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パラトゥンカ 温泉

 パラトゥンカ 温泉は市内から近く、日本で言う『日帰り温泉』といった感覚で行くことが出来、多くの市民に親しまれている場所です。パラトゥンカ温泉はペトロパブロフスク - カムチャツキー市内のはずれに位置し、旧市街地から見るとアバチェンスキー湾(Avachinsky Bay)を隔てた反対側にあります(図参照)。

 パラトゥンカへの交通は陸路のみで、旧・新市街地から行くと空港があるエリゼバ (Yelizovo) の街を通りムツノフスキー火山方面へ向かう道路の途中にあり、市街地から車で30−40分の距離です。市街地ー空港と空港ーパラトゥンカはほとんど同程度の距離にあります。パラトゥンカには軍関係の施設、公共施設、組合の施設等多数の温泉施設があり、各々に宿泊施設や温水プールを持っています。最近ではウオータースライダー等の遊具を備えたプールや、高級感あふれたホテルとレストランを兼ね備えた施設も出来てきました。

 しかし、これらの施設は隣接してはおらず、各々独立して存在しています。日本の温泉地は同一地区内で隣り合わせにいくつかの温泉旅館が軒を並べ、それなりの風情を醸し出していますが、パラトゥンカでは道路脇の入り口から施設にたどり着くまでにかなりの距離があり、また森の中にそれらの施設が点在していることから、日本の温泉地のイメージから考えると相当異なったものになっています。規模の大小はあるにせよこの様な施設が点在し、各施設の単位が集落のようで、ひとつひとつが小さな社会を形成している様にも感じられました。1993年に日・ロ共同で行われた火山と流体の相互作用 - 活動的火口湖における諸過程の研究 - (科学研究費;班長、高野穆一郎 教授)におけるフィールドワークの休息に私たちが訪れたのはその中の一つで、施設の入り口の表示板や人の話からカムチャツカ建設局労働組合の保養施設であろうと推察されましたが、実際のところはどのような機関の関連施設であるのかはあまりよく理解できませんでした。

 我々の仲間であるロシア科学アカデミー極東支部火山研究所のファズルリン(Sergey M Fazlullin) 氏は旧ソ連時代潜水艦乗りだったそうですが、会話の中で彼は過去を振り返り、かつて、長い潜水艦の航海が終わると数カ月の休みが国から与えられ、この様な施設で休養していたことを語っていました。我々が利用したこの施設は道路から入るとすぐ両側に駐車場があり、さらにその300m先の左手にこの施設の中心であるL字型の建物が見えました。

 その建物の向かいには公園や子供のためのプレイルームがあり、さらにその先には宿泊用の大小コテージ、コテージ管理棟、医療用プール(2階建て建物併設)、一般用プール等がある非常に大きな施設でした。この施設の中心であるL字型の建物内にはレストラン、宿泊施設、シアター等がそろっていましたが、その中でも温泉を利用した医学的な加療・療養施設には興味深いものがありました。単にフィールドワークの途中に立ち寄った我々は、ここでは寝泊まりだけの利用であったので、実際に医学的な治療等に使用している場面にはお目にかかることが出来ませんでした。

 ただし、あとでお話しします様に各ブースの壁にはそこでどのような治療や療法がなされているかが写真やイラスト等で克明に記載してありましたが、それらが全てロシア語で書かれていたため私は理解するまでに大変苦しんだ次第です。さらに、我々が館内を案内されたのが日曜日であったため、どれだけの患者さんを実際に診察・治療しているのか解りませんでしたが、食事時の食堂での顔ぶれを見ると老人の数が圧倒的に多く、全体で100名弱といった人数でした。普段はお目にかかれない多くの人々が食事時には集まってくるので、いったいこの人たちは普段どこにいるのだろうかと考え込んでしまい、あらためてこの施設の広さに驚いた次第です。  

