掲載:2005年6月13日

第89回鳥島アホウドリ調査(2005年4月)報告

2005年4月の調査結果

 2005年3月24日から5月5日に、第89回鳥島アホウドリ調査を行ないました。
  鳥島には4月1日に上陸し、そこに1か月間滞在して調査と観察をし、5月1日に島を離れました。

  今シーズンの巣立ちひな数は151羽で、従来コロニーの東地区で繁殖成功率が低かったため、期待した「200羽以上」には届かず、昨年より約40羽も少ないという残念な結果に終わりました。しかし、北西斜面の新コロニーでは、4個の卵がすべてひなになり、4羽とも無事に成長して、巣立ちました。また、日没時に新コロニーに滞在していた個体数は、昨年同時期のほぼ2倍になり、平均して27.3羽でした。これらの観察結果から、北西斜面の新コロニーは確立したということができます。燕崎の崖上の平坦地に新たに営巣した2組のつがいは、予想どおり、ともに繁殖に失敗しました。

 繁殖地で観察された個体数は617羽で、昨年より14羽の増加でした。これで、鳥島集団の総個体数は、巣立ったひなを含めて、推定で約1725羽になりました。


  以下に、調査結果の概要を報告します。

1.従来コロニーの繁殖状況

【写真1】 従来コロニー/西地区の様子 2005年4月

  燕崎の斜面にある従来コロニーでは、高い崖の直下にある西地区で174個の卵から113羽のひなが育ち(写真1)、繁殖成功率は65%でした。しかし、斜面の中央のなだらかな尾根の上にある東地区では、122個の卵から28羽のひなしか育たず、成功率は近年最低の28%でした。
  昨シーズンまでの7年間の繁殖成功率は、西地区で平均65.1%(今シーズンと同じ)、東地区では平均70.3%でした。今シーズン、とくに東地区で繁殖成功率が低下したために、燕崎の従来コロニーからは、結局、147羽のひなしか巣立ちませんでした(両地区をあわせた繁殖成功率は50%)。
  この原因はおそらく、昨年12月初旬以降に鳥島を襲った南西からの暴風だっただろうと考えられます。昨年11月末に撮影した写真(写真2)と、この4月に撮影したもの(写真3)を比較すると、燕崎下の海岸が岩礁から玉石に変わっていることに気づきます。燕崎は鳥島の南東に位置するので、これらの玉石は、南部の海岸から南西方向からの大波によって運ばれてきて堆積したにちがいありません(この大波は、島の西端に位置するベースキャンプの下の海岸で調べたところ、高さ約10mに達していました)。
  燕崎の地形から、西地区の巣は西側にある高い崖によって強風や突風をブロックされたのに対し、東地区の巣は突風や火山灰の混じった強風を受けたはずです。このために東地区の巣で抱卵中の親鳥、または小さいひなが突風によって吹き飛ばされたにちがいありません。そのために、東地区で繁殖成功率が極端に低くなったと推測されます。
  したがって、今年の低い繁殖成功率は自然の変動の一部で、今年かぎりの現象だと考えられます。来シーズンにはきっと繁殖成功率が例年の水準に回復して、数多くのひなが育てられるでしょう。

【写真2】 燕崎下の海岸 2004年11月


▲燕崎下の海岸拡大 (岩礁)

【写真3】 燕崎下の海岸 2005年4月


▲燕崎下の海岸拡大 (玉石)

 

2.コロニーの確立

【写真4】 新コロニーの様子 2005年4月

  鳥島の北西斜面の新コロニーでは、昨年11月に4組のつがいが産卵しました(1巣1卵だから4個)。それらの卵はすべてひなになり、4羽とも巣立ちました。繁殖成功率は100%です。これらを含めて、ここではこの10年間に合計14卵が生まれ、それらから11羽のひなが巣立ちました。したがって、総産卵数に対する繁殖成功率は79%となり、従来コロニーでの成功率(62% 1411羽/2280卵)よりかなり高く、この数字はこの場所が繁殖に適していることを示しています。
  昼間の観察中(65.3時間)、新コロニーに20羽以上の鳥(ひなを除く)が滞在していた時間は約45時間で、総観察時間の69%を占めました。また、夕方の日没時刻に新コロニーに滞在していた個体数は、平均27.3羽で(25日の観察で、最少9羽、最多45羽)、20羽以上がいた日数は20日と、80%もありました。昨年は、それぞれ、14.3羽、5.5%、12.5%だったので、今年、いかに多くのアホウドリが新コロニーに訪れ、滞在するようになったか、わかるでしょう。たくさんの若い鳥が混雑してきた従来コロニーを避けて、新コロニーに移ってきて、ここに定着しようとしています(写真4)。
  だいたんに予想すれば、来シーズンには約10組のつがいが産卵し、7羽くらいのひながこの新コロニーから巣立つでしょう。そしてさらに先を予想すると、2010年にはここで約50組のつがいが産卵し、35羽くらいのひなが巣立つようになるにちがいありません。

3.来シーズンの予測

  もし、鳥島の繁殖地の状況が大きく変化しないならば、2005年10月から始まる来シーズンには、鳥島全体で325〜330個の卵が生まれ、それらから215〜220羽のひなが巣立つと期待されます。
  今後、巣立つひなの数が増えれば増えるほど、小笠原諸島の聟島列島に第3繁殖地を形成する計画が現実的になります。そのためにも、従来コロニーの保全管理工事を継続する必要があります。