長谷川先生に寄せられたアホウドリに関する質問を先生にお答えいただきました。
5)アホウドリは鳥島と尖閣諸島だけで繁殖するとのことですが、分布する海域は? 8)渡りのときは、ツルやガンのように編隊をつくって、集団で移動するのですか? |
標準和名はアホウドリ、学名は Phoebastria albatrus (PALLAS, 1769) または Diomedea albatrus PALLAS, 1769 です。
かつては、いろいろな地方名がありました。日本列島の近海には3種のアホウドリ類が生息し、繁殖していました。昔は、それらの個々の種を区別しないで、アホウドリ類を総称して、伊豆諸島の八丈島や小笠原諸島では「ばかどり」(馬鹿鳥)、京都北部沿岸地方や沖縄では「あほうどり」(信天翁、阿房鳥)と呼んでいました。
これらの名前は、アホウドリ類が陸上ではのろまで、人間によって容易に捕まえられたことから名付けられました。九州北部沿岸地方では、鯨といっしょによく近海に来ることから、「らい」あるいは「らいのとり」と呼ばれ、山口県日本海沿岸地方では、沖にすむ大きく美しい鳥という意味で「おきのたゆう」(沖の大夫)と呼ばれました。また、沖にすむ立派な鳥という意味の「おきのじょう」(沖の尉)という呼び名もありました。さらに、北海道ではアイヌの言葉で「しかべ」、高知県では「とうくろう」、関東では「だいなんかもめ」と呼ばれ、そのほかに、漢語的表現の「おおとり」(大鳥、巨鳥)とか「かいが」(海鵝)などの名前もありました。八丈島や小笠原諸島では、アホウドリという特定の種を示すときには、「しろぶ」とか「しらぶ」と呼ばれ、また「白海鵝」と書かれ、クロアシアホウドリは「くろぶ」と呼ばれ、「黒海鵝」と書かれました。
現在では、種の標準和名も科の総称もアホウドリが使われ、そのほかの呼び名は使われていません。しかし、この名前は明らかに蔑称であり、人間とほかの生物が共に生きるこれからの時代にはふさわしくありません。筆者は古名のひとつを復活させて、オキノタユウと改称するほうがよいと考えています。(長谷川,1997. 月刊言語, 26(6) 2-3pp)
英名は、Short-tailed albatross, Steller's albatross または Coastal Albatross と呼ばれています。Steller's albatross は、カムチャツカ沖の海でこの鳥を採集したベーリング探検隊の博物学者 G. シュテラー( Georg Wilhelm Steller )にちなみます。この名前は短くて便利なのですが、生物の種が個人の所有物のような印象を与えるのでふさわしくなく、その生物の特徴によって名前をつけるという考え方から、のちに Short-tailed albatross が一般的に使われるようになりました。この名前は、シーボルトが日本で採集した、この種の幼鳥の標本にもとづき、テミンク( Coenraad Jacob Temminck )が『日本動物誌( Fauna Japonica )』(1835)で記載した種名 Diomedea brachiura (のちに albatrus のシノニムと判明した)にちなんでいると思われます。すなわち、種小名の brachiura は、brachi = brachy = short、ura = tail で、「短い尾をもつ」という意味です。ただし、この種がアホウドリ類の他の種に比べて特別に尾が短いというわけではなく、生物学的特徴にもとづく命名という考えかたからすれば誤解を与え、本来はこれも不適当な名前といえます。
アホウドリは全長 92cm、翼開長(全幅)2.4m の大型の海鳥で、体重は約7kg ににもなります。グライダーのように細く(翼の幅は約 17cm )長い翼を持ち、海上を吹く風を巧みに利用して、ほどんど羽ばたかずに滑るように飛翔します(写真1)。