 その時、診療・治療施設を案内して下さった職員のアナスターシア (Anastasia) さんの話をもとに館内の説明をしますと、このL字型の建物の内部は次のとおりです。まず、リハビリテーションならびに生理機能検査のための大きな部屋(5x10m位)があり、種類や数は豊富ではありませんが内部には旧式の自転車エルゴメーター等の生理機能検査機械やトレーニングを行うための道具、さらには一通りのリハビリに用いる器具は揃っていました。そして旧式の体重計やシャワールームも別室に完備されていました。そのとなりの部屋は温泉水を直接用いて治療を行う部屋で、西洋のバスタブよりも日本のバスタブに似た深い作りになっている浴槽が壁で仕切られて3つ並んでいました。使用時患者さんたちは壁に仕切られているのでお互いに干渉せず治療を受けられ、医師や看護婦用には窓際に通路がありこの3つのバスタブを行き来し、適時患者さんたちの状態を把握することができます。一つのバスタブに対して廊下側にドアがあり、バスタブの手前には水着に着替えるための部屋があります。

 バスタブ内には・・・すのこ状のものが置いてあり、患者さんはこの上に座る格好になりますが、ここに圧縮空気送り込み、あわ風呂の状態で用いられる様子です。天然の温泉水の他に薬草を混ぜて患者さんに使用したりすることも行われていると聞きました。また、バスタブに板を渡し、その上に砂時計を置いて自分が入浴治療する時間も自分できちんと管理させているという話でした。その他マッサージルーム、気道や鼻腔等の呼吸器疾患のための治療室(吸入治療)、診察室等が完備されていますが、日本の病院と比べると診察や治療の機械類はさほど多くありませんでした。

 次に我々はだいだい色のビニールシートが敷いてあるベッドが整然と並んでいる大きな部屋に通されました。一見この様子は何か解剖室の様な雰囲気を連想させましたが、これも治療室の一種で、このサナトリウムの目玉商品といってもよい治療法が行われているそうです。近くの湿地帯から産出される泥を用いそれを全身に塗るいわゆる泥パック治療が行われています。その泥は湿地の植物が腐り長年かかって出来上がったもので、ミネラルを多量に含み、人体に有用な成分がぎっしり詰まったものであるという説明がありました。天然に産出した泥は使用する前にある一定の温度に保たれた大きな槽に蓄えられ、そこでいわゆる熟成をさせてから使用しているということでした。

 このL字型の建物から程近い場所に2階建ての建物がついた温水プールがあります。その大きさは日本の25mプールを一回り小さくしたものです。本来、このプールは医師の許可(処方)がないと入れないそうですが、我々は特別な許可をもらい利用する事が出来ました。

 建物内にはビリヤード台やサウナがあり、保養のための遊技施設を伴った場所がありました。さらにそこには薬草や樹皮を乾燥させそれをお茶にして飲むことができる場所も用意されていました.ここの医療用プール内には細いノズルから温泉水が勢いよく噴出する設備があり、それを局所のマッサージに用いるそうですが、高さが一定でなくさらにその配管が斜めになっていて使用する人の身長等により自分に必要なマッサージ場所を選ぶシステムになっているのだそうです。

 こちらは利用時間がきちんと決められており先にも書いた様な利用条件がつけられていましたが、もう一つある別のプールは自由に利用することが出来ました。こちらの自由に使用できるプールは所々電球が切れてはいましたが、夜間照明も完備されており24時間自由に利用することが出来ました。昼間は管理人がいて外からの利用客からは使用料を受け取っていましたが、我々は滞在者なので「ズドラーストヴィーチェ(こんにちは)」の一言を言えば?出入りは自由でした。

 暗くなって(夜10時半位から)からはその自由なプールへ食べ物やアルコールを持ち込み多くの利用者が訪れていましたが、その理由の一つとして、管理人がいない夜間はお金がかからないので、非常ににぎわっていたものと想像します。またこのプールには体を洗うための温水シャワーもあり、私たちはパラトゥンカ滞在中風呂代わりにこのプールを利用させてもらいました。ただし、このシャワーに関してはお湯が出ない時もあり、ここで我々はカムチャツカでの水シャワーのつらさを何度も味わった次第です。

 外に出てみるとこの施設の脇に道路があり、その道は裏を流れている川を横断する橋へとつながっています。その橋のたもとに検問所があり厳めしい軍人が見張り番をしていました。ここは旧市街の港から見ると丁度湾の反対側にある自然の良港を利用した潜水艦の基地への入り口だそうで、ここから基地まではまだ数km ありますが、橋の上に行って写真を撮ろうとした時、警備の軍人に制止されてしまいました。最近聞いた話によるとウラジヴォストクにあったロシア太平洋艦隊の潜水艦部隊はすべてカムチャツカに引っ越したそうで、あの時よりもさらに厳しい警戒をしているのではないかと推測します。

 

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