秋の七草と薬効

秋の七草のはじまりは・・・

秋の七草はハギ、ススキ、クズ、ナデシコ、オミナエシ、フジバカマ、キキョウの七つの植物です。この七草の顔ぶれは、万葉集(巻八)で山上憶良(やまのうえのおくら)が詠んだ歌に由来しています。


「秋の野に咲きたる花を指折りかき数ふれば七種の花」
「萩の花尾花葛花なでしこが花をみなへしまた藤袴朝顔が花」

それぞれ、萩の花=ハギ、尾花=ススキ、葛花=クズ、なでしこが花=ナデシコ、をみなえし=オミナエシ、藤袴=フジバカマ、朝顔が花=キキョウ、です。尾花と朝顔以外の呼び名は今も変わらないようです。

一口に秋の七草と言っても、それぞれに生育に適した場所や開花期も少しずつずれていて、自然の中でこの7種の植物をまとめて楽しむのはなかなか難しいことのようです。

春の七草は食用、秋の七草は観賞用などと言われますが、秋の七草に挙げられる植物の中には、薬草として用いられてきたものが6種もあります。今回は花と共にその薬草としての一面もご紹介します。

参考資料:新訂原色牧野和漢薬草大図鑑(北隆館)、原色牧野植物大図鑑(北隆館)

■注意(かならずお読みください)■

治療・体質改善等を目的とした薬草等の使用に当たっては、必ず医師または薬剤師に相談して下さい。
データ中の【薬効と薬理】については、あくまで参考としてご覧下さい。
また、薬草を使用し、生じたいかなる被害についても、当方は一切の責任を負いません。

東邦大学薬用植物園に咲いた秋の七草

ハギ(ヤマハギ)

学名:Lespedeza bicolor Turcz.

マメ科


▲ハギの花

▲ハギの葉

所在:メディカルハーブガーデン

園芸品種も多く出回り、目にすることが多いのではないかと思います。 昔は枝や葉を家畜の飼料にしたり、束ねて箒にしたりと、生活に密着した植物でした。
“七草”のひとつと言っても、ハギは草本ではなく、落葉低木です。東邦大学にあるハギも一株で直径2mほどの大きさに育っており、花の頃には特に目を引きます。

【分布】

北海道南部から九州、および朝鮮半島から国北部〜東北部など。

【特徴】

落葉低木。樹高2m内外。
葉は互生し、3出複葉。葉の形は幅広の楕円形。
花期は7月から9月。枝の先の方にある小枝の葉の付け根のところから紅紫色の小花を総状花序に多数つけます。

【薬用部分】

【薬効と薬理】

民間:婦人のめまい、のぼせなどに効果があると言われます。

ススキ

学名:Miscanthus sinensis Andersson

イネ科

▲ススキ

所在:メディカルハーブガーデン

ススキは高さ1-2mにもなり、その葉の縁は鋭利で遊びに夢中の間に手や足を切ってしまった思い出のある方も多いのではないでしょうか。かつては日本中あちこちで見られたススキの原ですが、開発が進む地域では見かけることも少なくなりました。茎は茅葺屋根の材料としても使われます。

残念ながら、ススキには薬効はないようです。

【分布】

日本各地、朝鮮半島、中国などの温帯から暖帯に分布。

【特徴】

多年草。茎の高さは1mから1.5m。

根茎は短く、茎は束になって生え大株になります。

花期は秋。

クズ

学名:Pueraria lobata (Willd.)Ohwi

マメ科


▲クズの花

▲クズの葉

所在:薬用植物見本園

感冒薬の葛根湯に用いられるのがこのクズの根、葛根<カッコン>です。 クズの根から作るクズ粉は良質のでんぷんで和菓子などにも使われており、日本人には馴染みの深い食材です。

【分布】

北海道から九州および朝鮮半島、中国などに分布。

【特徴】

つる性木本。茎は基部が木質化し、つるは匍匐しながらよく伸び成長すると10mにも達します。
葉は互生し、3出葉状複葉で、頂小葉は丸みを帯びたひし形で先は尖っています。
花期は7月から9月。紅紫色の小花を総状花序に密生します。

【薬用部分】

根 (生薬名:葛根<カッコン>)

【薬効と薬理】

葛根は発汗、解熱、鎮痙薬として、熱性病、感冒、首・背・肩こりなどに用いられます。
花(葛花<カッカ>)も眩暈や悪寒に用いられます。

ナデシコ

学名:Dianthus auperbus L.

