東京湾海藻日誌

東京湾の海藻(2)ハバモドキが打ち上げられる

4月の海の様子

ハバモドキ詳細画像へ 千葉ポートタワーよりの岸壁に沿ってバラ石が並べられている。さらに沖に向かってテトラポットが積まれて隣接する千葉中央港に出入りする大型船舶の運行によって生じる大きな波が人工海浜に直接来ないようにガードしている。
  海藻はこの岸壁前のバラ石やテトラポットに生育している。潮間帯上部から下部にかけての海藻の生育状況を述べると以下のようになる。

 最も高い所に、ウスバアオノリが出現する。ここはイワフジツボの生育帯位でもある。イワフジツボの生育帯位の下位にカキの生育帯位がある。ウスバアオノリの生育帯位はかなり広くてカキの生育帯位の中部まで広がっている。高い位置に生育するウスバアオノリはヒメアオノリ状になる。

 ウスバアオノリの生育帯最下部にセイヨウハバノリ(Petalonia binghamiae(J. Agardh) Vinogradova)が生育する。セイヨウハバノリは冬季に繁茂する海藻で4月に入ったらとたんに枯れてしまった。4月半ばに潮間帯中部をよく観察すると、色は黒く毛がたくさん生えて老成したセイヨウハバノリが わずかに生育している。

 セイヨウハバノリの下にショウジョウケノリの生育帯位がある。4月はじめにはまだフサフサとしていたジョウジョウケノリも4月半ばには高さ57cmとなってしまった。

 ショウジョウケノリの下にはカイガラアマノリが生育する。4月に入ったらとたんにカイガラアマノリの数はグンと減少した。打ち上げられる数もすっかり少なくなり、4月半ばには生育しているものを見ることはなくなってしまった。

 4月に入って急激に増えたのはアナアオサである。いつ採集にでかても必ずアナアオサの打ち上げはあるのだが、これまでになく多い。打ち上げられるたびごとにちぎれ、満潮時にまた海に引き込まれて粉の要に舞い漂ったものがそのまま成長して大きくなることを繰り返しているのだろうと思うほど、アナアオサがなくなることはなかった。

 ウスバアオノリの生育帯の中間部から下にあまり大きくないアナアオサが生育しているのだが、本来のアナアオサの生育帯位は明確ではない。

ハバモドキ細胞拡大画像へ 4月に入ってセイヨウハバノリにかわってセイヨウハバノリのように膜状で褐色であるが、セイヨウハバノリに比べると薄く、楕円形あるいは被針形をしたの藻が打ち上げられるようになった。ハバモドキ(Punctaria latifolia Greville)である。
 円形、楕円形から長楕円形で、若いものは平滑であり、縁は全縁であるが、年取ったものはデコボコと大きく波打っている。大きさは7〜15cm、時にもっと大きくなる。細く短い柄状の茎がある。褐色で、弱ると薄緑色となり、特有の生臭さがある。セイヨウハバノリよりも薄く、もろく裂けやすく、打ち上げでは断片が多い。
 押し葉にすると台紙に付着しない。
 体の厚さは70〜90um、基本的に4個の細胞層からなる。内側の細胞は大きく、液胞で満たされ、5〜10個の楕円形をした葉緑体がある。外側の細胞層の細胞は小さく、細胞質にとみ、7〜15個の葉緑体がある。細胞が小さいことからたくさんの葉緑体が入っているように見える。外側の細胞層は体表面に平行な細胞壁をもって2分する事があり、6個の細胞層からなるように見えるところもある。
 複子嚢だけが観察された。複子嚢は表面の細胞が細胞質を充実しやがて細胞分裂を繰り返して複子嚢となる。複子嚢は上方に突出する。

 

 わが国の沿岸では4月に入ってセイヨウハバノリの他には11種のハバモドキ属植物が報告されている(吉田・中嶋・中田:1995)。

 わが国に生育するハバモドキ属植物の分類には、Yamada & Iwamotoの論文が重要であることがわかったが、その論文は手に入らなかったので今回は観察記録のみを紹介する。

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