キャンパスの植物たち

東邦大学名誉教授  吉崎 誠

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キャンパスの植物達(冬のすがた)

体育館に沿って奧まで

そのまま、体育館に沿って奧まで歩いてゆきましょう。途中、スイカズラ科のサンゴジュViburnum odoratissimum Ker.が大きな常緑の葉を広げ、トチノキ科のトチノキの太い幹が見え、奧にお稲荷さんが祀られています。その先に3つの石碑が並んでいます。   

東邦大学理学部薬学部のある習志野キャンパスは軍隊の跡地です。戦後、戦災で灰燼に帰した大学に軍隊の跡地が下げ渡されたのだそうです。 東邦大学教養科、付属中・高等学校、日大生産工学部、東邦大学理学部薬学部、千葉大学付属腐敗研究所と並んだ大学の前の道は軍隊通りと呼ばれ、戎術病院、騎兵第13聯隊、騎兵第14聯隊、騎兵第15聯隊、騎兵第16聯隊が南に向かって並び、第14聯隊と第15聯隊の間に三山からくる道路が軍隊通りにぶつかる正面には聯隊の総本部がありました。 総本部の跡地は、現在では三山から京成大久保駅に直進する道路となっています。

  

習志野キャンパスは騎兵第13聯隊の跡地です。司馬遼太郎の「坂の上の雲」の主人公の1人である秋山好古は、ここで聯隊長を勤めていました。記念碑の後ろにはそのいわれが刻してあります。 また、司馬遼太郎の記念碑もあります。ぜひ、「坂の上の雲」を一読されることをすすめます。

 

さて、見渡すと最も太く大きな木は落葉樹のブナ科のミズナラQuercus mongolica Fischer ex Turcz. var. grosseserrata (Bl.) Rehder et Wilsonです。木の下にはミズナラの落葉が積もってふかふかしています。 1枚の葉を拾って見ると、ほんの短い葉柄を観察できます。木肌は縦斜に粗い網目のように深く裂けています。 高い所でないと小枝は手に入りません。落ち葉をかき分けると長さ2cm、直径1cm余の大きな楕円体の堅果(ドングリ)が拾えます。 果実が入っていた杯状の総苞も同時に拾えます。果実を割って白い実を囓ってみると、カリコリとして渋みがあります。 木になっている時の果実の味は渋みがあります。焼くと固くなります。あまりネズミにもおいしいと思われないのでしょうか、落ち葉の間にたくさんのドングリを拾うことができます。

 

葉は光合成と呼吸をする器官です。これだけたくさんの葉を落としてしまうと、光合成も呼吸もしないで、死んだように冬をすごすのでしょうか。1年生枝を切って見ることにしましょう。 一年生枝が伸び始めの頃、枝の細胞に葉緑体があり、また、気孔も存在します。落葉した一年生枝を取り、カミソリ刃で切片を作成して顕微鏡で観察すると、皮層細胞の中にはたくさんの葉緑体が含まれています。 成長に伴って表皮の下の皮層との間に周皮を形成します。 周皮は10〜20層の薄い細胞で葉緑体を含んでいません。 周皮の中に、細胞がルーズに集まっている部分があり、そこはかつて気孔があった所が多く、小さなアザのように、小さな虫でもかじったような痕が見られます。 これを皮目(ヒモク)lenticleといいます。皮目で気孔同様にガス交換を行っていると考えられています。皮目は小さいけれども形と、できる場所が植物の種によって異なるものです。

 

大きな木の近くに、同じミズナラの木があり、こちらでは小枝を観察することができます。一年生枝は15〜20cm、長いものは30cmもあります。太さは直径3〜5oあります。 頂に褐色の大きな芽、頂芽があり、五角錐形で、2〜4個の頂生側芽があります。中には、頂芽ほどの大きさのものもあります。 側芽は少し小さいものの、先が鋭く尖っています。二年生枝の側芽は一年生枝の頂芽ほどの大きさがあります。 一年生枝は灰褐色、滑らかでつやがあり、指先で触ってみると皮目が指先でわかる程度に隆起しています。 二年生の皮目は、直径1oほどの円形で隆起していることがわかります。

  

お稲荷さんの裏に、カエデ科のイロハカエデAcer palmatum Thunbergとクロマツがあり、隣接して一抱えもある青っぽい幹の木が2本あります。 この青い幹の木は周りの木と高さを競いながら、決してトップには躍り出ない木です。 その木には赤い果実がみのり、それがたくさん落ちて、容易に発芽した小苗がたくさん芽生えています。 きれいな披針形で、葉の面は緑色で3本の葉脈が明確に見えます。裏を返すと、鮮やかな白です。 さわると、その白が手に移ってきます。ワックスですね。クスノキ科のシロダモNeolitsea sericea (Bl.) Koizumiです。

  

お稲荷さんの裏に、1本のツバキ科のツバキCamellia japonica L.の木があります。 まだ、周りの木が大きく成長する以前には、ここにはクロマツとこのツバキの木しかありませんでした。 周りの木は、後から植えられたり、ひとりでに出てきた芽生えから成長したものなのです。 このツバキの花は基本的に赤と白の絞りです。ところが、どの花もみな赤と白の割合が異なるのです。 それを特徴として品種「和歌浦」と呼んでいます。周りの木が成長して、ツバキの周りは暗くなりかわいそうな気がします。

 

アオギリ科のアオギリFirmiana simples (L.) W. F. Wightは樹皮が一年中青緑色をしています。 ゴマノハグサ科のキリPaulownia tomentosa (Thunb.) Steud. のような大きな葉を広げ、樹皮は青緑色をしていることからアオギリと名付けられました。 滑らかな緑色の樹皮は細かく縦にさけ、まるで涙を流したあとのように緑色の縦条を見せています。 一年生枝もとても太く、枝の先端には、褐色のビロウドのような短い毛に覆われた大きな頂芽があります。 側芽は小さく、葉痕は大きく、ハの字形の托葉痕があります。 枯れて乾いた落ち葉の間を探すと舟形をした花がらの縁に直径8oほどの黒い果実が見つかります。 アオギリは、キリのようにとても成長の早い木です。庭木にすると、とても大きくなって毎年のように刈り込まなければならなくなります。 大きな葉が黄葉し、その葉がバサリ、バサリと落ちて積っていました。

 

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