共同研究

共同研究の発表

2001年10月に開催される日本鳥学会2001年度大会(京都大学)で発表される共
同研究の講演要旨です。小集団から回復してきたアホウドリ集団が、近親婚の
繰り返しによって生存力を低下させているかもしれないという可能性を検討し
ています。

ミトコンドリアDNAの制御領域(D-loop region)を指標としたアホウドリ
(Diomedea albatrus)集団の遺伝的多様性の解析

◯黒尾正樹(弘前大)・米川博通(都臨床研)・齋藤 茂(都立大院)・松葉 周子(麻布大院)・長谷川 博(東邦大)

アホウドリ(Diomedea albatrus)は、羽毛採取のために乱獲され、絶滅寸前 の約40羽まで個体数が減少したと考えられている。現在は、推定個体数が1,500羽を超えるまでに回復したが、知られている繁殖地は、伊豆諸島の鳥島と尖閣諸島の南小島の2箇所のみである。依然として絶滅する恐れがあるため、我が国では特別天然記念物や「種の保存法」の対象種に指定されている。

極端に少ない個体から個体数が増加した集団においては、その個体数の回復過程で、近親交配が長期にわたって続けられることになり、一般的に、生活力の低下、いわゆる近交弱勢が起こる可能性が高いと考えられている。
アホウドリにおいてもこのような問題が起こっているか否かを、遺伝学的見地 から解明するために、ミトコンドリアDNAの制御領域(D-loop region)の塩基 配列の解析を試みた。

伊豆諸島の鳥島で雛に足環の標識を付けるさいに採取された羽毛から、DNAを抽出・精製し、1990年にDesjardinsとMoraisによって発表されたニワトリのミトコンドリアDNAの全塩基配列を参考にして、ミトコンドリアDNAのほぼ全長を増幅するように設計したプライマーを用いてPCRを行った。
その結果、ミトコンドリアDNAのほぼ全長を増幅することに成功した。さらに、 これを鋳型として、cytochrome b 遺伝子から制御領域の方向にウォーキングを繰り返しながら塩基配列の決定を行い、1個体の制御領域の全塩基配列を決定したところ、その全長は1,452 bpであった。

分析した12個体の全てに共通する塩基配列から、制御領域全長を1ステップで 増幅するための2組のプライマー、および制御領域の塩基配列決定のためのプ ライマーを設計し、ドメインVの反復配列領域を除く制御領域の塩基配列1,017 bp を決定した。

分析を行った12個体において、変異のあったヌクレオチド・サイト数は49で、 10のハプロタイプが検出された。塩基置換率は約0.92%で、この値は、鳥類の 他種のデータ(例えば、キョウジョシギの0.9%、ハマシギの2.0%)と比較し て、必ずしも極端に低いとは言えない。

鳥島のアホウドリの個体数が、平均して年率約6.8%で増加してきたことを考 慮すると、近交弱勢が顕著になっていることを示す明白な事実はない。 また、尖閣諸島で生まれたと考えられる複数の個体が鳥島で観察されているこ とから、少なくとも、尖閣諸島から鳥島への遺伝子流入が起こっていると考え られる。

このことが、鳥島で生まれたアホウドリのミトコンドリアのハプロタイプ数が、 比較的大きな値となっている要因のひとつと考えることができる。 (本研究の一部は「アホウドリ基金」の援助を受けて行われた)。