微生物解説<温泉と微生物の関係温泉微生物

強酸性火口湖の湖水中に生息する細菌

カムチャツカ・カリムスキー火山噴火に伴うカリムスキー湖湖岸の熱水に生息する生命

高温強酸性の温泉に生息する微生物

細菌

高温強酸性の環境

Sulfolobus sp.

古細菌の代表的な一つである Sulfolobus に関する最初の記載はBrierley J. A. (1966) の学位論文中の短い記述に始まります。それは45-70 ℃にて増殖可能であり、80 ℃の加熱に耐えることができる好熱菌のことでした。

この細菌は Yellow Stone National Park のpH 2.2 、 66 - 69 ℃の酸性泉から分離したもので、硫黄や鉄を酸化するエネルギーで増殖できることがわかりました。

一方、Brock T. D. (1972)らはYellow Stone National Park の温泉から新種の細菌を分離することに成功し、その細菌が増殖するときに硫黄を使うこと、ならびにその形態から“ Sulfolobus ”という属名をつけて、この分離株を Sulfolobus acidocaldarius としました。

 

S. acidocaldarius はその形が不定形でありほぼ球形に近い“lobe”状で、いわゆる木の葉状ともいわれています。

その後の“ Sulfolobus ”に関する報告はDe Rosa M.ら (1975) がイタリア・ナポリ近くの温泉 (Pisciarellisolfatata)より S.acidocaldarius とG + C 含量(DNAのグアニンとシトシン含量)が異なった好酸好熱菌を分離し、 Zillig W. (1980) によって S.solfataricus と命名されました。

その他、“ Sulfolobus ”に類似した菌株はエルサルバドル、アイスランド、ニュージーランドの温泉やドミニカの温泉、土壌、mudpot等からも分離されています。 その他の Sulfolobus は従来 S. acidocaldarius と考えられていたものの中から新種として登録された S.shibatae や箱根大涌谷の mud pool より分離された S. hakonensis があります。

これらの背景から、Sugimori K. ら(1988)(1989)は日本国内の高温酸性泉からこの“ Sulfolobus ”を分離純培養し、その生息分布について検討を行いました。 Sulfolobu の培養条件は培地のpHが3前後、温度は70-80 ℃にします。 培養には酸素を好む好気性菌です。

温泉や海底熱水などの地熱地帯などに広く分布し、そのような環境から分離培養されていますが、私の経験からpH6の環境にも本菌が生息していることがわかっています。

文献によると、近年別府温泉より分離された好熱性の S.tokodaii はその特殊な性状から全生物の共通な祖先(コモノート)に近い生命体ではないかと考えられているそうです。

生命進化の研究上非常に興味が持たれています。

分離された場所によって菌株細胞の大きさが異なった

万座温泉湯畑 九州林田温泉 万座空噴

本菌とその周辺の菌について

Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology ( Second Edition, 2001)によると Archaea (古細菌)は CrenarchaeotaEuryarchaeota に分類され、 Sulfolobus は前者に属しています(後者にはメタン菌などが含まれます)。

Crenarchaeota には Thermoprotei という 1 網があり、さらにそれは Thermoproteales , Desulfurococcales,Sulfolobales の3目からなります。

Sulfolobus は最後の Sulfolobales 目に入りますが、その目には1 族6属が含まれます。 それは下記の通りです。

族  Sulfolobaceae

  • Sulfolobus
  • Acidianus
  • Metallosphaera
  • Stygiolobus
  • Sulfurisphaera
  • Sulfurococcus

Sulfolobus 属には

  • S. acidocaldarius
  • S. hakonensis
  • S. metallicus
  • S. shibatae
  • S. solfataricus
  • S. yangmingensis

の6種があります。

 

生育環境の写真

秋田県玉川温泉(81℃、pH1.7)


秋田県蒸の湯〈ふけのゆ〉(92℃、pH2.7)

藤七〈とうしち〉温泉(92℃、pH3.4)

日光湯元温泉(76℃、pH6.0)

那須湯本温泉鹿の湯(67℃、pH2.4)

草津温泉湯畑(59℃、pH2.1)

万座温泉湯畑(73℃、pH2.6)


 

 

万座温泉空噴(81℃、pH1.4)

箱根大涌谷温泉(92℃、pH1.5)

別府塚原温泉地獄(95℃、pH2.0)

九州筋湯温泉小松地獄(83℃、pH2.6)

九州筋湯念仏地獄(87℃、pH3.0)

九州霧島林田温泉(54℃、pH3.1)

参考文献

  • Garrity G (chief ed ): Bergey's Manual of Systematic Bacteriology ( SecondEdition), Springer, 2001
  • Brierley J. A. : Ph. D. Thesis, Montana State Univ. Bozeman, 1966
  • Brock T. D., Brock K. M., Belly R. T., Weiss R. L. : Arch. Mikrobiol., 84;54 - 68,1972
  • Brierley C. L., Brierley J. A. :Can. J. Microbiol., 19; 183 - 188, 1973
  • Mosser J. L., Mosser A. G., Brock T. D. : Arch. Mikrobiol., 97; 169 - 179,1974
  • De Rosa M., Gambacorta A., Bu' lock J. D. : J. Gen. Microbiol., 86; 156 -164, 1975
  • Zillig W., Stetter K.O., Wunderl S., Schulz W., Priess H., Scholz I. : Arch. Microbiol., 125; 259 - 269, 1980
  • Brock T. D. : Thermophilic Microorganisms and Life at Hight Temperature,p117 - 179, Springer-Verlag, 1978
  • Yeats S., McWilliams P., Zillig W. : EMBO J., 1; 1035 - 1038, 1982
  • Martin A., Yeats S., Janekovic D., Reiter W.-D.,Aicher W., Zillig W. : EMBO J., 3; 2165 - 2168, 1984
  • Grogan D., Palm P., Zillig W. : Arch. Microbiol. 154; 594 - 599, 1990
  • Furuya T., Nagumo T., Itoh T., Kaneko H. : Agric. Biol. Chem., 41; 1607 -1612, 1977
  • 高柳進之輔、杉森賢司、千頭道子:東邦大学教養紀要、17; 43 - 52, 1985
  • Sugimori K., Takayanagi S., Aikawa K., Shiroya T. : Kagoshima International Conference on Volcanoes Proceedings, p 890 - 893, 1988
  • Sugimori K., Takayanagi S., Aikawa K., Shiroya T. : 5th International Symposium on Microbial Ecology Abstract, p 117, 1989

強酸性火口湖の湖水中に生息する細菌

カムチャツカ・カリムスキー火山噴火に伴うカリムスキー湖湖岸の熱水に生息する生命