共同研究

アホウドリの集団遺伝学-共同研究の発表-

 日本鳥学会大会で、2002年9月16日に、昨年にひきつづいて、以下の共同研究が発表された(ポスター形式)。
  この研究によって、鳥島アホウドリ集団が十分な遺伝学 的多様性を保持していて、小集団内での近親婚の繰り返しによる生存力の低下を示す事実は認められず、尖閣列島集団から遺伝子の流入が起こっていることも確証された。
  ただし、鳥島集団から尖閣諸島集団への遺伝子流入は未確認で、これは今後の課題。

ミトコンドリアDNAの制御領域(D-loop region)を指標としたアホウドリ(Phoebast ria albatrus)集団の 遺伝的多様性の解析.U

黒尾正樹*(弘前大・農生)・米川博通(都臨床研・実験動物)・齋藤 茂(都立大院 ・理)・
松葉周子(麻布大院・獣医)・長谷川 博(東邦大・理)

 アホウドリ(Phoebastria albatrus)は,羽毛採取のために乱獲され,絶滅寸前の 約45羽まで個体数が減少したと考えられている。現在は,推定個体数が1,500羽を超 えるまでに回復したが,知られている繁殖地は,伊豆諸島の鳥島,尖閣諸島の南小島 および北小島の3箇所のみである。依然として絶滅する恐れがあるため,IUCNのレッ ド・リストで危急種に,我が国では特別天然記念物や「種の保存法」の対象種に指定 されている。  

 極端に少ない個体から個体数が増加した集団においては,その個体数の回復過程で ,近親交配が長期にわたって続けられることになり,一般的に,生活力の低下,いわ ゆる近交弱勢が起こる可能性が高いと考えられている。

 アホウドリにおいてもこのよ うな問題が起こっているか否かを,遺伝学的見地から解明するために,ミトコンドリ アDNAの制御領域(D-loop region)の塩基配列の決定および解析を試みた。伊豆諸島の 鳥島で雛に足環標識をする際に41個体から採取された羽毛と尖閣諸島の南小島で得ら れた1個体の死体の翼羽の軸からトータルDNAを抽出・精製し,ミトコンドリアの制 御領域のDNAをPCRによって増幅した後にダイレクト・シークエンスを行い,ドメイン Vの反復配列領域を除く制御領域の塩基配列1,084 bpを全ての調査個体で決定した。

 分析を行った鳥島の41個体(土砂に埋もれて瀕死の状態にあった1個体を含む)は, 1992年4月に確認された雛の総個体数の78.8 % にあたり,鳥島集団の遺伝的多様性を かなり正確に反映していると考えられる。変異が検出されたヌクレオチド・サイト数 は63で,26のハプロタイプが検出された。これに尖閣諸島の1個体を加えると,変異 のあったヌクレオチド・サイト数は67で,ハプロタイプ数は27であった。個体間の塩 基置換率は,最小0.00 % から最大3.04 %で,この値は,鳥類の他種のデータと比較 しても低い値ではないので,種を維持していくために充分な遺伝的多様性が保持されていると考えられる。

 鳥島のアホウドリの個体数が,平均して年率約7%で増加して きたことを考慮すると,近交弱勢を示す事実は見いだせない。

 また,得られた塩基配 列のデータに基づく系統解析において,アホウドリ集団は2つの明確なクレイドを形 成し,そのうちの一方は,尖閣諸島の成鳥1個体と鳥島の雛3個体から構成されたこ と,および,尖閣諸島で生まれたと考えられる複数の未標識個体が鳥島で観察されて いることから,実際に尖閣諸島から鳥島への遺伝子流入が起こっていることが強く示 唆される。このことも,鳥島で生まれたアホウドリのミトコンドリアのハプロタイプ 数が,かなり大きな値となっている要因のひとつとなっている考えられる。

TOPページへ戻る