成鳥のくちばしは濃い桃色あるいは淡紅色で、その先端部は淡青白色です。この桃色は血液が透けて見えているためで、人間の爪の色と同じです。成鳥の頭部から首にかけての羽毛は濃い黄色あるいは山吹色になります。翼上面の先端側約半分と尾羽の先端部が黒いほかは、全身ほぼ純白です。脚は、表面が乾燥した時には青灰色ですが、水に濡れると少し黒っぽく見えます。雌雄同色で、雄は雌よりやや大きいようですが、野外で雌雄を区別することは困難です。
10月下旬から11月中旬に、一腹にただ1個の卵を産みます。大きさは、長径11.8cm、短径 7.4cm、重さ約 375g です。卵は無地で灰白色あるいは淡い象牙色ですが、産卵の時に卵殻の表面に血液が付着して染みになったり、抱卵中に巣の材料の土や枯草から淡褐色の染みがついたりすることもあります。雌雄交替で約65日間にわたって抱卵し、12月末から1月中旬に孵化します。
孵化後、約半月間、両親のどちらかがひなを抱いて保護し、ひなの要求にあわせて随時給餌します。その後は、両親とも海に餌集めに出かけるため、ひなは巣に残されます。それぞれの親鳥は、約2-4日の間隔で巣に帰ってきて(写真2)、ひなに餌を与えます。( Hasegawa & DeGange, 1982. American Birds, 34:806-814. )
親鳥は約4か月間ひなに給餌し、5月上旬から中旬にひなを残して繁殖地を去り、北部北太平洋を目指して渡りの旅に出ます。残された巣立ちびなは、羽ばたきの練習をして飛び方をおぼえ、5月下旬から6月の初めに初飛行をして海に出ます。ひなは2-3日間、島の周りで過ごし、その間は飛行の練習をします。その後は徐々に島から離れ、北部北太平洋に渡って行きます。
巣立ったひなは海で生活しながら成長して若鳥になり、早くて2歳で、3歳では約半数、4歳では大半の個体が繁殖地に帰って来ます。その若鳥は繁殖地で求愛行動を繰り返し、2-3年かかってつがいの相手を決めます。しかし、そのシーズンには繁殖せず、翌シーズンに繁殖します。繁殖開始(初産)年齢は、最も若くて5歳で、平均では約6歳と推定されます。その後は同じ相手と毎年繁殖し、死ぬまで相手を変ることはありません。
アホウドリの羽色は成長にともなって変化します(写真3)。足環標識個体の追跡観察からつぎのことが分ってきました。巣立った幼鳥は全身黒褐色で、くちばしだけが桃色です。2、3歳でもまだ全体に黒褐色で、わずかに目の下が白く、胸から腹にかけて少し淡くなります。4、5歳になると額から顔、喉、さらに胸から腹が白くなってきます。6、7歳になると胸や腹だけでなく、背も白くなり始め、白黒まだらになる。このころから、頭部の羽毛に黄色味が加わってきます。
8-9歳になると、後頭部や背に黒褐色の羽毛を少し残すだけになり、約10歳で全身ほぼ白くなる。しかし、羽色の変化には大きな個体差があり、15歳になってもまだ後頭部に黒褐色の羽毛を残しているものもある一方で、8歳でほぼ純白になるものもいる。これらの個体差は、換羽の進行が個体ごとに異なるためで、その個体の繁殖経験や栄養状態と関係していると思われます。
日本列島の近海には、アホウドリ Phoebastria albatrus と、それよりやや小型のクロアシアホウドリ P. nigripes、コアホウドリ P. immutabilis の3種が繁殖・生息しています。
上述のように、アホウドリの羽色は成長にともなって変化しますが、クロアシアホウドリとコアホウドリの羽色はほとんど変化しません。クロアシアホウドリは、くちばしや脚を含めてほぼ全身黒褐色で、くちばしの基部のまわりだけが白です。成鳥では、尾の基部から下尾筒にかけて白くなるものもいます。アホウドリの幼鳥や若鳥も全身黒褐色ですが、そのくちばしが太く桃色であることから容易に区別できます。
また、コアホウドリは、ほぼ全身白色ですが、翼の上面はすべて黒褐色で、翼の下面は白く、太く黒い縁どりがあります。くちばしは黄色味をおびた桃色で、目のまわりにはアイ・シャドウに似た濃い黒灰色の斑があり、脚は桃色です。
