海辺でひといき

ウニの発生実験には失敗がない

 卵の発生実験の中でよく知られ、またよく行われている実験がウニの発生である。

 わが国は海に囲まれた島国であり、多種類のウニが容易に採集できること、それぞれの種類の成熟時期が異なることから、1年を通じて配偶子を得ることができる。成熟したウニを採集できると、採卵採精が容易である。 受精させることも容易で、顕微鏡下で直ちに受精膜の形成が観察でき、短時間で卵割を始め、しかもその初期発生は典型的な形をしている。2から3日でプルテウス幼生となる。取り扱いの容易さと、ほとんど失敗のない実験として広く行われている実習のひとつである。

ウニはナマコとヒトデの仲間である

 ウニは棘皮動物である。英語では sea urchin あるいは echinus とよぶ。ナマコやヒトデの仲間である。ウニはトゲトゲばかりが強調されるが、トゲの間 からのびる管足の存在が棘皮動物の特徴である。

 試みに、ウニ、ナマコとヒトデを採集してきて、腹を上にして水槽に入れ、これらの生き物の背中が出る くらいの海水を入れておくと管足を使って起き上がろうとする様子が観察できる。この実験から、ナマコ、ヒトデとウニは管足をもつ仲間であることがよく理解できる。

私たちが寿司屋で食べるウニはウニのどこを食べているのか

 私たちの生活の中でウニは寿司ネタとし高級な食材である。いったい私達が食べている部分はいったいウニの何という器官であるのか。

 また、ウニは何を食べているのだろうか。

 採卵採精した後にウニを解剖して確かめてみるとよい。解剖図を描かせることは大変だけれど も、解剖図を拡大コピーして配布し、それに色鉛筆で塗り絵をさせることもよいだろう。経験 では、塗り絵の教育効果は大きく、消化器官だけでなく、循環器にも注意を払う。また、生ウニのたん白な味もおいしいが、実験後に食べられる部分を集めて、それに少量の酒と塩を 振り、一晩おいたものとを食べ比べてみるのもよいだろう。

図の出典

広島大学動物学会編
池田嘉平、稲葉明彦監修(1971)
「日本動物解剖図説」
森北出版 より


ウニの発生実験

 千葉県南部では6月から8月にかけてムラサキウニ、サンショウウニ、スカシカシパンが成熟する。採集の容易さと、実験の容易さとから発生実験にはムラサキウニが広く用いられている。ここではムラサキウニを用いた実験を紹介する。

ウニの採集

 千葉県下ではウニは自然保護動物に等しい。食べるために採集できる場所はずいぶんと限られているし、実験動物として採取することも資源確保の面から考えると難しい環境にある。なぜ、ウニを実験にも使えなくなるほど減少させたかというと、観光磯客の増加に伴う乱獲、漁師の接客(民宿経営)による乱獲、漁師のウニ採取技術の向上といったことが言われる。

 しかし、筆者らが感じているのはウニの生息場所である良好な広い潮間帯の磯が埋め立てられてしまったり、テトラポットを積み上げられてしまったりと、ウニの良好な生育場所を奪ってしまったことが最大の原因であると思う。もちろん乱獲や、季節外れの採取も原因ではあるのだろうが、生息場所の減少がウニの減少そのものであると言って過言ではあるまい。

 ウニは潮間帯下部から低潮線下3から5mの岩礁海岸に生息する。バフンウニは比較的浅い所の大きな石をひっくり返すと石の裏側に付着している。ムラサキウニはバフンウニよりも深い所の岩の割れ目や、岩のくぼみに群棲している。ウニを石や岩からとろうとすると管足でしっかりと石や岩にへばりついてしまい、容易にとれなくなってしまう。無理に剥がしとるとベリッと音をたてて管足が千切れてしまう。

 ムラサキウニは雌雄異体である。外見的に雌雄を区別することはできない。そこで、実験には複数の個体を用意しなければならない。ふつう、5〜7個体を用意するとよい。実験に用いる最低必要な数で十分であることを考えて採集する。採集したウニはバケツや発砲スチロールの箱に入れて持ち帰る。夏期は高温にならないように氷やアイスノンで冷やしながら持ち帰り、理科室に到着次第、水槽にたっぷりの海水を入れ、その中に入れる。

