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第124回鳥島オキノタユウ調査報告

鳥島集団の総個体数がついに5000羽に到達!
 688羽のひなが巣立ち、推定総個体数は約5165羽に

  から まで、第124回鳥島オキノタユウ(アホウドリ)調査を行ないました(鳥島滞在は3月25日から5月5日まで42日間)。表1にその結果の概要を示します。

表1.伊豆諸島鳥島におけるオキノタユウの2017-18年期繁殖状況
  従来コロニー 新コロニー 鳥島全体
燕崎斜面 燕崎崖上 北西斜面
総産卵数(個)
538
42
341
921
巣立ちひな数(羽)
390
31
267
688
昨シーズンからの増減
+83
+11
+61
+155
繁殖成功率
72.5%
73.8%
78.3%
74.7%
昨シーズンからの増減
+15.2
-0.3
+3.1
+11.0

 昨年11〜12月の第123回調査で、繁殖つがい数を確定し(オキノタユウは毎年1回繁殖し、一腹1卵なので、総産卵数は繁殖つがい数に等しい)、今回の調査で巣立ち間近いひなに足環標識を装着して、巣立ちひな数を確定しました。
鳥島からの巣立ちひな数は、昨シーズンから155羽も増加して、688羽でした。地区別にみると、燕崎斜面で390羽(昨シーズンから83羽の増加)、燕崎崖上の平地で31羽(11羽の増加)、北西斜面では267羽(61羽の増加)でした。

▼写真1 燕崎斜面の従来コロニー(2018年3月28日)
小さな黒い点がひな。中央排水路の深い溝は昨年の秋に発生した泥流によって浸食された跡。斜面の上部に断崖があるので、西地区営巣地がさらに浸食を受ける可能性は低い。

▼写真2 燕崎崖上の平坦地の新コロニー(2018年4月23日)
1930年代初期まで、この一帯には大きなコロニーがあった。そこに鳥たちがもどってきた。

▼写真3 燕崎崖上の新コロニーで見つかったオキノタユウの骨(2018年4月23日)
1939年の噴火による火山灰が骨の上に堆積していたが、80年近い間に風によって火山灰が少しずつ吹き飛ばされて、これらの骨が露出した。これらは人間による大量捕獲の跡を示す。

▼写真4 北西斜面の新コロニー(2018年3月26日)
平らな場所で、マウンド状の丈夫な巣を造って繁殖している。

 繁殖成功率(総産卵数に対する巣立ったひなの割合)を地区別に比較すると、燕崎斜面では72.5%、燕崎崖上では73.8%、北西斜面では78.3%と、どの地区でも高く、鳥島全体では74.7%で、過去38年間(1979-80 〜 2017-18年繁殖期)の最高を記録しました。
 燕崎斜面の従来コロニーは東・西2地区に分かれます。西地区からの巣立ちひな数は276羽で(昨シーズンより37羽の増加)、繁殖成功率は71.9%でした(8.3ポイント改善)。西地区の中央排水路側は、昨年の産卵期の前に発生した泥流に浸食されました。この浸食によってできた溝の手前側の区域で、約20組のつがいが産卵しましたが、ここで育ったひなは6羽(約30%)だけでした。もし、泥流がなかったら、 西地区の繁殖成功率はもう少し高かったはずです。一方、東地区からは114羽のひなが巣立ち、繁殖成功率は74.0%でした(31.5ポイント改善)。

▼写真5 西地区(2018年3月28日)
手前は2017年秋に流れた泥流の跡。直射日光に照らされて地面の温度が上昇したため、暑さを避けて、成鳥や若鳥は海に出ている。ひなは太陽を背にして座り、体温の上昇を防いでいる。

▼写真6 西地区(中央排水路の上側)と東地区の新区域(排水路の下側)(2018年3月28日)
濃い緑色の部分はラセイタソウ、淡い緑色はイソギク、黄色みを帯びた部分はチガヤやシバが生育している。

