キャンパスの植物たち

東邦大学名誉教授  吉崎 誠

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キャンパスの植物達(冬のすがた)

中央道路沿い

 中央道路の並木の多くはニレ科のケヤキZelkova serrata (Thunberg) Makinoです。成長が早く、丈夫な木です。  切り込み、刈り込みにも強く、主幹を残してすべての枝を伐り払ってしまっても、春には芽を出して新しい枝を伸ばします。  ここの並木のケヤキは、20%の枝を切り落とすようにしていますが、毎年切り落とすわけではないので成長の方が早くてやがては建物のすべてがケヤキに覆われてしまいそうです。ケヤキの木肌は薄い紫がかった褐色です。  並木の一番手前のケヤキは皮がはがれ落ちています。木肌から直径5cmほどの丸い皮がむけてきています。  樹皮の成長が、材の成長においつかないことからひび割れたり、このようにはがれ落ちてくるのです。  低い位置に生じた枝はすべて切り払われてしまい、小枝は高い位置にしかありません。

   

並木の2番目の木はカバノキ科のイヌシデCarpinus tschonoskii Maxim. です。林の中の高木です。木肌はザラリとした緑がかった灰色です。 老成した樹幹には白く不規則な縦縞模様が見られます。見上げると、小枝は規則正しく互生します。180度回転して芽をつくると、互生になります。 このような互生枝を二列互生枝といいます。所々太い芽が見えます。これには来年の春に垂れ下がって咲く、雄花が入っています。

イヌシデの木の下の花壇には、イネ科のススキMiscanthus sinensis Anderssonが枯れ残っています。ススキはわが国の草原の代表的な植物です。 秋の七草に歌われたオギもススキのことです。70年ほど前は、大久保4丁目は大きなススキの野原だったそうです。これらのススキは高さが2mにもなり、毎年刈られて貯められ、かやぶき屋根のカヤ(茅、萱)として使われました。 カヤとススキは同じものです。大久保4丁目は「カヤ取り場」だったのです。大和田に萱田(カヤダ)という地名が残っています。ここもかつては「カヤ取り場」だったのでしょう。 かつて、それほど遠くない昔のことです。キャンパスのいたる所にススキが生えていました。 背が高く、細い葉の縁に細かな鋸歯があり、ストッキングにふれるとすぐに伝線して困ったものでした。ところが、新しい建物が建てられるとその周辺からススキが消え、キャンパスではほとんど見られなくなってしまったのです。 建物が増えるに従って、消えていった植物達の代表種がススキなのです。キャンパスの絶滅危惧種がススキなのです。かつて、生物学科の植物分類学実習では、ススキの茎(これを桿とよびます)を切って切片を作り、顕微鏡で並立維管束、不斉中心柱の観察を行ったものです。 このようなどこにでも生育していた植物が絶滅危惧種になることはとても悲しいことです。そのような危険を感じてここに保護したのです。花壇は、かつてキャンパスに生育していた草や低木達の救護所なのです。

ススキの隣に、幅5〜8o、長さ30cmほどの細長い葉が密生しています。葉が出ている間は決して花を見ることがなく、花が咲いている時には、決して葉を見ることのない植物がこれです。さあ、何でしょう。答えはヒガンバナ科のヒガンバナLycoris radiata (L'Her.) Herb.です。 現在、リンゴは段ボールの箱に入れて運搬しています。大きな箱には、大きさのそろったものを敷き並べ、仕切りになる紙をいれて2段積みにして入っています。かつて、リンゴは木箱に籾殻(モミガラ)を入れ、その中にリンゴを入れて運搬していました。食べてしまった後のリンゴ箱は丈夫で、積み重ねて本箱にしたものです。 ミカンも木箱に入れて運ばれました。リンゴ箱の6分の1ほどの大きさで、たくさんのミカンがごっちゃに入っていました。現在でも、ミカンは段ボール箱にゴチャゴチャと入っています。しかし、かつての高級ミカンは木箱にきれいに並べられて入っていました。 乾燥しないように、ミカンの上下にはこのヒガンバナの葉がきれいに並べて敷かれ、ミカンの上下にもヒガンバナの葉がきれいに敷き並べられていました。 あの、高級ミカンはどこ産のものだったのか思い出せないことがとても残念に思っています。

体育館に向かって左側に、ホオノキがあります。巨大な筆の穂先のような冬芽がこれです。林の中にあって、幹の太さ1m、高さ30mに達する巨木となるのですが、ここのホオノキは毎年あまり変わらない大きさです。 樹皮は灰色でなめらかです。太い幹はそれでも老樹らしく短い縦裂が入っています。一年生枝はきわめて太く、習字の筆ほどもあります。冬芽は黒っぽい紫褐色で先は尖り、肌はつるつるしています。拓葉起源の2枚の芽鱗に包まれているそうです。側芽は小さく、一年生枝の芽鱗痕の上に、たくさんの葉が密に生じた葉の痕が見られます。 その葉の跡の上にえぐれたように大きな丸い痕があるのは果柄痕です。ここは大きな花が咲き、大きな果実を実られた痕です。

 

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