※ 熱心な生物教師はまた、優秀な採集者であることが多く、熱心な自然破壊者でもあることが多い。
 たくさん採取し、たくさん実験に用い、あまった材料はたくさん死滅させてしまうことも、意外と熱心な教育者に多いのである。実験計画をたて、それにはどれだけの材料が必要なのかを計算し、それだけの個体数以上の採集は慎むべきである。

ウニは何を食べているか

 ウニはおもに海藻を食べる。コンブやアラメなどが好物のようだが、コンブやアラメに登って食べていることはない。千切れたコンブやアラメの葉が海の底にたまったものを食べている。体の下部中心に口があり、白い歯のようなものが見える。これがアリストテレスの提灯と呼ばれて、歯に相当するものである。めったに噛みつかれることはないが、噛みつかれると直径3mmほどの円形の傷ができる。水槽で飼うときには、アオサやヒジキを少量与える。海藻は腐りやすく、水を汚すもとになるのでできるだけ入れない方がよい。


用意する器具

 解剖ハサミ(大小の2丁あるとよい。大きいものは調理ハサミが便利である)解剖皿、9cmシャーレ、 50mlビーカー、300mlビーカー、100ml三角フラスコ、2ml駒込ピペット、ピンセット、ホールスライドグラス(これが特に重要である)、カバーグラス、1/2MKCl、海水、新聞紙


実験手順

KCl法:

ウニの口器のまわりの柔らかいところにハサミを入れて、アリストテレスの提灯を取り出す。
アリストテレスの提灯はウニが海藻をかきとって食べるための歯である。

【手順】

  1. アリストテレスの提灯をとりのぞいたところから体腔液をすてる
  2. そこに1/2MKClを数滴入れる
  3. さかさまのままシャーレに入れておく

すると、K+の働きによって筋肉が収縮して、体上部にある生殖孔から生殖細胞が放出される。 卵なら小さな粒として見え、精子なら乳液状に見える。

 


電気刺激法:

ウニの直径よりも小さなビーカーに海水を満たし、ここにウニをさかさまにして置く。

口器の上に海水で湿らせた脱脂綿をのせる。

電気刺激装置の電極の一端を海水中に、もう一端を脱脂綿上にセットして通電する。

この刺激によって生殖孔から放出された生殖細胞を顕微鏡で観察する。

 

  1. 採卵:海水を満たした三角フラスコに雌のウニを置き、1/2MKClを数滴入れて卵を放出させる。30分ほどしたらウニを取りのぞく。卵はフラスコの底に沈むので、上の海水をすてて、新しい海水で卵を数回洗う。
  2. 採精:雄のウニの赤道面よりやや上方をハサミで切り取る。ピンセットで精巣を取り出し、シャーレ内に入れて蓋をする。これをドライスパームとよぶ。精子を海水に入れると、活発に動いた後にすぐに死んでしまうので海水は入れない。
  3. 助精:卵をピペットで吸い取り、海水を入れたビーカーに入れる。卵はビーカーの底に並ぶくらいがよく、重ならない程度に入れる。精巣からにじみでた精液を白濁しない程度に海水で薄め、精子懸濁液を作る。この精子懸濁液を卵を入れたビーカーに入れ、静かに攪拌する。
  4. 受精:助精すると、たくさんの精子が1個の卵のまわりに、あたかも卵に突き刺さるように集まる。それらの精子の1個が卵内に入ることによって受精が行われ、受精膜が形成される。受精膜は透明で、ムラサキウニよりもバフンウニの方が明瞭である。

 

 

45分授業の中でウニの発生実験は何を観察させると成功とするか

 採卵、採精:卵と精子を放出させる過程で、卵、精子ともに生きているものであることを見る。

 1日に3回ほど、新鮮な海水と交換してやるだけで容易にここまでは見せられるので、実験の2日後くらいに観察の機会を作れば親切である。

失敗するとすればどんなことか

助精する時に、たくさんの精子を入れてしまうことと、放出された卵を入れた海水を交換(洗卵)しないことが失敗の2大原因である。海で採集したものを、運搬の途中で殺してしまう愚。

参考文献
佐藤重平(1954)大学実習生物学実験.裳華房.
石田寿老(1958)生物の実験法.裳華房.
碓井益雄(1962)動物の発生.地球社.
教養生物学実験(1984)共立出版社.

※桑実胚:桑の実にそっくりなのでこの名がある。

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