖状況(繁殖つがい数と巣立ちひな数、繁殖成功率)を継続調査してきました。乱獲による個体数減少から回復の過程にある鳥島集団は、この40年間に平均して年率7.77%で指数関数的に成長してきました。これは9.26年でつがい数が2倍になることを示します。この期間を前期(1979-1991年)、中期(1992-2004年)後期(2005-2018年)の3期に分けて、平均の繁殖成功率と集団の成長率を比較しました(表2)。

表2.前期・中期・後期の別にみた鳥島集団の繁殖成功率と成長率
期間 年数 繁殖成功率
(%)
年成長率
(%)
倍加期間
(%)
前期 1979-1991
13
55.14
6.51
10.99
中期 1992-2004
13
59.03
6.93
10.34
後期 2005-2018
14
68.14*
9.12
7.94
全期間 1979-2018
40
60.77*
7.77
9.26
*繁殖成功率:後期は2005年から2017年までの13年間の平均、全期間は1979年から2017年までの39年間の平均。

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 従来コロニーの保全管理工事によって、前期から後期へと繁殖成功率が大幅に改善し、それにともなって集団の成長率が上昇しました。最近の14年間をみると、成長率は毎年9.12%で、倍加期間は7.94年です。また、繁殖つがい数が1,000組に到達した段階でも鳥島集団は指数関数的に成長していて、個体数が増えたことによる増殖への抑制効果はまったく現れていません(相互干渉によって繁殖成功率が下がり、その結果として増加率が低下する)。理論的分析(ロジスティック・モデル)の結果、鳥島集団の成長の上限(K)は、少なくとも10,000組を超えると考えられます。したがって、今後10年間くらいは現在の成長率が維持され、8年後の2026年につがい数が2,000組を超えることは確実です。また、2018年の5月に鳥島集団の総個体数が推定で5,165羽になったので、2026年には10,000羽になると予測されます。

 新コロニーが確立した2004年から昨シーズンまでの14年間の平均繁殖成功率は、燕崎斜面で65.7%、燕崎崖上で57.3%、北西斜面で75.3%でした。これらの数字は、北西斜面がオキノタユウの繁殖に最も適していることを示します(写真7)。今後、営巣場所が不足することのない、なだらかで広い北西斜面でコロニーが成長するにつれて、鳥島集団全体の繁殖成功率はさらに改善し、いずれは燕崎斜面と北西斜面の中間にあたる70%程度になると期待されます。そうすれば、鳥島集団の成長はさらに加速するはずです。鳥島集団は完全に回復軌道に乗ったといえます。

▼写真7 従来コロニー西地区の泥流跡の巣(左)と北西斜面の新コロニーの巣(右)の比較
斜面の泥流跡に造られた巣は浅い窪みがあるだけで、ちょっとしたことで卵が巣から転がり出てしまう。抱卵期間が64〜65日と長いので、その間に強風や突風によって卵の転落事故が起こりやすい。それとは対照的に、新コロニーの巣は平らな場所にあり、周囲から土や枯れ草を引き込んでマウンド状になっていて、卵は転がり出ない。また、周囲より高くなっているので、雨水が侵入しない。こうした巣の構造の違いが、従来コロニーと北西斜面の新コロニーの繁殖成功率の差をもたらしていると考えられる。

鳥島集団の将来予測

 以上の集団統計資料にもとづいて、鳥島集団の将来を大胆に予測します。

1)5年後の2023年には繁殖つがい数が1,500組を超え、その繁殖期以降は毎年1,000羽以上のひなが巣立つ。

2)毎年1,000羽以上にひなが巣立つようになると、そのうちの何羽かは小笠原諸島聟島列島に自発的に移住し、小笠原諸島集団の成長を促進する。

3)鳥島集団の総個体数は、2026年に約10,000羽になり、2030年代の半ばに約20,000羽に達する。

4)2040年ころ、鳥島集団の繁殖つがい数は約5,000組になる。

5)2050年ころ、鳥島集団は数万羽になり、伊豆・小笠原諸島海域や本州太平洋沿岸沖の海上でオキノタユウは普通に見られるようになる。

6)もし、繁殖地である鳥島の陸上環境や採食場所である海洋環境が大きく変化しなければ*、50年後には鳥島集団の繁殖つがい数は約2万組に増え、総個体数は10万羽を超える。

*鳥島で火山の大規模な噴火が起こらず、鳥島近海で油濁事故が起こらず、プラスチック類による海洋汚染が進行せず、漁業との相互作用(混獲や食物をめぐる取り合い)が軽減され、気候変動による海洋環境の変化がない場合。

 

おわりに(謝辞)

 2018年5月に鳥島集団の総個体数が5,000羽を超え(第124回調査報告)、2018年11-12月の調査(今回)で繁殖つがい数が1,000組を超えたことを確認し、ついにぼくの目標は達成されました。これを機に、ぼくは鳥島での野外調査に終止符を打ち、“現役”を引退することを決めました。したがって、今回が最後の報告になります。

 まだ28歳だったぼくは、に京都を発って伊豆大島に向かい、に東京都水産試験場大島分場(当時)の漁業調査指導船「みやこ」に乗船して波浮港を出航しました。翌に初めて鳥島に近づき、海上からオキノタユウの営巣コロニーを観察しました。このとき68羽をカウントし、繁殖つがい数をごくおおまかに40〜45組、総個体数を150〜200羽と推測しました。それから42年が過ぎて70歳になり、約1,600羽をカウントし、「1,000組、5,000羽」到達を確認しました。ついに“オキノタユウの再生”という夢を叶えることができました。鳥島のオキノタユウ集団は40年間で約20倍に増えました。また、1951年1月に少数の個体の生存が「再発見」されてから5,000羽に回復するまでに、67年が経過しました。

 この間に、ぼくが航海した総距離は約101,750 kmになりました(鳥島までの距離は東京から約600km、八丈島から約300km)。これまで何回も船酔いに苦しんだので、地球2周半分も航海したことに自分でも驚いています。また、鳥島オキノタユウ調査に費やした総日数(出張期間の合計)は2,680日で、7.34年分に相当します。つまり、約17.5%の時間、言い換えると6日間のうちの1日を鳥島調査に使ったことになります。

 このように長期にわたる野外調査を継続できたのは、東邦大学理学部のお陰です。第2回調査(1977年3月)の直後、幸運にも、ぼくは生物学科海洋生物学研究室の助手(教員)として拾われ、調査研究をつづける機会を与えられました。勤務地は千葉県船橋市で、鳥島に出かけるのに非常に便利な場所でした。そして、同僚教員のみなさんの寛大な理解と学部の調査旅費予算や出張旅費などに支えられて、定年退職するまで37年間にわたって、保全研究の核となる繁殖状況の監視調査を継続することができました。

 また、1,000名を超えるみなさんから「アホウドリ基金」にご協力をいただき、その資金によって、新コロニー形成のため必要なデコイの不足分を補うことができただけでなく、環境省が従来コロニー保全管理工事を終了した後、2005年から2009年、2013年と2015年に、その補完作業(きめ細かな植栽や崖上の土留堰堤の補修、堆積土砂の除去)をすることができました。さらに、在職中や退職後の調査も可能になりました。

 これまで、ほんとうに多くの方々から激励やご協力、さまざまな方法でのご支援をいただきました。心から感謝いたします。それから、オキノタユウ再発見50周年にあたる2000-01年の繁殖期から始めた、この「鳥島報告」をお読みくださり、どうもありがとうございました。

 

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