野外では、遠くからでも、全体に白く、両翼の上面と背が黒褐色の太い直線をなしていれば、コアホウドリだと識別できます。アホウドリでは翼や背に白い部分があり、若鳥の背は白黒の斑になっています。
繁殖期の10月から5月には、西部北太平洋、おもに南西日本の太平洋岸の沖合から外洋域、東シナ海に分布します。ごく少数は、繁殖地から遠く離れたアメリカ合衆国西海岸沖の太平洋やメキシコのカリフォルニア半島沖の太平洋、北西ハワイ諸島の近海を訪れています。これらの個体は非繁殖鳥だと思われます。
非繁殖期の6月から9月の間は、アリューシャン列島近海からベーリング海、アラスカ湾、北部北太平洋から、成鳥や若鳥の目撃記録が得られたり、伊豆諸島鳥島で装着された足環標識が回収されたりしています。したがって、大部分の個体はこれらの海域で過ごしているにちがいありません。
かつて、おびただしい数で繁殖していたころは、アホウドリは亜熱帯以北の北太平洋に広く分布し、南シナ海から東シナ海、黄海、日本海、オホーツク海、ベーリング海などの沿海にも深く入り込み、それらの沿岸域をも訪れていました。
個体発生については、生物特性の成長の項目でふれたので、ここでは生活史の数量的側面(集団生物学的特性)と採食生態を簡潔に述べます。足環標識個体の追跡調査から、以下のことが分かってきました(前述と重複する部分あり)。
死亡率 | 第一次近似として、巣立ち後の死亡率が一定だと仮定すると、死亡率は毎年約4.5%と推定されます。 ここから計算すると、巣立ちひなの平均余命は21.7年となります。 |
繁殖開始年齢 | もっとも若くて5歳、平均約7歳です。これは、アホウドリ類の他種と比較して、かなり若い年齢です。 |
繁殖周期 | 南半球に生息する大型のアホウドリ類の中には、隔年に繁殖する種がいるが、この種は毎年繁殖します。 |
配偶様式 | 生涯一夫一妻性で、相手が死亡するまでつがい関係を維持します。また、再婚までには2-3年を要します。性比は雌50%、すなわち、雌雄同数と想定されています。 |
一腹の卵数 | ただ1卵。 これらの生活史特性は、アホウドリが典型的な少産少死、長寿命の生物であることを示しています。 |
繁殖成功率 | 1979年〜2003年までの25年間の平均は57.35%で、とくに1997年から2003年まで最近の7年間をとれば平均67.41%であった。 |
食物 | 繁殖地でひなが吐き出した餌から判断すると、主な食物はイカ類や甲殻類(おもにアミ類)、魚類です。 アホウドリは水中に潜水できないので、水面に浮きながら頭部だけを水中に入れて、くちばしで餌をくわえ取ったり、水面からくわえ上げたりする。 こうした採食行動から推測すると、アホウドリは食物の多くを海面に浮上した海洋生物の新鮮な死体や衰弱した個体に依存していると考えられ、採食生態から見ると、“海の掃除屋”(scavenger)の役割をもはたしていることになります。 |
なぜ1個か? これは、いっけん簡単なようで、じつは答えるのがたいへん難しい疑問です。なぜなら、この問題はアホウドリだけにとどまらず、生物が1回に生産する子孫の数はどうして決まるかということについて答えなければならないからです。そうでなければ、もっともらしく説明しただけの「俗説」で、まやかしの「答」になってしまいます。
ノウサギは一腹1-4頭、ふつうは2頭の仔を産み、イノシシは一腹に4-5仔、ツキノワグマは1-2仔、ヒトやニホンザルは1仔、キジバトは一巣に2卵、イヌワシは2-3卵、スズメやツバメは4-6卵、ウミネコは3-6卵、シジュウカラは平均10卵、カルガモは15卵、サケは1度に500個の卵、ニシン2000個、クロマグロ10000個、ヤブカは60個、イエバエは100個の卵、など、ふつう動物の1腹の産仔(卵)数は環境の変動にかかわらずほぼ決っています。
しかし、なかには、生息場所で利用できる食物の量に依存して産卵数を変る種(例えば、餌のネズミが増えるとフクロウ類の産卵数は平年より多くなる)もいれば、成長して体が大きくなると産卵数が増える種もいます(例えばコイ)。また、植物でも種子の生産数は種によってほぼ決っています。
