掲載:2003年12月日

第85回鳥島アホウドリ調査(2003年12月)報告より

鳥島のアホウドリ、繁殖つがい数は近年最高の277組に

 大型で美しい海鳥アホウドリは、19世紀末から羽毛を採るために大量に捕獲され、50年ほど前には絶滅したと信じられた。 幸運にも、生き残ったごく少数の個体が再発見され、それ以来、ゆっくりではあるが着実に数を増やしてきた。
  この鳥のおもな繁殖地である伊豆諸島最南部の鳥島で、今シーズン、277組のつがいが繁殖し、アホウドリは復活への道を歩んでいることが明らかになった。

 アホウドリの産卵期は10月下旬から11月下旬にかけてである。その直後の11月末から12月上旬に、私は無人の鳥島を訪れ、これまで25年間にわたって繁殖つがい数を調査してきた。 まず、飛行機で八丈島に飛び、ここから海が凪いだ日を見極めて、小型漁船で鳥島に向かう。通常、18時間の航海で鳥島に着く。
ただ今年は伊豆諸島海域で時化がつづき、連日のように波浪注意報が出された。12月1日には季節はずれの台風21号が鳥島を直撃した。このため、半月間も八丈島で足止めを食い、12月7日にようやく鳥島に上陸し、6日間だけ調査して、14日に鳥島を離れた。

 アホウドリは鳥島東南端に位置する燕崎(つばめざき)の急傾斜地で集団をなして繁殖している。この集団繁殖地を約100メートル下に見わたすことのできる断崖の中段に座って、ぼくはまず最初に巣の分布を示すくわしい地図を描く。 そのあと下に降りて、それぞれの巣に卵があるかどうか、双眼鏡やフィールドスコープを用いて確認してゆく。こうして確定された繁殖つがい数は276組で、昨シーズンより10組だけ増えた。 台風21号の突風(最大風速毎秒30メートル)によって吹き飛ばされた卵があったはずだから、実際にはこれより数組ほど多かったにちがいない。それを考慮すれば順調な増加と見なすことができる。これらの巣から、来春には約180羽のひなが巣立つと期待される。

 燕崎にあるこの集団繁殖地には、島の上部からときどき火山灰の泥流が流れ込む。それによって、卵やひなの命が奪われてきた。この被害を防ぐため、砂防・植栽工事を軸とする繁殖地の保全管理工事が環境省と東京都によって行なわれてきた。 それと同時に、泥流の起こる心配のない、鳥島の北西側に広がるゆるやかな斜面に、新しい繁殖地をつくる保護計画が1993年から進められてきた。中腹に多数のデコイ(模型のおとり)を設置し、そこから録音した音声を放送して繁殖前の若い鳥を誘引した。 これはアホウドリが集団で繁殖する習性を巧みに利用するやりかただ。 この新繁殖地では、残念ながら今年も1組しか繁殖しなかったが、それ以外にほぼ毎日、日没時に10羽以上の若い鳥が観察された。 彼らはこの場所に定着しようとしている。まちがいなく数年以内に新たに2、3組の若いカップルが誕生し、繁殖を始めるにちがいない。そうすれば、新繁殖地が確立する。

 鳥島の周囲の海にいるアホウドリは、夕方には大部分が繁殖地にもどって、夜を過ごす。毎日これらの鳥を計数したところ、合計545羽を記録することができた。 これは昨シーズンより76羽も多く、この時期の観察数としては近年最高である。これも順調な回復を示している。

 一昨年8月、火山島の鳥島は小規模な噴火を起こした。 もし今後、火山の噴火がなく、北太平洋の海洋環境も変化しなければ、現在、繁殖つがい数277組、推定総個体数1500羽となったアホウドリ集団の大きさは、2010年には約500組、2020年ころには1000組となり、総個体数はそれぞれ約2500羽、5000羽に回復するであろう。 私はできるかぎり長く調査をつづけ、アホウドリ復活の軌跡を記録したいと思う。