東京湾海藻日誌

東京湾の海藻(3)

フタツガサネ属の1種 Antithamnion cruciatum (C.Agardh) Naegeli 東京湾に産す

フタツガサネ属の一種 東京湾奥で、鮮赤色をした高さ1-3cm、時に5cmに達する糸状の塊が漂っていた繊細な紅藻類である。

 顕微鏡で観察すると中軸細胞から対生する羽状の側枝を生じ、羽状枝の基部には腺細胞を生じる小枝が観察される。フタツガサネ属(Antithamnion)のメンバーである。
  この属の植物は世界中に分布し、吉田他(1995)によるとわが国には12種が報告されている。わずかな枝ぶりの違いによって種類が区別されることが多く、世界中の標本を集めて種の検討が必要な分類群でもある。

 千葉県にはフタツガサネ(A.nipponicum Yamada et Inagaki)、フサネフタツガサネ(A.cristirhizophorum Tokida et Inaba)の2種が報告されている。

 フタツガサネはわが国の沿岸に広く分布するが、フサネフタツガサネはTokida & Inaba(1950)によって房州白浜で記載されて以来、高田・広瀬(1971)によって伊島で、千原(1976)によって七里ヶ浜で採集された報告があるのみである。

 フタツガサネ属の基本種はA.cruciatum である。A.cruciatumに関する最も新しい情報はMaggs & Hommersand(1993)である。

 筆者が東京湾で採集したフタツガサネはA.cruciatumによく似ている。先週には10枚の顕微鏡観察スケッチを描き、東京湾のフタツガサネ属植物がA.cruciatumと異なるのは羽状枝の先端が尖ることだけであることもわかった。写真では枝の先端が鋭利に尖っているようには見えないのだが、文章の中には先端はconicalとある。

 また、これまでに東京湾で採集した個体はすべて若い四分胞子嚢を持つ四分胞子体だけであることもわかった。Maggs & Hommersandによると、英国においてもA.cruciatumの配偶体は知られていないそうである。

 そこで、東京湾に生育するフタツガサネ属植物に関するもっと詳細なデータを得るべく観察をはじめることとする。さらに新たな材料を入手して観察を続けることとする。東京湾のフタツガサネ属植物はA.cruciatum と同定しておく。

○参考文献

Tokida, J. and Inaba, T. (1950) Contributions to the Knowledge of the Pacific species Antithamnion and related alga. Pacific Science. 4(2): 118-134.

Maggs, C. A. and Hommersand, M. H. (1993) Seaweeds of the British Isles 1(3A:Ceramiales): 4-8.

高田昭典・広瀬弘幸(1971)伊島およびその近傍海域の海藻.藻類.19(3): 107-115.

千原光雄(1976)藻類採集地案内、神奈川県七里ヶ浜.藻類.24(2): 78-79.

 

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