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東邦大学名誉教授 吉崎 誠

顕微鏡画館

顕微鏡画掲載海藻リスト

顕微鏡画のススメ

顕微鏡と望遠鏡は良く似た構造をしています

 望遠鏡は2枚のレンズを用いて遠くのものを近くに見る機械です。 顕微鏡も2枚のレンズを用い、小さなものを大きく見る機械です。 望遠鏡は鳥や星など、存在するものを直接見る機械です。 でも、顕微鏡はスライドグラスの上に見たいものをのせてプレパラートを作って見るものです。 積極的に見よう、見るぞという気持ちと、薄い切片を作成する技術とが伴わないと見られないものです。

スケッチをすることは知識財産をつくること

顕微鏡をのぞいて見えたものを直接スケッチするフリーハンドスケッチは、生物学の基礎勉強です。生物学科と生物分子科学科、それに薬学部の学生諸君は、実習で何度か顕微鏡をのぞいてのスケッチをした経験があるはずです。なかなか思い通りのスケッチができなくて困った経験をした人はたくさんいるはずです。フリーハンドスケッチよりも写真撮影によって記録した方が確かなデータが得られるはずだと思った人も多いはずです。デジカメで撮影した写真を添付してレポートを作る人がいますが、フリーハンドでスケッチしたレポートの方が、何を見ようとしていたのか、またどこまで正確に見えたのかが明確にわかるのです。何を、いかに的確に観察しているかは、観察する人が顕微鏡を駆使しながらスケッチしたものにはかなわないのです。
 ですから、たくさんのプレパラートを作って、たくさんスケッチを描いた人ほど形態学的知識は豊かです。 観察したことを正確に記録すること、見えるものの中から、見るべきものを的確に描く、すなわち知識財産づくりが顕微鏡画の目的です。

顕微鏡描画装置

 顕微鏡描画装置とは顕微鏡で見られる画像をトレースする機械です。機械が勝手に描いてくれるものではありません。構造はみないたって簡単なもので、接眼レンズの上にプリズムをのせて見ながら描くアッベ式、それに鏡をつけたもの、顕微鏡の鏡筒部分にプリズムをセットした中間鏡筒型、顕微鏡画像をそのまま壁に投影してその内容をなぞるものなどがあります。使用する顕微鏡によっては使えないものもあります。また、どの描画装置も万能というものはありません。それぞれの機械に習熟しなければ同じ人が同じものを描いても、それぞれまったく異なったスケッチができあがってしまいます。

 ここに紹介する顕微鏡画は2つの装置で描いています。その一つは、オリンパスBX型顕微鏡専用の顕微鏡描画装置です。顕微鏡の鏡基と、接眼レンズとの間に、描画装置をセットし、接眼レンズからのぞくと、観察しようとする画面と、右手の手元が重なって見えます。そこで、顕微鏡画像を鉛筆でなぞって描くと、顕微鏡画像を写し取ることができます。もう一つは、アッベ式描画装置で、接眼レンズの上にプリズムを設置し、上からのぞくと観察しようとする画面と、右手の手元が重なって見えます。そこで同じように顕微鏡画像をなぞって描くのです。

▲オリンパスBX型顕微鏡専用の顕微鏡描画装置
▲アッベ式描画装置

 

顕微鏡操作のポイント

 顕微鏡は染色体の縞模様を詳細に観察するために開発されてきた機械です。 染色体は遺伝子でできています。顕微鏡の縞模様を読み取ることができるならば、遺伝情報を直接読み取ることができるとしてどんどん開発が進みました。しかし、遺伝子はDNAを構成する核酸の塩基配列によって決まることなので顕微鏡で直接読み取ることはできません。顕微鏡のレンズはより明るい画面で、高倍率でも詳細に観察できるように開発されてきました。顕微鏡では奥行きのない平面的な像を見るには適していますが、厚い切片で、奥行きのある生物体の構造を見ることはとても困難な機械なのです。
 ここに展示してある顕微鏡画はとても奥行きのあるものばかりです。顕微鏡を観察しながら、粗動・微動装置を駆使して、細胞1個1個を立体的に捉えて描いたもので、とても写真ではとらえることができない立体感のあるスケッチであることが特徴です。

何のために描いているのか

 植物画、細密画は専門の絵描きさんがいて、出版社の注文によって描いています。いわゆる美術品的な価値の高いものです。しかし、この顕微鏡画の専門家はいません。
 これらのスケッチは研究と教育のために書いたものです。形態学は目で見る学問です。目で見たものを、正確に写し取ることが要求されます。いかに正確に見たいと思う組織を捉えて、それをさらに正確に描くかがポイントです。

 もしも、これらのスケッチにアート的な美しさを見出したならば、それは「自然は偉大な芸術家」であるからだと思っています。

スミ入れ

 顕微鏡を見ながら、よくけずった鉛筆で描いてゆきます。できあがったスケッチは鉛筆画です。これに、スミを入れて印刷に回します。スケッチすることよりも、このスミ入れの方が数倍大変です。スミを入れながら、何度も、何度も、顕微鏡を見直して正確な構造を確かめながらスミ入れて完成します。
スミ入れには、丸ペン、ガラスペン、ロットリングペンなどを用います。これらの顕微鏡画のほとんどは、同じ太さの線でスミが入れられるロットリングペンでスミをいれています。通常、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5の5本のペンを用意し、組織の種類によって描き分けています。しかし、線の柔らかさからガラスペンもすてられません。

観察のポイント

 ワカメ、ヒロメ、アオワカメはワカメの仲間です。それぞれ体の中央部分を切ったものです。それぞれの構造の違いが明確にわかることでしょう。さらに、ワカメはコンブの仲間でアラメとの類似性も読み取ってもられることでしょう。クモノスヒメゴケ、ヒメゴケ、クロヒメゴケでは分枝の規則性を読み取っていただけるでしょうか。 ここに展示している藻類は、ふだんあまり目にふれないものです。これらは小川の中や、海の中に生育しているものです。細胞の配列の規則性、その規則性が見せる美しさを読み取っていただければこの展示は大成功です。

 あなたも顕微鏡画を描いてみませんか。


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