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地域研究 > 生態系総合モニタリング

指標種のモニタリング Species ecology and environmental monitoring

アカガエルの卵塊モニタリング − カエル好きあつまれ! −

アカガエル

 アカガエルは、湧水が流れ込む田んぼ、昔ながらの土水路、それに連なる斜面林…と伝統的な谷津環境が残っているところにしかすんでいません。そのことはひるがえって、「谷津環境の指標生物」ともいえます。東邦大学の長谷川雅美さんが発起人となり、アカガエル(複数の種を含む)を地道に研究し、知識と情報を共有し、その輪を広げて保全に役立てていこうと作られたのが、日本赤蛙研究会です。年一回、アカガエルに心を寄せる十数名が集って、研究発表を聞いたり情報交換したり・・・そんなささやかな集まりです。卵塊カウントをしていると、いろんな疑問にぶつかりませんか。寿命はどのくらい?生まれて何年で産卵・繁殖行動ができるのか?乾燥にどのくらい耐えられる?ひとつの卵塊に卵は何個?・・・当会の集まりをのぞいてみてください。フィールドから生まれた疑問を投げかけたり、研究成果を聴いたり、お役立ち情報にきっと出会えます。 − 佐倉市 小野由美子

ニホンアカガエル

ニホンアカガエル ニホンアカガエルは、日本に産するアカガエル類8種の中で、最も水田との結びつきが強いカエルである。千葉県の北部では1月から3月にかけての南風の吹く生暖かい夜、水田のたまり水に産卵する。1匹の雌は1年に1回産卵し、気象条件が良いと1つの水田の周囲に生息する個体の大半が一晩のうちに産卵をすませる。そのため、湧き水の豊かな湿田が、真冬に産卵するニホンアカガエルにとって非常に貴重な場所となる。湧き水が豊かなのは、谷津田の集水域に十分な保水機能を持たせるだけの森林があるからだと言ってよいだろう。そして、水田の周囲に森林があるということは、水田で発育したカエルの幼生がやがて変態し小さなカエルとなってから、陸上生活を送る場所が十分に保証されていることを意味する。カエルたちは水田で産卵し、6月上旬にオタマジャクシから小さなカエルとなって上陸する。子ガエルは水田から周囲の草地や林に移動し、そこで成長するのである。

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研究プロジェクト Current Research Projects

卵塊モニタリング

冬の水田で卵塊を探し、標識をつけて総数を記録する。
研究用に水田を借り受け、学生・市民有志と共に稲作を行う。

 アカガエルの卵塊調査は、田んぼに生息しているアカガエル類の個体数を知るもっとも確実な方法である。
 私たちは、1987年に千葉市の平山町で卵塊調査を始め、それ以来毎年各地の谷津田でモニタリングを続けてきた。アカガエル類は、1個体の雌が1年に1回産卵するという性質に加え、卵塊がまとまって確認しやすいという性質から、卵塊の全数カウントによってその地域に生息する繁殖参加雌の個体数を容易に把握することができる。また、産卵時期が植生の少ない冬季に行われるため、卵塊の視覚確認が容易であり、産卵後約半月間はそのかたちと種を判別することができるからである。

 現在千葉県では、市川、船橋、習志野、千葉、八千代、白井、佐倉、四街道、市原、長柄、君津、大栄など12市町村にまたがる多地点で、市民、学生、研究者がそれぞれ自主的に卵塊調査を展開している。こうした調査を通して、広い地域で同調した卵塊数の変動がみられるのか、それとも局所的な条件に応じた変動を示すのか、明らかにしていきたい。

生活史と個体群動態

後肢第4指の指骨横断面に形成される成長停止線を数えて、カエルの年齢を判定する。

 ニホンアカガエルとヤマアカガエルを対象にした個体群統計学的研究を千葉県長柄町の権現森で行っている、ここでは卵塊数カウントを1991年から続け、繁殖集団の詳細な調査を2002年から開始した。冬の夜間に田んぼに出かけ、産卵に集まってきたアカガエルを捕獲し、個体識別用に切り取った指の切片標本を作成する。これによって、年齢を推定する方法を用いて明らかにし、卵から幼生、変態にいたる生命表と繁殖率表を作成する。年齢構造を組み込んだ個体群動態モデルを作成し、個体群存続可能性分析を行うことが目標である。

温度選好性に基づく生息地適合性評価

カエルの体温を模倣する素材を探索し、作用温度モデルを作成、カエルの好む温度環境を把握する。

 カエル類は太陽の輻射熱や地面からの熱伝導を利用して体温を上げている。その一方で、皮膚から水分を蒸発させ、その際に気化熱が奪われることを利用して体温の過剰な上昇を防いでいる。蒸発によって失われる水分は下腹部の皮膚を通して基質(湿った地面など)から吸収し補われる。そのため、カエル類の体温調節にとって、基質からの水分補給は不可欠なのである。では、カエルにとって好適な環境をどのように評価したらよいであろうか。

 カエル類の生息地を評価する研究は、両生類の保護研究の1つとして始められた。カエル類の個体群維持には繁殖のための水田や池などの水辺が必要であり、同時に変態した個体が生活する陸上環境も健全でなければならない。このどちらもが揃っていなくてはならないのであるが、もしどちらか一方が悪化すると他方がまだ良好な環境を保っていても、生息地としての価値がなくなってしまったと判断されてしまう恐れがある。何らかの理由で環境はよく残されているにもかかわらず、カエルだけがいなくなってしまった場所があるかもしれないのである。そのような場合、カエルがいるかいないかではなく、それとは別の客観的な基準でカエルの生活が成り立つかどうかを評価しなければいけないと考えたのである。

 私たちは、実際のカエルの代替となるモデルを利用したセンサーを開発し、そのセンサーを様々な基質の場所に設置して、モデルカエルの体温と水分収支を測定し、カエルにとっての生息環境の評価を行おうと考えた。モデルカエルの体温が本当のカエルの好適体温範囲にどれだけ近いかを測ることによって、定量的な生息地評価の手法を開発している。

アカガエル類を典型性の注目種とした定量的予測手法によるアセスメントの試み

 環境影響評価(以下、「アセス」という)法のなかで新たに追加された「生態系」項目では、事業による影響を予測する際の定量的な手法の開発が課題とされている。環境省の技術検討委員会報告(2005)においても、「予測は定量的な把握を基本とするとの考え方に基づき、我が国でも適用できるような手法の開発と普及に向けた取り組みが必要」とされている。

 社団法人日本環境アセスメント協会・研究部会 自然環境影響評価技法研究会では、2002−2003年度にかけて生態系の典型性の注目種等に係る調査・予測手法に関する研究に取り組み、そのなかで、アカガエル類を注目種として選定し、定量的な調査・予測手法の検討を行ってきた。

アカガエル類は、以下の理由により生態系における典型性の注目種に適していると考えられる。

  1. 短命で個体数が多く、高次の捕食者の重要なエネルギー(餌)資源となっていることから食物連鎖を支えている。
  2. 生息環境として繁殖環境(産卵環境、幼生の生息環境)である水域と、陸上生息環境(成体の生息環境)である樹林・草地等の2つの異なる環境を必要とする。
  3. 卵塊による生息の確認が比較的容易である。

 研究室では、定量的な調査・予測手法の検討に加わると供に、野外調査を通じて研究会の活動を支援している。

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