掲載:2006年1月19日
2005年11月20日から12月4日まで、第91回鳥島アホウドリ調査を行ない、繁殖つがい数を確定しました。表1に、地区別の産卵数を示しました。
| 営巣区域 | つがい数  | 
    昨年比        | 
    繁殖成功率  | 
  ||
組  | 
    組  | 
    (%) | 以前 
    1997-2003  | 
    前年 2004  | 
  |
| 従来コロニー | |||||
燕崎西地区  | 
    213組  | 
    +39組  | 
    (+23%) | 65.1%  | 
    65%  | 
  
燕崎東地区  | 
    93組  | 
    -29組  | 
    (-24%) | 70.3%  | 
    28%  | 
  
小計  | 
    306組  | 
    +10組  | 
    (+ 3%) | 67.3%  | 
    50%  | 
  
| 新コロニー | |||||
燕崎崖上平坦地  | 
    4組  | 
    + 2組  | 
    (+100%) | -  | 
    0%  | 
  
北西斜面  | 
    15組  | 
    +11組  | 
    (+275%) | 85.7%  | 
    100%  | 
  
小計  | 
    19組  | 
    +13組  | 
    (+217%) | -  | 
    67%  | 
  
鳥島全体合計  | 
    325組  | 
    +23組  | 
    (+7.6%) | 67.4%  | 
    50%  | 
  



今シーズン、従来コロニーの東地区では繁殖つがい数が激減しました。燕崎のなだらかな尾根の上にある東地区は、抱卵期から育雛期前半に南西からの強風にみまわれ、ここで営巣したつがいの繁殖成功率は28%に下落しました(第89回調査報告を参照)。とくに、突風や砂嵐をまともに受けたと推測される東地区上部の西側部分に営巣したつがいはほとんど繁殖に失敗しました。
おそらくこのため、ここで営巣していたアホウドリつがいは営巣場所を放棄し、他の場所に移動したと考えられます。それらの大部分は崖下にあって強風の影響を受けなかった西地区に、残りは東地区の上側の斜面に営巣場所を移したと推測されます。東地区の上側の斜面では、これまで10〜15組のクロアシアホウドリだけが営巣していました。しかし、2005年4月に初めてアホウドリの求愛行動が観察され、2005年11月に6組のつがいが初めて産卵しました。それらのうち5組は全身白色の成鳥で(抱卵していた片方の親だけしか観察できませんでしたが)、明らかに初産卵のつがいではなく、他の場所から移動してきたと考えられました。この区域を除くと、従来の東地区では繁殖つがい数は122組から87組へと、35組、29%も減少したことになります。
今後、もし東地区に定着する若鳥が少なければ、ここでの繁殖つがい数はしだいに減少するでしょう。しかし、東地区は以前には繁殖成功率が平均70%ときわめて高く、好適な営巣地でした。この区域の西側に強風や砂嵐を防ぐためにチガヤを植栽すれば、いずれ若鳥が定着して、繁殖つがい数が増えるにちがいありません。



燕崎の崖上にある平地では、昨シーズンから2組増えて4組が産卵しました(表1)。ここではアホウドリの営巣場所となっているススキ群落がきわめて疎らで、ほかに好適な営巣場所がないので、繁殖つがい数は約10組が上限でしょう。
鳥島北西斜面の中腹にある新コロニーでは、4組から15組へと繁殖つがい数が急増しました。この新コロニーでは、滞在中8日間の観察の結果、日没時に平均34.4羽(標準偏差4.3羽、幅25〜40羽)が滞在していました。この数は、昨年同時期より18羽、また2005年春より7羽も多く、従来コロニーから新コロニーへの若い鳥の移入がさかんになっていることを示します。
従来コロニーの保全管理工事が成功し、1998年春以降、毎年100羽以上のひなが巣立つようになりました。それらが成長して繁殖地に帰ってきたため、従来コロニーが混み合ってきました。そのため、繁殖年齢前の若い鳥が混雑を避けて、新コロニーへと移ってきていると考えられます。もしそうであれば、新コロニーで産卵するつがい数は今後も増えるはずで、来シーズンにはおよそ25組、2007年には35〜40組となると期待されます。
 この新コロニーの場所は、かつて人間が造成した畑地であるため、平坦で安定しています。
  そのため、繁殖成功率は平均79%(14個の卵から11羽のひなが巣立った)と高く、2006年5月には11〜12羽のひなが巣立つと期待されます。そして、それらが数年後には北西斜面に戻ってきて繁殖活動を始め、さらに従来コロニーからも若い鳥が移ってくるので、この新コロニーは急速に成長すると予測されます。2010年には疑いなく50組を超え、さらに鳥島全体で約1000組のつがいが繁殖するようになると予測される15年後の2020年には、それらの半数以上がこの北西斜面で繁殖するようになり(燕崎の従来コロニーは450〜500組が上限と推測)、新コロニーと従来コロニーとで繁殖集団の勢力が逆転するでしょう。
    また、新コロニーで繁殖するつがいの繁殖成功率は高いので(表1)、アホウドリは繁殖能力を最大限に発揮し、これまで以上に急速に個体数を増やしてゆくと期待されます。
鳥島全体では、325組のつがいが産卵し(昨年比7.6%の増加)、繁殖集団は順調に増加しています。この繁殖つがい数から、2005年11月時点の繁殖集団(7歳以上)の大きさを推定すると813羽となり(325x2÷0.8=812.5)、6歳以下の繁殖年齢前集団の大きさは860羽で(各年の巣立ちひな数に年生存率95%を掛けて総和)、鳥島集団の総個体数は、およそ1675羽と推測されます。
もし、今シーズンの繁殖成功率が近年の平均値の65%だとすれば、2006年5月には210〜15羽のひなが巣立ち、鳥島集団の総個体数は推定で約1850羽になるでしょう(11月から5月までの半年間に35〜40羽が死亡する)。
さらに、来シーズンの繁殖つがい数は鳥島全体で350〜360組になると予測されます。
