キャンパスの植物たち

東邦大学名誉教授  吉崎 誠

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キャンパスの植物達

理学部II号館周辺(2)

トウネズミモチの葉は対生、常緑で卵形〜広卵形で厚い革質でツヤがある。夏休みに入る頃に木の頂き近くに大型の円錐花序を展開し、樹冠はまっ白になる。分類実習の頃に果実をつける。木肌がモチノキのようで、コロコロと楕円体の果実はネズミのフンのようであることからネズミモチの名がついた。とは言いながら、ネズミの糞を見たことがない学生が多い昨今ではある。ネズミは研究になくてはならない実験動物です。実験動物の世話ができないと生物実験なんか無理だと思いなさい。

 ニシキギは枝に翼があるのがこの木の最大の特徴です。秋には紅葉し、木全体が真っ赤に染まる。さらには果実が熟すると鮮やかな橙赤色の仮種皮がいっそうの彩りをそえてくれます。山野に広く自生する低木だけれども、錦のように美しいとこの名を冠せられて庭木としても植えられています。

 ムラサキシキブという名から源氏物語を連想するに違いない。葉は対生し、比較的細長い。へりにはきょ歯があります。葉の付け根から花序を生じ、秋には紫色の実をつける。この果実の色がムラサキシキブの名のもととなりました。林のへりを好んで生育する低木です。材は粘りがあって強いことから、金槌(カナヅチ)やげんのうの柄として有用であったし、箸材としてもよく使われたものでした。現代では、お茶席で使われる炭の中でも硬炭として使われています。

 ツバキの葉はテカテカとして、厚いという概念をもっているのではないでしょうか。ナツツバキは落葉性の小高木です。倒卵形〜楕円形でふちにはきょ歯があります。夏に花は葉のつけねから出て、直径5〜8pの淡い黄色みがかった白い5弁の花を開きます。夏の花にふさわしく涼やかで気品のある花です。少し年を経た幹は赤褐色で、皮がうすくはがれてきます。

 クスノキは暖かい地方ではよく育ち、直径1mをこえる巨樹が少なくありません。 巨樹でも、適当に枝を落として、根をしっかり巻いて移植すると、意外に根付きがよいことから、記念樹や公園の中心樹としてもてはやされています。葉は互生、卵形〜広卵形で、長い柄があり、へりにきょ歯はなく先端は尖っています。葉の表面は明るい緑色で、つやがありますが、裏面は白っぽく、3本の葉脈が明確です。葉をつまみとり、揉(モ)んで匂いを嗅ぐと、お母さんの着物の匂いがします。着物の虫よけとする樟脳(ショウノウ)はクスノキのエキスです。この木から薄い板をつくり、これをタンスの中に入れても防虫効果があります。常緑の高木ですから、照葉樹林の陰樹と思っている人がいますが、クスノキは遷移の中間木でやがてはタブノキスダジイシラカシなどの陰樹におきかわってゆきます。

 教科書では照葉樹林の代表的植物がタブノキです。ことに海岸近くの森はタブノキによって占められます。葉は短い柄があり倒卵形で先がツンと突き出している。互生しますが、枝を上から見ると葉は風車のように展開配列しています。いかに効率よく太陽光を受けているかが納得できるでしょう。厚く、照り返しのある葉表とは反対に、葉裏はワックスを帯びて少し白い。キャンパス内のタブノキはみな鳥によって種子が運ばれてきたものです。現在8mほどのこの木は10年後、20年後にはどんどんと成長し、この周辺では最も高い木になるに違いありません。

 道路に面したコーナーにはイヌマキ、モクセイ科のオリーブ、ツバキ科のヤブツバキといった背の高い木が、そしてアジサイ科のガクアジサイ、ツツジ科のマウンテンローレルといった低木が見られます。

 2003年、ここにマンサク科のマンサクが仲間入りしました。ここのイヌマキは雄株です。イヌマキの枝が花壇に張りだしてしまい、花壇に光があたらない。そのために花壇に植えた植物の育ちが悪いのです。

  イヌマキの木の下に、キャラボクそっくりの木があります。誰が見てもキャラボクと答えてしまいます。これはイチイ科のキミノオンコです。北海道の札幌から洞爺湖にかけて点在して生育しているもので、絶滅危惧植物なのです。ここにあるキミノオンコは岩手県下閉伊郡山田町の結城さんから譲り受けたものです。夏から秋に、黄色い果実を実らせます。ぜひ、黄色い果実を観察してください。食べると、キャラボクの果実にそっくりな甘い香と味がします。

 オリーブの葉は、細長く革質で、葉の裏に綿毛をもち白い。耐寒性と耐乾燥性が強い。夏にサクランボほどの大きさの果実が実る。果皮は緑色〜黒紫色、いわゆるオリーブ色になる。この実をしぼってオリーブ油をとる。手をのばして果実をとり、食べてごらんなさい。ほろ苦いか、とても苦いか、苦みは人によって強くも、弱くも感じ方の異なるものだそうです。甘い、塩っぱいは誰でもが感じる味です。しかし、酸っぱさ、苦み、辛み、渋みをおいしく感じるかどうかは家庭の教育です。オリーブの苦みをおいしく感じる人は相当に味覚の優れた人です。これをペッと吐き出してしまう人は、子供程度の味覚しかもっていない人と思ってください。寿司にしても、「ウニ・トロ・イクラ」しかおいしいと言えない娘はせいぜい回転寿司がお似合いです。世界中の料理を食べ歩けるほどに、適度に味覚の発達した人になって欲しい。食も勉強です。

  ヤブツバキは照葉樹林の構成種です。ことに海岸近くではよく見かけ、直径50pもの大きな木をよく見かけます。花は真っ赤であることはなく、桃赤色です。葯は黄色く、落下すると5弁の花冠はバラバラになってしまいます。葉は柄をもち、互生する。厚く、固く、表面はつややかで、へりにきょ歯がある。葉にクチクラ層が発達することはよく知られていますね。クチクラ層と葉脈だけであの厚い葉の形態を維持することは困難だとは思いませんか。同じツバキ科のモッコクヒサカキでは、柵状組織と海面状組織に細胞壁の厚い異質細胞がたくさん形成されて、骨のような役割をしていることによってあの大型で厚い葉を維持しているのです。ヤブツバキにはそんな異質細胞が見られないことからどんな装置がかくされているのでしょうか。ヤブツバキには直径5pほどの大きな果実がみのります。果実は三裂して、中に黒く大きな種子がある。この種子を絞って椿油をとる。

  チャもツバキ科のメンバーです。晩秋に白い花をつけます。チャの花は花粉管の観察にとてもよい材料です。種子はヤブツバキの種子ほどに、思いがけず大きい。チャの種子の寿命は短く、採取後直ちに植木鉢や、畑に播きます。充分の水をやると容易に芽生えてきます。丈夫に育つ木ですが、キャンパスはチャにとってはとても住み難い所らしく、ここに20株も植えたのですが、昨年は1本だけになり、今年は絶えてしまいました。

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▲ニシキギ

▲ヤブツバキ

▲タブノキ

▲オリーブ

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