それに、スズメやキジバトのように1年に何回も繁殖する種もいれば、タンチョウのように1年に1回だけ、さらに大型のワタリアホウドリのように、1年おきに繁殖する種もいます。
ニホンザルの雌は、子供が親から離れるまで繁殖せず、おそらく数年に1回の割合で繁殖しています。
生物が1回に生産する子孫の数は、その種の1年間の繁殖回数や一生の繁殖予定、配偶や保育の様式などとおたがいに関連していて、その種の「繁殖戦略」をなしています。それはまた、その種の死亡率とも無関係ではありえません。
もし死亡率が高ければ、ふつう、なるべく早く繁殖を始めなければ生き残れません。最後にドバッとたくさんの卵を生むやりかたもありえますが、この場合、親は保育できません。
このように、生物は生き残り、繁殖して、つぎつぎに世代をくりかえしてゆきます。この個体の一生のできごとを生活史と呼びますが、それの数量的関係は人口学的な数式で表すことができます。
その基本式に従いながら、それぞれの種はそれぞれの環境に対応した生き残りと繁殖の特性の組み合わせをもって生活しています。言いかえると「生活史の戦略」をもっているのです。
人間の場合には「生涯設計」などと言われているようですが。これは、それぞれの種の生きかたとも言えるもので、生物進化の歴史のなか環境との相互作用によって形づくらてきました。
アホウドリは、生後2歳から繁殖コロニーに帰りはじめ、3歳で生き残っている鳥の約半分が、4歳では大部分が帰ってきます。繁殖を始めるのは、一番若くて5歳で、平均では6歳くらいです(私は以前に繁殖開始の平均年齢は約7歳だと考えていましたが、最近えられたたくさんに資料から、それより早く、6歳くらいであることが分かってきました)。
産卵は1度にただ1個で、それを雌雄交替で約65日間抱いてあたためます。そのあと、約4か月間、両親がひなに餌を与え、育てます。アホウドリは、一夫一妻性で同じつがい相手と同じ巣場所で毎年繁殖し、一生相手を代えません。アホウドリは少産少死、長寿命の生活史特性をもつ代表的な種です。
なぜこのような生活史特性の組み合わせを獲得したのか、推論するしかありません。
たぶん、アホウドリが生息している外洋にはこの鳥の天敵となる動物がおらず、強烈な太陽光や風雨から身を守る避難場所のない過酷な環境であるにもかかわらず、優れた飛翔力によって安全な海域に避難する能力と食物をさがしあてる能力を持ち合わせているため、死亡率を低くすることができたのでしょう。
しかし、繁殖のためには天敵のいない島が必要で、その数が限られているため、特定の島に集まることになった。その結果、営巣場所が不足し、さらに島の周辺海域から食物が枯渇して、ひなの餌を集めるために遠くまで出かけなければならなくなり、一度にたくさんのひなを保育することができなくなった。
それで、両親で最小数の1羽しか保育できず、雌は無駄がないように1卵しか生まなくなった。
繁殖地から遠く離れて餌採集するため、親鳥はくちばしにくわえて運ぶのではなく、餌を胃のなかに貯めて運び、数日に1回の割合でもどってきてひなに与えなければならなくなった。そのため、ひなはゆっくり成長し、巣立ちまで4か月間もかかるようになった。
だいたい、こんな筋書きではないかと思います。これは単に一つの説明です。
アホウドリには、卵を抱きかかえるために羽毛が抜けて皮膚が露出した(卵に熱を伝える)「抱卵斑」は一つしかなく、実際に1個の卵しか抱けず、人為的に2個の卵を抱かせたとしても1個しか孵化しないでしょう。
人為的に1巣に2羽のひなを入れたとしたら、親鳥が十分な量の餌を集めることができないため、2羽とも順調に育つことはなく、全滅するか、1羽だけが育つか、どちらかになるでしょう。
これは、野外で実験をすれば、すぐに分かります。アホウドリは、最小数の1羽を育てるように体ができあがってしまっているのです。
この答は簡単で、ちがいます。実際に、編隊飛行を見た人はいません。もし、渡りのときに編隊で飛行するなら、編隊飛行は長距離の移動をする場合に有利なはずで、渡りのとき以外にも(繁殖地のまわりの海で)観察されるはずです。