▼写真7 東地区の従来区域の上部(2018年4月1日)
かなり急傾斜の斜面で営巣している。

 東地区はさらに、従来区域と2004年に大規模な泥流が発生した後にその上側に形成された新区域に分けられます。この新区域では、2005年に初めて6組のつがいが産卵し、その後、継続して植栽作業を実施した結果、繁殖つがい数が着実に増加し、今シーズンは86組が産卵して68羽が巣立ち、繁殖成功率は79.1%でした(13.9ポイント改善)。
 一方、従来区域の西側にある中央排水路の下部には、しばしば発生する泥流によって運ばれた土砂が堆積して盛り上がりました(第121回調査報告参照)。その結果、鳥たちにとって従来区域は離着陸に不便になり、また、南西側から強風・突風が吹き荒れたときには、その表面の砂が吹き飛ばされて発生する小規模な砂嵐の直撃を受けます。さらに、この区域が浅い凹地となったため風が通らなくなり、太陽が照りつける日には地面付近には熱がこもるようになりました。4月半ば過ぎになると、この区域の下部にいたひなは堆積土砂の尾根の部分に移動し、適度の風にあたって暑さを避けていました。
 鳥たちは風に吹きさらされる場所を好むようです。そうした場所は、離着陸に便利で、大雨のときでも水が流れ込まず、太陽が照りつけても熱がこもらないからでしょう。
 こうして従来区域の営巣環境が劣化し、今シーズンの繁殖つがい数は前年よりさらに26組も減少して68組でした。2004年にはこの区域で122組が産卵したので、半分近く(44%)減少したことになります。そして、巣立ったひなの数は46羽で、繁殖成功率は68.6%でした(昨シーズンが26.6%と最悪だったため、42.0ポイントの大幅改善)。
 今シーズン、鳥島全体で688羽のひなが巣立った結果、鳥島集団の総個体数は推定で約5165羽になりました(1〜6歳の若鳥が推定2221羽、7歳以上の成鳥は推定2256羽)。ついに、ぼくの個人的目標である「総個体数5000羽、繁殖つがい数1000組」の一方が達成されました。

鳥島集団の将来

 最近10年間、鳥島集団の繁殖つがい数は平均して年率 9.13%で増加してきました(最近5年間にかぎると、平均年増加率は11.3%)。また、約4年先の繁殖つがい数の増加傾向の指標となる抱卵期(11〜12月)のカウント数は、最近8年間、平均して年率10.1%で増加してきました。したがって、来シーズンに繁殖つがい数は、昨シーズンの921組から約10%増加して、1010組前後になると十分に予測されます。2018 年11〜12月には繁殖つがい数が間違いなく1000組に到達し、ぼくの個人的目標が完全に達成されるでしょう。
 さらに、これまでの鳥島集団の統計資料にもとづいて将来を展望してみましょう。1979年以降の38年間、鳥島集団は年率7.72%で指数関数的に成長してきました。これは、言い換えると9.32年で集団の個体数が倍加することを示します。とくに最近10年間をみれば、倍加期間は7.93年となります。この10年間の繁殖成功率は平均で68.7%に維持されましたが、その前の10年間の繁殖成功率は平均で65.3%でした。オキノタユウの繁殖開始年齢は平均で約7歳なので、繁殖成功率の成否は7年後の繁殖つがい数に影響を及ぼします(成鳥や若鳥の死亡率が大きく変動しないなら、今年巣立った688羽のひなが繁殖年齢になる2024年の繁殖つがい数はほぼ決まっていて、1550組程度になる)。このことから、今後、この倍加期間は少し短縮し、9年程度になると推測されます。
 鳥島の北西側にはオキノタユウの営巣に適したなだらかな斜面が広がっていて、彼らが営巣コロニーを拡大するスペースは十分に残っています。したがって、鳥島集団は個体数の増加にともなう負の影響(こみ合いにともなう相互干渉によって繁殖成功率が低下し、成長率が低下する)を受ける可能性はほとんどなく、少なくとも今後20年間は指数関数的に成長するはずです。そうであれば、繁殖つがい数は9年後の2027年に約2000組、2030年代半ば過ぎには約4000組になり、総個体数は2026年に約10000羽、2030年代半ば過ぎに約20000羽になると予測されます。また、鳥島では、2026年に約2500羽、2030年代半ばには約5000羽が見られるようになるでしょう。
 調査研究を開始した当時、鳥島集団の総個体数は200羽未満と推測されました。それから41年経過して、ようやく5000羽まで回復しました。しかし、これからは9年間で5000羽増え、その次の9年間でさらに10000羽増える見込みです。鳥島のオキノタユウ集団はもはや絶滅の危機からは完全に脱却し、復活・再生への確かな道を歩み始めています。

第124回
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