後藤先生の徒然日記

発見!! 寿命4ヶ月のカメレオン (2008年9月19日)

 9月も半ばともなると猛暑の夏にあれほど騒がしかったセミの声もさすがに弱々しくなった。 力強い飛翔筋の持ち主もついにはアリやクモの餌食となる。代わって秋のチョウやトンボが飛び始めた。 徒然草の"あだし野の露消ゆる時なく"で始まる有名な第七段に「・・・命あるものを見るに、人ばかり久しきはなし。 かげろふの夕べを待ち、夏の蝉の春秋を知らぬもあるぞかし。・・・」とある(岩波文庫、新訂徒然草26頁)。 何百年も昔からセミはカゲロウと並んではかない命のシンボルだった。

 セミの想い出は小学校4年か5年の夏休みに田舎で数種類のセミのオス・メスと抜け殻(性別は分からなかったが)を集めて標本を作り宿題展覧会に提出したことだ。 今では身近な自然は減っているし、もしかしたら環境保護教育の影響もあって昆虫採集をする子供は少ないだろうが、当時はごく普通だった。 大学院の恩師M先生はアメリカの学会に出席された際、"ムシキチ"だった僕にジュウシチネンゼミを公園で"拾って"持って帰って下さった。 このセミは17年間の地中生活のあと樹にとまれないほど大発生し、短い成虫期間を過ごすことで有名である。 地上の生活は1ヶ月もないだろうから、実にその200倍もの年月を幼虫で過ごす。 子供時代が長いのは羨ましい。


 夏前のことだが、表題のような内容の面白い論文が出た。 マダガスカル島の南西部の乾燥地帯に生息するカメレオンの生態を調査したアメリカと同島の研究者による報告だ(Karsten et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 105: 8980-8984, 2008)。 カメレオンは爬虫類だから卵を産む。このカメレオンは卵で8〜9ヶ月を過ごして、生まれてくると2ヶ月で成熟し、孵化後4〜5ヶ月で一生を終えるという。 卵の期間はヒトの妊娠期間に近いが、大人として過ごすのはたった2、3ヶ月である。ジュウシチネンゼミほどではないが、生まれ出る前の期間の方がずっと長い。 四つ足動物では知られている限り最短寿命という。植物には一年生も多年生も普通にあるが、このカメレオンは一年生で四足動物では極めて稀だ。 面白いことに、大人期間の終りの方では他の動物の老化個体に見られるような機能低下(動きが遅くなったり、握力が低下して樹から落っこちたり)が見られ老化が速く進行して寿命が尽きているようだという。 死因は不明だが目立った病気や外傷は見られない。 論文は、近縁の他のカメレオンはもっと長寿だから比較すれば老化や寿命の仕組みを明らかに出来るかもしれない、と結んでいる。 同じ爬虫類でもガラパゴスのゾウガメは200年も生きるといわれている。 一体全体何が寿命や老化を決めているのだろう。

 再生医療や幹細胞という言葉がメディアに日常的に登場する時代になり、若返りももしやと思われるかもしれないが、残念ながらそれは夢のまた夢。 誰もがピーターパンみたいになれたらと思うだろうけれど、ファンタジーの世界だ。 現実の世界では 「・・・命長ければ恥多し。長くとも、四十に足らぬほどにて死なんこそ、めやすかるべけれ。・・・」 徒然草の時代よりも倍長生きできる時代に生まれたことを喜ぶべし、楽しむべし。

 

 

バックナンバー