掲載:2011年1月7日

新着情報

北西ハワイ諸島のミッドウェー環礁とクレ環礁でアホウドリが産卵

 うれしいニュースが北西ハワイ諸島のミッドウェー環礁国立野生生物保護区から届きました。鳥島生まれの2羽(雄24歳、雌8歳)がつがいになって、産卵したのです(下記サイトを参照)。この産卵は日本列島以外で初めての記録です。

Hey, wait a minute! http://www.flickr.com/photos/usfwspacific/5229371265/

 1999-2000年繁殖期にミッドウェー島には3羽のアホウドリ(みな鳥島生まれ)が訪れていました。それぞれが別々の場所に住み着いていたので、それらの繁殖能力を無駄にしないため、デコイと音声によって社会的に誘引して「見合い」をさせようと、連邦政府魚類野生生物局ミッドウェー国立野生生物保護区管理者の依頼に応じて、「アホウドリ基金」・積水ハウス梅田オペレーション株式会社・NPO法人OWSの三者が協力して、2000年9月に日本からアホウドリのデコイ16体(成鳥型10体、若鳥型6体)と録音した音声を送り(贈り)ました(注1)。
 そのときは、残念ながら「お見合い作戦」は成功しませんでしたが、その後も毎年、デコイと音声装置を設置し続けた結果、2008年から若い鳥がデコイ設置場所を訪れるようになり、以前からそこに定着していた雄と求愛ダンスをして、つがいになりました。そして、昨シーズンは巣造りまで行き、今シーズンついに産卵したのです。人びとの夢と協力と努力が、10年の歳月をへて、小さな花を咲かせました。
 今シーズン、ミッドウェーからひなが誕生して、無事、巣立ったとしても、そのひなが成長して帰ってきて、繁殖年齢に達するまでには、さらに10年近くかかります。今後、繁殖が繰り返され数羽のひなが巣立っても、同一つがいの子孫だけでは近親婚になってしまいます。したがって、どうしても鳥島から個体の再移入が必要です。
 鳥島集団が大きくなればなるほど、自発的に移住する確率は大きくなるはずです。とにかく、鳥島集団を増やさなければなりません。そのためには、鳥島で「こまめに、手をかけて」営巣環境の保全管理作業をつづけ、繁殖成功率を70〜75%に維持し、巣立つひなの数をできるかぎり多くすればよいのです。
今後も紆余曲折を経るはずですが、ミッドウェー島にアホウドリの繁殖集団ができることも「単なる夢」ではなくなりました。

 

 ミッドウェー島のさらに西北西89kmに位置するクレ環礁では、今シーズン、雌同士のつがい(鳥島生まれの18歳と11歳)ができ、一つの巣に2卵を産み、それらを抱いていました。

http://www.acap.aq/latest-news/the-short-tailed-albatross-lays-eggs-on-kure-atoll-hawaii

http://www.acap.aq/latest-news/the-short-tailed-albatross-mate-returns-to-its-nest-on-kure-atoll-hawaii

 その後、1卵は巣の外に出されました(当然、無精卵なのでひなは誕生しない)。もし将来、雄個体がこの島を訪れれば、新たに雄雌つがいが形成される可能性があります。
 ハワイの大学のLindsay C. Youngさんたちの研究によって、コアホウドリの新しく形成された小さい繁殖コロニーでは必然的に性比に偏りが生じ、雌が多い場合には、血縁的に関係のない雌同士でつがいが形成され、ひなを育てることがわかりました。このとき、それぞれの雌は近傍の雄雌つがいの雄と交尾・受精して、「有精卵」を産みます。それら2卵のうち片方が偶然に巣外に出され、最終的には1羽のひなが巣立ちます。それぞれの雌はある繁殖期に50%の確率で自分の卵から誕生したひな育てることができます。この雌雌つがいは数年にわたって維持され、その間に自身の子孫を残すチャンスがあります。したがって、雌雌つがいの形成は、そうしないよりも有利だろうと推測されました(2008年8月、ケープタウンでの国際会議で講演)。
 こうした雌雌つがいはクロアシアホウドリでも確認されていて、上記のアホウドリの雌雌つがいも、こうした例の一つと考えられています。

 
(注1) 当時の様子を、「アホウドリ基金」発行の『オキノタユウ通信』第6号(2001年9月1日発行、9-10ページ)から抜粋して、以下に説明します。

 ホノルルで開催された第2回国際アホウドリ類会議(2000年5月7〜14日)のときに、ハワイ諸島国立野生生物保護区のスタッフから、ミッドウェー環礁にアホウドリの第3繁殖地を形成したいと提案されました。それを受け止めて、可能なかぎり協力したいと答え、つぎのような呼びかけの文を作りました(2000年6月)。

