3. 酸性の火口湖における地球科学的検討 -生物分野-

火山性の活動によってできた火口湖は一見生物が生息することが出来ない死の世界のように感じられるが、そこには硫黄を酸化してそのエネルギーで生息している微生物が生息している。

地球化学分野との共同研究により、その微生物が地球の硫黄循環系に深く関与していることが判明した。前述の Thiobacillus に関する研究の流れを受け、はじめに草津白根山火口湖(pH 1.1, 10℃)に関するプロジェクト研究がスタートした(発表31、50)。

その結果、この火口湖における硫黄循環とそれに関与する硫黄酸化細菌の存在が明らかになった。この研究により好酸性硫黄酸化細菌 Thiobacillus acidocaldarius が分離されその性状に関しても明らかになった。また、鉄酸化細菌(Thiobacillus ferooxidans ) も分離された。

一方、ポリチオン酸の増減が火山噴火予知にも関与し、本研究は他の様々な分野からも注目を集めている(論文24)。その後、この草津白根山の研究はロシア・カムチャツカ半島の Maly Semiachik Volcano Crater Lake (pH 0.8, 8℃)に応用した。それはカムチャツカ半島が開放された翌年の1992年より3年間、ロシア科学アカデミーとの共同調査を行い、この火口湖に生息する好酸性硫黄酸化細菌についてその性状ならびに生態学的検討を行った。

その結果、火口湖湖水より硫黄細菌が分離され、その性状について調べたところThiobacillus thiooxidans であると同定された(論文18、発表58、59、61、71)。

さらに、そのことは16S r RNA の解析からも裏付けられた。また、火口湖に生息する微生物の調査として、インドネシア・スマトラ島の Kaba Volcano Crater Lake に関する微生物学的調査をブリュッセル自由大学のアラン・ベルナルド氏、サスキア・ゲバルト氏らの地球化学的研究とあわせ行っている。

乾季になると湖底から現れるKaba Lama Sulfure Pool (pH 1.1, 水温 40.3℃)より分離された細菌を純粋培養したところ、Elemental Sulfure をエネルギー源とすることから、硫黄細菌であることがわかった。また、本菌はグラム陰性の桿菌で16S r RNA の解析より Acidithiobacillus sp. と推測された(発表90)。