同期検波    Carrier frequency control

 QAM(線形変調参照)の受信信号の複素表現は

ですが、同期検波は に逆回転する複素搬送波 を掛けて、ベースバンド信号 を得ることを目的とします。 ここで、 はチャンネル歪みや固定位相回転を受けた複素パルスで、一般に複素値をもちます。  はランダムな複素シンボルです。 同期検波を成功させるためには、搬送波周波数 を推定することが必要になりますが、

 果たして、受信波から を推定できるでしょうか?

ベースバンド信号の帯域に比して搬送波周波数は非常に高いので、通常の復調器では、まずダウンコンバーターで大幅に周波数を下げて中間周波数 (IF: Intermediate Frequency ) に落とし、そこで同期検波を行います。

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同期検波は上のブロック図の から周波数偏差 を推定することになりますが、この問題を図式的に言えば、酔っ払いが円盤の上をランダムに歩いており( = )、その円盤がゆっくりと回転していたとき( = )、酔っ払いの軌跡( = )から円盤の回転速度が推定可能か? ということになります。

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酔っ払いの歩行はランダムですから、統計的な方法で円盤の角速度を推定しなければなりません。 そして、その方法は軌跡 の角速度の平均値を計算する以外に方法はありません。

ここで、[  ]内は角速度を表し、右肩の*は複素共役です。 なにはともあれ、

を展開してみましょう。 ただし、を仮定し、 とします。

ここで、右辺第一項は周波数偏差に関係しない項であり、第二項が周波数偏差の推定を与えています。 したがって、第一項が実数ならば は小さいとしているので、 の虚部を用いて周波数偏差を推定することができます。 では、第一項を展開してみます。

ここで、{ }内の虚部がゼロにならないと周波数偏差は推定できないということになります。 この項がゼロになるための十分条件の一つは または 、すなわちパルスが実数のときです。 このとき、受信信号の電力スペクトルは対称になっており、他にこの項をゼロにする典型的な例は見当たりません。 積分

の意味するところは、パルス の角速度の積分であり、また、

、      

したがって、

なので、{  }内はパルスがもっている回転方向の偏りということができます。 あの酔っ払いは、泥酔すると時計回りにさまよう癖があるというわけです。 そうだとすれば、

 パルス固有の回転の偏りと搬送波の回転との間に自由度がある

ということになります。 同期検波の前に、なんらかの適応フィルターを置いて、パルス固有の回転を除去することができるでしょうか? この問題を周波数領域で考えてみましょう。 微分の周波数領域での操作は、 を掛けることです。 このことと、パーセバルの定理から、

が得られ、電力スペクトル(周波数偏差がない状態)と の積の積分がゼロになることが必要十分であることが分かります。 確かに、整合フィルターなどで電力スペクトルを対称にしようという発想が湧きます。 しかし、そもそも周波数偏差が未知なので、パルスのスペクトルの原点(パルスの直流成分の位置)は未知です。 ということは、どこを中心に対称にしたらいいのか分かりませんね。

 搬送波周波数偏差を推定することは本質的に不可能ではないか?

注: 同期検波を固定発信器で処理し、搬送波周波数偏差を残したまま、Constant Modulus Blind Equalization によって等化する。 この結果は、符号間干渉が無いシンボルが回転するのみであり、これから周波数偏差を推定する。