北西ハワイ諸島ミッドウェー環礁にアホウドリの第3繁殖地を

 北太平洋の真ん中に位置するミッドウェー島。ここは海鳥たちの楽園です。毎年、数十万羽のコアホウドリや数万羽のクロアシアホウドリをはじめ、ミズナギドリ類やグンカンドリ類、アジサシ類、カツオドリ類など、20種近い海鳥が大集団をなして繁殖しています。
いま、ここに、日本の伊豆諸島鳥島から巣立った3羽のアホウドリが訪れています。それらの足についている足環から、12歳(青057)、13歳(赤051)、18歳(黄015)の鳥だとわかりました(注1)。しかし、これら3羽は島の別々の場所にすみついていて、おたがいに出会うチャンスがありません。アホウドリは地球上の総個体数が1000羽あまりの絶滅のおそれのある種です。もし、この状態を放置すれば、これら3羽のもつ“貴重な”繁殖能力が“無駄”になってしまいます。

  そのため、アメリカ合衆国連邦政府魚類野生生物局のハワイ諸島統合国立野生生物保護区とミッドウェー国立野生生物保護区の保護管理官(注2)は、鳥島で新コロニーを人為的に形成するのに実績のあった「デコイ作戦」をミッドウェー島にも導入しようと考えています。すなわち、デコイとよばれる模型の「おとり」をならべ、そのそばから録音した鳴き声を流して、これらのアホウドリを1箇所に誘引し、つがい形成を促進しようというのです。そして、将来的にはここに、伊豆諸島鳥島や尖閣諸島南小島につぐ、第3の繁殖地を確立したいと願望しています。ミッドウェー島は鳥島と異なり、火山島ではありません。したがって、この計画はアホウドリの生存に対する危険を分散させ、安全を確保するためにも重要です。

 これは、ほんとうに夢のような計画です。しかし、ものごとはたいてい夢から始まるということを思い出してください。この計画にために、まず、10体のデコイを寄贈しようではありませんか。

長谷川 博
274-8510 千葉県船橋市三山2-2-1 東邦大学理学部生物学教室(助教授)
電話・ファクス:047-472-5236 E-mail: hasegawa@bio.sci.toho-u.ac.jp 

(注1)青057、赤051、黄015の3羽は、これまで生まれ故郷の伊豆諸島鳥島に帰って来たことはありません。完全にミッドウェー島に定着してしまっているのです。

(注2)Dr. Beth Flint (Refuge Director, US Fish and Wildlife Service, Hawaii Pacific Islands Northwestern Region), Dr. Robert Shallenberger (Refuge Manager, Midway Atoll National Wildlife Refuge), Ms. Nancy Hoffman (Wildlife Biologist, Midway Atoll National Wildlife Refuge)

 

 これ対して、つぎの2団体から協力の申し出がありました。

1)積水ハウス梅田オペレーション株式会社:大阪の梅田でこの夏にワイルドライフ写真大賞展を開催し、その入場料の1%をこの計画のために寄付。
 *上記の呼びかけ文とアホウドリのデコイを展示し、そばに募金箱を設置し、 長谷川博は開催初日の2000年7月7〜8日に、会場で講演と説明をした。

2)オーシャニック・ワイルドライフ・ソサエティー、OWS(The Oceanic Wildlife Society):太平洋諸島の野生生物保護のための活動を行なっている日本のNPO法人。アホウドリのデコイ16体のホノルルまでの送料を負担。

 アメリカ連邦政府・内務省魚類野生生物局(US Fish & Wildlife Service)は、アホウドリが生物種保存法(Endangered Species Act)の対象種に登録される(2000年8月)のに対応して、ミッドウェー環礁にアホウドリの新しいコロニーを形成しようとする計画を策定した(2000年5月)。
 これに協力するため、積水ハウス梅田オペレーションズ株式会社、オーシャニック・ワイルドライフ・ソサエティー 、アホウドリ基金が協力して(3団体の寄付総額は1,890,720円)、2000年9月下旬に、デコイ16体(成鳥型10体、若鳥型6体)をミッドウェー環礁国立野生生物保護区(Midway Atoll National Wildlife Refuge) )に提供した。

 

 

 

補注:

(1)デコイの元型製作は野鳥彫刻家の内山春雄さん(我孫子市)により、レプリカ製作と着色は生物模型専門会社の(株)西尾製作所(京都市山科区)による。再生音声の音源は、長谷川博が鳥島でDATにより録音したもので、鳥島での「デコイ作戦」に用いたものとほぼ同じ。

(2)2010年11月に産卵したつがいの雄は、赤51の足環(現在は脱落)をもっていた個体。