判定帰還型等化器    Decision feedback equalizer

 下図のように、判定(非線形関数)を帰還ループに含む等化器を指します。ループ内に判定が含まれるので発散することはないが、判定誤りの影響がループ内を巡って、等化状態に収束しない現象が起きます。

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もし、完全に等化が成功し、正確に ならば、上図から判定器を取り除いてもいいので、等化器は線形のARMA (Auto-Regressive and Moving Average : 自己回帰&移動平均) に等しくなります。 そして、帰還ループは因果的安定になっているはずです。 逆に、この安定状態を作り出せない場合は等化不能となります。たとえば、強制等化において、供給される既知送信シンボルと受信信号のタイミングずれによって等化不能が起きます。判定帰還型等化器は、これをARMAとみると、次のような意味で逆システムを作っています。

注: 以降は線形システムの逆システムの知識が必要ですので、逆システムを参照しながら読んでください。

および は、それぞれ反因果的に最小位相推移(反因果的に安定な逆をもつ)および因果的に最小位相推移(因果的に安定な逆をもつ)です。 一方、判定帰還形等化器のARMAは次のような形をしています。

左側は feedforward equalizer、右側の分数が feedback equalizer です。 時間原点は feedforward の中にあり、 の位置と見做してください。 すなわち、この時刻の受信信号を既知送信シンボルに強制しています。 式(2)と式(3)の関係を調べるために、式(2)を次のようなMAの形に書き換えます。

そして、右辺の積の後の( )を分解して次のような表現を得ます。 このような表現は一意ではありませんが、展開は可能です。

この右辺の左側の( )を feedforward に含め、右側の( )は因果的安定な逆をもつので、 feedback の形に変換すれば式(3)の表現が得られます。 実際の判定帰還型の強制等化はこのように表現された解に収束していると思われます。 式(4)の分解は一意ではないので、具体的に解を表すことは困難です。 ただし、 のときは、

となり、解は一意的に表現されます。 本来、判定帰還型等化はこの解を狙って考え出されたように思われます。 とにかく、もっとも簡単なケースでシミュレーションして、直感的な理解を試みましょう。

チャンネルを

と仮定します。 

となるような大きな歪みを仮定し、feedforwardfeedback とも 30 タップとし、時間原点をfeedfoward の中央 ( )から順次右方向( )へ移動させてシミュレーションを繰り返してみました。 2値伝送 () を仮定し、アルゴリズムは次の確率的勾配法を採用しました。

時間原点を feedforward の中央に置いた場合、feedforward の右端に置いた場合、feedforward から一つ外れた(feedback に入った)場合について、 ( は送信シンボル) と (青色) と (赤色)の順に示してあります。

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L=15:feedforward だけで十分に等化可能であるが、
 feedback equalizer も等化に貢献している。

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L=0:feedforward を、feedback
実現している。 図ではfeedback filter のみが示されている。

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L=−1:発散してしまう。

次に、歪みを小さくして、仮判定を使ってブラインドに引き込ませてみます。 送信シンボルが2値なので、アイが開いており、通常のトランスバーサル等化器では引き込むはずですが、判定帰還型等化では feedback equalizer の判定誤りの伝播により成功しない場合がでてきます。 その現象は、次の3つのタイプに分類されます。 なお、乱数の種により、時間原点に依存せず3つのタイプに陥ってしまいます。

  1. 等化が成功する。
  2. ランダムな状態に陥り、なかなか安定しない。 いずれは、次の状態になりそう。
  3. となって feedback equalizer だけでリミットサイクルに落ち込む。

以下は、上の3つのタイプが出現したシミュレーションの例です。 チャンネル歪みは、

 

としましたが、アイはかろうじて開いており、初期の判定結果は正しいはずです。 アルゴリズムは下記です。

 

 

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L=15でリミットサイクルに陥った。

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L=13でランダム状態から抜け出せない。

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L=7で成功した。

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L=1でも成功した。

リミットサイクルでは、下記のような自律システムを意味します。

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ここで、 であり、添え字 はN+1を法とする剰余です。 式(13)は連立一次方程式であり、解  が存在するケースは確かに存在します。