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からまで、第123回鳥島オキノタユウ(アホウドリ)調査を行ないました。11月半ば過ぎ、例年より早く日本列島に寒気が到来して海が荒れたため、八丈島で10日間待機して、ようやくに出帆し、に鳥島に到着・上陸して、まで14日間滞在しました。
従来コロニーがある燕崎斜面では、2016年10月に泥流が発生し、斜面中央の排水路に大量の土砂が堆積しました。その結果、従来コロニー東地区の大部分は周囲より低くなり、オキノタユウにとって離着陸に不便になったばかりでなく、泥流流入の危険性が増しました。また、強風や突風によって堆積土砂の表面から吹きとばされた砂塵が抱卵中の親鳥を直撃し、繁殖を失敗させる可能性が高まりました(第121回、122回調査報告を参照)。
さらに、2017年の夏から秋に、おそらく台風の大雨によって、鳥島の頂上部から多量の土砂が燕崎斜面に流れ込み(写真1、2、3)、それが大規模な泥流となって海岸に達しました(写真4)。その一部は、従来コロニー西地区の辺縁部にも流入して、営巣場所を浸食しました(写真5)。この泥流は、1987年の秋に燕崎斜面上部で起こった土石流(表層崩壊)に次ぐ規模で、燕崎斜面の最上部に約4 mにも達する深い溝を形成しました。
繁殖つがい数を確定し、各コロニーとその周辺に滞在していた個体数をカウントした結果を、表1にまとめました。
従来コロニー | 新コロニー | 鳥島全体 | |||
---|---|---|---|---|---|
燕崎斜面 | 燕崎崖上 | 北西斜面 | |||
繁殖つがい数(組) |
538 |
42 |
341 |
921 |
|
前年比 |
+2 |
+15 |
+67 |
+84 |
|
増加率 |
+0.4% |
+55.6% |
+24.5% |
+10.0% |
|
カウント数 (羽) |
平均 |
814.0 |
84.8 |
554.6 |
1455.2 |
前年比 |
+12.0 |
+31.1 |
+76.6 |
+121.0 |
|
増加率 |
+1.5% |
+57.9% |
+16.0% |
+9.1% |
|
標準偏差 |
45.9 |
3.6 |
16.4 |
62.0 |
|
最大 |
852 |
89 |
590 |
1524 |
|
最小 |
754 |
81 |
539 |
1380 |
鳥島には3区域にコロニーがあります。そのうち、燕崎斜面の従来コロニー(写真4)では538組が産卵しました。昨シーズンからはわずか2組、0.4%の増加でした。
2016年に発生した泥流の影響で、東地区のうち営巣に適さなくなった旧区域(写真4の左上)では繁殖つがい数が昨シーズンより26組も減少し、一方、泥流の影響を受けなかった上側の新区域( 写真4 と 5 の中央下 )では20組増えて、全体では6組の減少でした。また、西地区(写真4と5の右上)のうち、2017年の泥流に浸食された区域( 写真5 上の砂が流れた黒い部分 )では、つがい数は昨シーズンの46組から今シーズンは44組となり、2組減少しました。しかし、泥流の影響をうけなかった区域( 写真5 の上の草が生えている部分 )でつがい数が10組増えて、結局、西地区では8組の増加でした。
一方、泥流のおそれのない安全で広い北西斜面にデコイと音声を利用して形成した新コロニーでは341組が産卵しました(写真6)。昨シーズンより67組、約24%の大幅な増加です。このコロニーは、2004年に4組のつがいが産卵して確立してからわずか13年間で鳥島集団全体の37%を占めるまでに急成長しました。その理由は、従来コロニーから巣立った若い個体が飽和状態に近づいている従来コロニーを避けて、広くて安全なこの新コロニーに移入しているためです。
また、燕崎崖上の新コロニーでは42組が産卵し、昨シーズンより15組、約56%も増加しました(写真7)。この区域の大部分は火山砂におおわれた裸地で、ごく一部にハチジョウススキやイソギクなどの植生が生育し、オキノタユウは主に草丈の高いハチジョウススキの草むらの中やその側で営巣しています。この燕崎崖上の新コロニーは、2004年に2組が産卵して自然に形成されましたが、2012年までの8年間、繁殖つがい数は7組以下でした。しかし、2013年に10組台に乗り、2016年から繁殖つがい数が急速に増加し始めました。この原因は、1)ハチジョウススキの生育がよくなって比較的好適な営巣場所が供給されたこと、2)繁殖つがい数が多くなった結果、営巣コロニーの誘引効果が高まったこと、3)燕崎斜面の従来コロニーで営巣していた個体が、泥流によって劣化した営巣場所を放棄して、斜面のすぐ上にある崖上コロニーに移動してきたこと、などでしょう。
結局、鳥島全体の繁殖つがい数は少なくとも921組で、昨シーズンより84組、10%も増えました。
それぞれの区域でカウントした個体数は、燕崎斜面で平均814.2羽(昨年から45.9羽、1.5%の増加)、北西斜面554.6羽(76.6羽、16.0%の増加)、燕崎崖上では84.8羽(31.1羽、57.9%の増加)でした。鳥島全体でカウントされた個体数は、平均1455.2羽で、昨シーズンより121.0羽、9.1%増加しました。また、カウント数の最大は1524羽で、昨年より128羽、9.2%の増加でした。カウント数は、繁殖つがい数の増加とほぼ同じ傾向を示しました。
