掲載:2005年6月12日

アホウドリ情報館資料

アホウドリの渡り

 20世紀の後半まで、船で追跡することが困難であったため、果てしなく広がる大海原で自由な生活をしている海洋動物の移動径路を知ることは不可能でした。たまたま標識のついた個体を目撃したり、海岸に打ち上げられた死体から標識を回収したりして、放した地点と確認した地点を結び、ごく少ない情報から途中の移動径路を推測し、想像するだけで、アホウドリの渡りの経路も神秘のベールに包まれていました。

  しかし、最近、人間は宇宙から動物の移動径路を追跡したり(個体から送信される電波を複数の人工衛星によってとらえ、その位置を知るアルゴス・システム)、光や温度を継続して記録する装置(超小型データ・ロガー)を動物に装着してあとで回収し、データを位置情報に変換して、その間の移動径路を解析したりする高度な技術を開発しました。そして、その研究成果が海洋動物の保護のために積極的に役立てられる時代になったのです。

  1990年代半ばから、環境省と山階鳥類研究所、アメリカ魚類野生生物局は、伊豆諸島鳥島で繁殖するアホウドリの渡りの径路を人工衛星で追跡した。その結果、つぎのことが明らかになってきました。
  5月半ばに鳥島を発った鳥は、まず伊豆諸島にそって沖を北上し、黒潮海域に至ります。そこから、さらに東北日本の太平洋岸や千島列島の陸棚傾斜海域にそって北上し、数週間でアリューシャン列島近海に到達します。その後、ベーリング海やアラスカ湾に移動して、7月から9月までの非繁殖期を過ごします。
  こうしたいわば「直行型」のほかに、東北日本から北海道、千島列島のはるか東方沖の黒潮と親潮が会合する海域(極前線)で約2月間を過ごしてから北に向かい、ベーリング海に達する「中継地経由型」の鳥もいます。

  では、鳥島への復路はどうでしょうか。アメリカのチームは、夏にアリューシャン近海の海上でアホウドリを生け捕りにし、電波送信機を装着して衛星追跡しました。途中で電池の寿命が尽きたか、電池が脱落したかで、鳥島まで追跡することはできませんでしたが、アホウドリがカムチャツカ半島の東沖からベーリング海、アリューシャン列島近海、アラスカ湾、さらにカリフォルニア沿岸まで、非常に広い範囲を遊動していることが明らかになりました。2005年の夏にも、アラスカ海域でアホウドリに電波送信機が装着され、非繁殖期の利用海域や渡りの復路の解明が試みられることになります。

  個体数の増加にともなって、アラスカ海域でアホウドリの目撃観察例が増加してきました。それらの記録を分析した結果、アホウドリが利用する海域は主に陸棚の周縁域から傾斜域、アリューシャン列島の島嶼間の海峡であることがわかってきました。これらの海域では、湧昇流によって豊かな海洋生物群集が形成され、アホウドリのえさとなるイカ類や甲殻類、魚類などが豊富に生息しています。

[参照]
  長谷川 博.2005.北太平洋に復活するオキノタユウ.バーダー,19巻4号,26-27頁.