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青い魚はなぜ青い?
東邦大学名誉教授
大島 範子

色についての基本知識-2-

プリズムの実験を覚えているでしょうか。

屈折率によって発現する色が長波長〜短波長へと変化していることに注目してください。
全ての色を含んだ白色光が屈折によってそれぞれの色に分かれて目に見える光の帯になります。

構造色

色が変化する物質

 前述の色紙の例は、そのものが赤い色素(赤を反射)や黄色い色素(赤と緑の光を反射)を持っているのですが、物質によっては固有の色でない色を見せるものもあります。例えば、太陽の光が、水の上に張った油の膜にあたっている時には表面に複雑な色の層が現れます。これは油が多色の色素を持っているのではなく、油の薄い膜による光の複雑な屈折と干渉の結果です。

 このように、生き物においても特別の色素を持たずに、物理的構造に基づく光の反射で発色する場合があり、“色素色”に対して“構造色”といいます。 西洋人の青い瞳やクジャクの羽の色、モルフォチョウなどのはねの色、玉虫色、魚の青や銀色などが相当します。

 構造色は光の干渉、回折、散乱などによって生じる色ということができます。

 魚の体色変化の不思議には、このうちの「干渉」が深く関わってきます。特に「重層(多層)薄膜干渉」の結果、金属光沢を伴う色が発現します。

 重層薄膜とは異なる屈折率の層が交互に規則正しく成層している構造のことで、屈折率の高い層と低い層とがともに入射光の波長の1/4の“光学的厚さ”(屈折率×実際の厚み)で重なっているときに反射率は非常に高くなります。しかも、重なりの層数が増せば反射の効率が上がるので、透明な薄板の適当な配列によって、ある波長域の色がほぼ完全に反射される“金属光沢”が実現されます。光の波長はミックスすれば白になると言われますが、その究極は銀色です。
  タチウオ、サンマ、カツオ、イワシなどの銀色は、皮膚にある虹色素胞内のグアニンの結晶板と細胞質の適当な成層構造により、可視光波長域の光がほぼ完全に反射された結果であり、「理想型重層薄膜干渉現象」といわれます。

 一方、屈折率の高い層と低い層の実際の厚みに大きな違いが生じ、屈折率の高い層の厚みが極端に薄くなると、「非理想型重層薄膜干渉現象」により、反射光の波長域が狭まり反射率も低下します。その代わり、反射される波長域の色が生じますし、重なりの層数をぐっと増やすことにより、反射率アップをはかることができます。熱帯魚の青や緑の色はこうして生じます。
  モルフォチョウの美しいはねの色も、鱗粉上に並ぶクチクラの棚構造に起因し、クチクラと空気の層の成層による「非理想型重層薄膜干渉」による発色と理解できます。最近、ポリエステルとナイロンの薄膜の成層により、光を反射して色を出す繊維も生産されるようになり、化学物質としての色素を使用しない素材つくりが注目されています。

 さらに、光の散乱による発色もあります。“チンダルブルー”という現象がありますが、晴天の空が青く見えたり、西洋人の瞳が青いのはこの現象によります。

  光の波長に比べて非常に小さい粒子から散乱されるのは短波長であり、レーリー(Rayleigh)によって散乱理論が打ち立てられたので、レーリー散乱と言われています。
  一方、直径が200nmから数十(1=1000nm)の比較的大きな粒子からの散乱にはミー(Mie)の散乱理論が適用されます。粒子のサイズ分布により広い波長範囲の光を散乱することができ、魚類の白色素胞はミー散乱により、白く見えるものと考えられます。その他、蝶や蛾の鱗粉には格子構造を示すものがあり、光の回折現象によると思われる発色の例もあります

薄膜干渉

どんなに薄い膜に見えても実際には厚みがあります。
A・B:膜の表面で反射された光
A1・B1:膜の表面で反射された光
A2・B2:膜の表面を通過して膜の裏側で反射された光

このA2とB1の光が互いに干渉しあって、強めあったり、打ち消しあったりという作用が生まれます。
これは、各々の波長の波の大きさによって変化します。

シャボン玉の表面に現れる虹色の模様は、この薄膜干渉によるものです。

多層膜干渉

光を反射する膜が何層にも重なって薄膜干渉よりも複雑な干渉をおこします。
膜の厚さや枚数、並び方を人為的に組替えることで様々な色を発現させることができます。

下は、光の反射する様子を簡単に図にしたものです。
何層もの膜で反射された光がお互いに干渉し合います。

膜の厚さによって強めあう波長、弱めあう波長が変わります。

 光を吸収する色素とともに、この構造色を利用し、美しい色を見せてくれる魚たちがいます。
鮮やかなコバルトブルーのルリスズメダイや、腹側の縦縞に広い波長域の変化を見せるネオンテトラです。 ただし、これらの魚では異なる屈折率と、異なる厚みを持つ2種類の薄膜(薄膜1・2)が交互に規則正しく成層するという、特別の構造が見られます。


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