ナデシコ科


▲カワラナデシコの花

所在:メディカルハーブガーデン

 

万葉集に詠まれたナデシコは、左写真のカワラナデシコです。

ナデシコにも多くの園芸品種があります。
母の日に送られるカーネーションもナデシコ科ですが、カーネーションは地中海沿岸が原産地で花期も3月から6月ころとなります。

【分布】

北海道から九州およびユーラシア大陸の温帯地域に分布。

【特徴】

多年草。草丈50cmから100cm程度。葉は対生し、先が尖っており、基部は茎を抱いた形になります。
花期は7月から9月。淡紅色の花をつける。

【薬用部分】

全草(生薬名:<クバク>)
種子(生薬名:<クバクシ>)

【薬効と薬理】

薬理効果は未詳。
全草・種子ともに消炎、利尿、通経薬として水腫、小便不利、淋疾、月経不順などに用いられます。
流産の危険性があるので妊婦は決して用いてはいけません。

オミナエシ

学名:Patrinia scabiosaeflolia Fisch

オミナエシ科


▲オミナエシの花

所在:薬用植物見本園

オミナエシと名も姿も似た植物にオトコエシ(オミナエシ科オミナエシ属)があります。オトコエシは白い花を咲かせ、オミナエシより大型です。

日当たりの良い山野に自生し、丈高くのびた先に小さな黄色い花をたくさんつけますが、他の七草同様、自生種は減少しています。

【分布】

日本各地および千島、サハリン、台湾、朝鮮半島、中国、モンゴルなどに分布。

【特徴】

多年草。草丈60cmから100cm。根茎はやや大型で横臥します。
葉は対生し、羽状に裂けたような形状になります。
花期は8月から10月。茎の上部に黄色い小さな花を多数散房花序につけます。

【薬用部分】

根(生薬名:敗醤根<ハイショウコン>)
全草(生薬名:敗醤草<ハイショウソウ>)

【薬効と薬理】

根と全草に鎮静、抗菌、消炎、浄血などの作用があり、腸炎などによる腹痛、下痢、肝炎、腫痛、婦人病などに用いられています。
サポニンによる溶血作用があるため、連用は避けた方がよく、強度の貧血の場合には用いてはなりません。

フジバカマ

学名:Eupatorium fortunei Turcz.

キク科


▲フジバカマの花

所在:薬用植物見本園

フジバカマは花には香がありませんが茎と葉を乾燥させるとよい香を放ち、中国では香草の名もあります。

河辺の土手や傾斜地に生えますが、近年は護岸工事等により生息地が減り、各地で絶滅が危惧されています。

【分布】

本州は関東地方以西、四国、九州および朝鮮半島から中国に分布。

【特徴】

多年草。茎は直立し、下のほうにある葉は小型で花の頃には枯れています。中葉は対生して多くは3裂します。
花期は8月から9月。茎の先に淡い紅紫色の頭花を散房状に密生します。

【薬用部分】

全草(生薬名:蘭草<ランソウ>)

【薬効と薬理】

水製エキスには血糖降下作用、利尿作用などがあり、糖尿病、浮腫、月経不順などに用いられています。

キキョウ

学名:Platycodon grandiflorum (Jacq.)A.DC.

キキョウ科


▲キキョウの花

所在:薬用植物見本園

茎の上に風船のように膨らんだ蕾が開いて星型の青紫の花を咲かせます。このキキョウの花の形は、戦国時代には美濃の土岐氏の紋として使われ、後に一族の明知光秀が用いたことでも有名です。

自生株は減少しており、絶滅が危惧されています。
園芸種では白や桃色の花もあります。

【分布】

日本各地および朝鮮半島、中国北部から北東部など。

【特徴】

多年草。草丈40cmから100cm。根は太く、黄白色。
茎は直立し、上部で分岐します。
葉は互生し、幅の狭い卵型から幅の広い卵型。
花期は8月から9月。茎の先に青紫色の鐘型花を数個つけます。

【薬用部分】

根(生薬名:桔梗根<キキョウコン>)

【薬効と薬理】

桔梗の煎剤はサポニンの局所刺激による去痰作用があります。
鎮静、鎮痛、解毒作用のほか、抗炎症、鎮咳、血圧降下作用などが認められます。
去痰、鎮咳薬として、痰、気管支炎、咽頭痛などに用いられます。


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