しかし、観察されません。
ツルやガンは、非繁殖期に家族(夫婦と仔)が単位となって生活し、それらが複数あつまって集団をつくり、編隊で飛行します。
この編隊飛行の有利さについて、いくつかの議論がありますが、その一つは、飛翔によっておこる空気の渦を巧みに利用して、ちょうど波に乗るように、エネルギー消費を節約することです。
アホウドリのように、海面すれすれに(海面上約20mまで)飛翔する場合、波浪の影響のほうが大きく、編隊飛行の有利さは打ち消されてしまいます。
もう一つは、編隊飛行によってお互いが情報交換を行なえば、死角を狭め、敵の接近をいち早く発見して防衛態勢に移ることができ、生存のチャンスを増すことです(戦闘機の編隊飛行を考えてみてください)。
外洋ではアホウドリの天敵はいません。ですから、この有利さを獲得する必要はなく、編隊飛行を行なわないのです。
もし、ツルやガンの親鳥が編隊飛行をしながら若鳥に渡りの経路を教えるという説明を考えたとしましょう。しかし、渡りの経路を学習させるためには、かならずしも編隊を組む必要はなく、集団で飛行してもよいはずです。
ですから、これは必要で十分な説明のしかたではありません。
また、陸上とちがって、目印のない外洋では、親鳥が若鳥に渡りの経路を教えること自体、不可能です。
これも難問で、分かりません。それは、一部の鳥がなぜ渡りをするのか、という問題に関係し、さらに、アホウドリがなぜ、10月から5月にかけて鳥島で繁殖し、そのあとベーリング海やアリューシャン列島近海、アラスカ湾まで渡るのかについても説明しなければ、本当の答にならないからです。
いま、私は、これに答えることができません。
ただ、鳥は1年のうちに、必ず繁殖・換羽(「かんう」と読み、羽毛を生えかわらせる)・越冬のサイクルを送らなければなりません。他の動物に比べて優れた移動力をもっている鳥は、場所をかえてこれらの「年中行事」をすることができます。
そのために、毎年定まった時期に決まった場所の間を移動します。それが渡りです。このように移動するのは、そのほうが移動しないで1箇所にとどまるよりも生存するのに有利だからです。
ですから、アホウドリが渡りをするのは、たぶん、そのことで少しエネルギーを必要としたとしても、餌の豊富な海域(白夜の夏に高緯度地方の海は植物プランクトンが大発生し、それを食べる動物プランクトン、さらにそれらを餌とする魚類やイカ類が大増殖します)に移動して換羽するほうが、生き残るチャンスが増したからでしょう。
アホウドリと同じように、たとえばザトウクジラなどの大型クジラ類も、夏に餌の豊富な北太平洋北部に移動します。
答は、ノーです(ちがいます)。海上では雄雌1羽ずつで生活し、2羽いっしょに行動することはありません。
海上で観察されるとき、たいてい1羽で、2羽単位で観察されることはありません。
つがいの2羽がいっしょに見られるのは求愛行動のときだけで、コロニーで2羽が寄り添うほか、求愛のために2羽がいっしょに飛行することもあります。
繁殖期には、交替で抱卵し、ひなに給餌するので、巣でときどき出会うだけです。
非繁殖期には、2羽は別々に生活し、ほとんど出会わないでしょう。
南半球に住むワタリアホウドリで、研究者たちは雄雌それぞれの背中に電波発信器をつけて、どのあたりまで餌をさがしに行くのか、人工衛星を使って追跡しました。
その結果、雄雌はそれぞれ別の海域に行って餌をとり、巣にもどってきました。
また、雄と雌で非繁殖期に過ごす海域も異なり、体の大きい雄は南半球の高緯度よりの海域で、やや小型の雌は中緯度から亜熱帯の温暖な海域で過ごしています。
この違いは、はえなわ漁による混獲にも表れ、漁が温暖な海域で頻繁に行なわれたことから、雌のほうがよく犠牲になりました。その結果、性比が雄にかたより、繁殖地では雄のほうが多くなってしまいました。
これらのことを考えると、つがいが別々に行動していると結論できるでしょう。