大規模な泥流が発生して従来コロニーの一部に流れ込んだため、従来コロニーでは繁殖つがい数がほとんど増加しなかったにもかかわらず、北西斜面と燕崎崖上の新コロニーで大幅に増加したため、鳥島全体でのつがい数は、昨シーズンに予想した905組よりもやや多い921組でした。
繁殖つがい数は、最近5年間、年率約10%で増加してきました。オキノタユウの繁殖開始年齢は平均して約7歳で、この5年間に繁殖集団に加わった個体の大部分は、2006年から2010年に生まれました。その当時、保全管理工事によって好適な営巣場所が維持され、繁殖成功率は平均して約70%とかなり高く保たれました。これは、1993年から2004年まで環境省が砂防と植栽を軸とする保全管理工事を実施し、それに引き続いて2005年から2009年まで、小笠原諸島聟島列島に再導入するひなを十分に確保するため、ぼくがその補完作業を行なって、営巣環境をきめ細かく改善したからです(もし繁殖成功率を5%引き上げることができれば、小笠原諸島に運ぶひなを確保できるばかりでなく、鳥島集団の成長を維持できると予測された)。その結果、たくさんのひなが巣立ち、多数の若鳥が生き残って繁殖地にもどり(カウント数の増加率も2009年以降の8年間の平均で約10%)、繁殖を開始して、最近のつがい数の急増となったのです。
それ以降4年間も、繁殖成功率は平均してそれ以前とほぼ同等の約69%に保たれたので、繁殖つがい数はこれから数年間、毎年10%前後で増加するはずで、来シーズンには約1010組が産卵するでしょう。
すでに述べたように、燕崎斜面の従来コロニーは飽和状態に近づいていると推測され、泥流による浸食を受けて、一部で営巣環境が劣化したため、繁殖つがい数は今後もわずかな増加にとどまり、来シーズンは540組程度になるでしょう。一方、北西斜面の新コロニーは従来コロニーからの移入によって今後も急成長し、来シーズンにはつがい数は約80組増えて、約420組が産卵すると期待されます。そして、燕崎崖上の新コロニーも今シーズンのカウント数が急増しているので、今後つがい数も急増し、来シーズンには50-60組のつがいが産卵するでしょう。これらを集計すれば、鳥島全体で繁殖つがい数が1010組余りになります。
また、今シーズンの繁殖成功率が最近2年間の平均の63%程度だとすれば、2018年5月に約580羽のひなが巣立ち、それらの幼鳥を含めた鳥島集団の総個体数は推定で約5055羽になるでしょう。
したがって、来年中に、ぼくが個人的な目標にしてきた「繁殖つがい数1000組、総個体数5000羽」に到達することは確実です。1976年11月の最初の調査から42年後の2018年11月、ついにぼくの夢が実現します!
これまで、ぼくは調査の度に頂上部の堰堤を少しずつ補修してきました。しかし、今年の秋の大雨で大半の土留堰堤が壊れてしまい、個人的な努力には限界があることを思い知らされました。今回、燕崎斜面に深い雨裂(ガリ)が形成されたので、これからしばらくの間、泥流はその溝に沿って流れ下り、営巣区域に流れ込むことはないと推測されます。
しかし、再び大泥流が発生して、頂上部から大量の土砂が燕崎斜面に流れ落ち、溝が埋まってしまった場合には、土砂が営巣区域に流れ込む可能性があります。それを避けるためには、頂上部に設置した堰堤を改修することが必要です。それには、ぼくがこれまで取り組んできたように、トリカルネットと紫外線耐性のある土嚢袋、周辺に散在する石を利用するとよいでしょう。
また、従来コロニー西地区のうち、泥流によって浸食された部分に土留を設置して土砂の流れを止め、営巣地を安定させなければなりません。これらを、国指定鳥島鳥獣保護区保全対策工事に組み込むように提案します。
今回、上陸した当日の朝、Inmarsat 社製の携帯衛星電話 IsatPhone PROの具合が悪く、まったく連絡が取れなくなりました。電波受信のレベルを示す5段階表示のうち3段階までしか上がらず、「GPS FIXができないから、電話機を開けた戸外におくように」というメッセージが表示されました。たぶん、携帯端末から発せられる電波が弱く、静止衛星がそれを受信できなかったのでしょう。鳥島の頂上部に持って行って試しましたが、同様でした。この失敗と反省をここに書きとめ、みなさんに教訓をお伝えしたいと思います。
ぼくは、1997年から2013年まで、日本船舶通信(現在 NTTドコモ)の可搬型衛星電話ワイドスターを使い、その後ワイドスターⅡにシステムが切り替わって、その端末が使用できなくなるのにともない、2014年以降、小型で持ち運びに便利なIsatPhone PROを利用してきました。それから4年近く使ってきたのですが、これまで故障はありませんでした。
今回の失敗の原因は、以前には必ず行なっていた「事前通話試験」という鉄則を怠ったことです。じつは、ぼくが居住している成田市では、緊急事以外にIsatPhone PROの使用が禁止されています。そのため、携帯端末を市街に持ち出さない限り通話試験ができないのです。その、ちょっとした労を惜しんだことがまちがいでした。また、鳥島に向けて出帆する前に、八丈島で事前点検をするべきでした。
無人島に上陸して連絡が取れなくなったことを心配した妻が警察に相談し、ぼくは「行方不明」ということになりました。そして、、安否確認のために、警視庁の大型ヘリコプターが東京からわざわざ鳥島まで来てくれました。ぼくの不注意から、みなさんに多大なご迷惑をかけてしまったことを、お詫びいたします。また、安否確認を実施してくださった警視庁八丈島警察署の方々に深く感謝いたします。