掲載:2006年5月23日

第92回鳥島アホウドリ調査(2006年3月-5月)報告

合計195羽のひなが巣立ち

 2006年3月20日から5月4日に、第92回鳥島アホウドリ調査を行ないました。鳥島への上陸は3月26日で、36日間滞在して、5月30日に島を離れました。今年は天候不順で、しばしば本州東方で低気圧が発達したため、風力6〜7の強風が吹き荒れ、海は大時化になりました。また、雨やくもりの日が多く、鳥島の中腹以上に雲がかかってしまい、観察ができない日もかなりありました。野外調査は天気に左右され、実験室での研究に較べれば、きわめて“非効率的”です。

15羽(1977年)から過去最高の195羽へ

  今期、燕崎の従来コロニーから181羽(306卵のうち、繁殖成功率は59%)、燕崎の崖上から1羽(4卵のうち、25%)、北西斜面の新コロニーからは13羽(15卵のうち、87%)、合計195羽のひなが巣立ちました(325卵のうち、60%)。残念ながら、期待した200羽には達しませんでしたが、この数は再発見以降、最高です(2004年5月に193羽が巣立ったのがこれまでの最高だった)。29年前の1977年3月に初めて鳥島に上陸したとき、ひなはたった15羽しかいませんでした。それを思い起こすと、10倍以上に増えたひなのいる現在の風景は夢のようです!

→鳥島の位置とコロニーの場所を地図で確認する

北西斜面の新コロニーからの巣立ち

  また、195羽のひなのうち、デコイを設置し、音声を放送して繁殖前の若い鳥を誘引する「デコイ作戦」を展開した北西斜面の新コロニーからは13羽が巣立ちました。昨シーズンは、生まれた4卵から4羽のひなが巣立ち(100%)、今シーズンは15卵から13羽が巣立ち(87%)、この2年で繁殖に失敗したのは2組だけです。これらのうち、少なくとも11組は初めて繁殖したつがいだったはずです。それにもかかわらず、繁殖に失敗したつがいがわずか2組だったということは、新コロニーがいかに繁殖に適した場所かを証明しています。

  新コロニーで最初の産卵があった1995-96年繁殖期から今期まで11年間に、ここでは29個の卵が生まれ、それらから24羽のひなが巣立ちました。生まれた卵の総数に対する巣立ったひなの割合は83%です。燕崎の斜面にある従来コロニーでは、同じ期間に2586個の卵が生まれ、1592羽のひなが巣立ったので、その割合は62%です。つまり、新コロニーは従来コロニーよりも繁殖成功率で20%も好適な場所なのです。したがって、新コロニーが成長すればするほど、鳥島全体の繁殖成功率が引き上げられ、たくさんのひなが巣立ち、鳥島集団の個体数の増加率が上がることになり、その結果、アホウドリの復活が早まります。

従来コロニーから新コロニーへの移入

  この北西斜面の新コロニーに、日没時刻に滞在していた個体数は平均して49.8羽で、50羽以上が滞在していた日は58%にのぼり、もっとも多い日には76羽でした(観察日数26日)。これらの鳥のうち、全身白色の壮齢成鳥は平均4.2羽で、全体の1割以下です。つまり、新コロニーに滞在していた鳥の大部分は若い鳥なのです。昨シーズンは平均27.3羽、50羽以上いた日は1日もなく(0%)、もっとも多かった日は45羽でしたから(観察日数25日)、若い鳥が従来コロニーから新コロニーにどんどん移ってきていると考えられます。

  今後、従来コロニーから新コロニーへの若鳥の移入がつづき、新コロニーは急速に成長するはずです。おそらく、来シーズンには新コロニーで25〜30個の卵が生まれ、20羽以上のひなが巣立ち、日没時刻の滞在数は平均70〜80羽になり、100羽以上が見られる日もきっとあるでしょう。

  このように新コロニーは、従来コロニーからの移入によって急速に成長し(2010年には100組を超え、2020年には約500組になると予想される)、そこでの繁殖成功率が相対的に高いことから、今後、鳥島集団の成長を牽引するでしょう。しかし、現在はまだ従来コロニーに全体の95%近くを占める300組以上のつがいが定着し、繁殖しています。一度営巣すると、アホウドリのつがいは、よほどのことがないかぎり(例えば、従来コロニーの東地区で、2005年の初めころ吹いたと考えられる南西からの強風によって、72%のつがいが繁殖に失敗した出来事など)、営巣場所を移しません。大部分を占める従来コロニーのつがいの繁殖活動を手助けし、ひなの増産を図らなければ、これから展開される小笠原諸島「聟島列島作戦」のために鳥島から移動して手飼いにするひなの数を確保することも、将来、自発的に鳥島から小笠原諸島に移住する若鳥を増やすこともできません。

  新コロニーが確立した現在でも、アホウドリの復活を早期に実現するためには、従来コロニーの保全管理を継続することが必要なのです。そのために、ぼくは今年も6月半ばに鳥島に渡り、燕崎斜面で従来コロニー保全管理の補完作業(シバやチガヤの補植と中央排水路に堆積した土砂の排出など)を行ない、今後もこの作業を地道に続けます。