エコーキャンセラー    Echo canceler

 反響した信号を手元で消去する装置を指します。 たとえば、電話回線を用いたデータ伝送において、不完全なハイブリッドコイル(2線式と4線式を変換する回路)で反射するエコーを消去する装置があります。 また、音声が遅れてこだまする衛星電話の反響阻止装置が完成したのは30年以上も前のことです。 この技術は音響工学や画像工学など、いろんな分野で応用されています。 全2重データ通信の反響モデルは下図のようです。

 img11.gif

送信者は自分の送信データが分かっているので、受信信号から反響伝送路 (echo return path )のインパルス応答を原理的に同定することができます。 したがって、手元でエコー信号を作ることができ、それを受信信号から差し引けばエコーの無い受信信号を得ることができます。 しかし、多くの場合、相手からの信号電力に比べてエコーの電力は小さく、反響伝送路のインパルス応答の推定には長い時間を必要とします。 実用の場面では、緩慢な時間変化(たとえば上り下りで起きる位相回転)に追随することが要求されます。 データ通信の場合は、推定時間を短縮するために等化器を前提にできます。 通常のモデムはかならず等化器を備えているので、全2重データ通信のエコーキャンセラーは下図のような形で組み込まれています。

 img12.gif

等化器が収束すれば、誤差信号 のほとんどの成分はエコー信号ですから、速く反響伝送路を推定することが可能になります。 ここで、等化器とエコーキャンセラーは同じシンボルクロックで動作していることが重要です。 もし、まったく違ったクロックで動作していると、複雑なサンプリング周波数制御が必要になります。 ここでは、送受で同じ4値AMモデムを仮定し、クロック同期がとれているとしてシミュレーションします。 エコー消去の様子を訂正的に理解するため、ここでは反響伝送路の大きなフラット遅延を除き、等化器は強制等化アルゴリズムを用います。

以下の、4レベルPAM(Pulse Amplitude Modulation)を送信した場合のシミュレーション結果です。タップ数=31、信号電力/エコー電力=20dB、修正係数比 () =0.1 とした場合です。 特に、修正係数比はかなり収束に敏感ですので、実用ではこの制御も必要かと思われます。 下図は、上から、使用した50%ナイキストパルス、相手の信号が通過するチャンネル応答、反響伝送路応答、エコー無しの場合の等化出力、エコーありの場合の等化のみの出力、エコーキャンセラーを挿入した場合の等化出力です。

img1.gif

 

img13.gif

 

img15.gif

 

img14.gif

 

img9.gif

 

img8.gif