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免責事項


野外生態学実習1 > 房総丘陵・大福山 2005年度実施要項

担当 : 長谷川 雅美
地理生態学研究室URL:http://webbio.bio.sci.toho-u.ac.jp/lab_geoeco/geoeco.html
http://island.bio.sci.toho-u.ac.jp/geoeco/

1.テーマ
: クモ類を対象に、種の多様性と生態学的地位について学ぶ

2.内容

 上記生物群を対象に、上位分類群の系統関係、種の同定、形態の記載と測定、標本作製、保管・管理、生息環境の記載方法などを実習します。動物の生息環境記載に不可欠な植生の見方、植物の識別などについても盛り込む予定です。レポートは観察したクモ類の目録作成、生態学的地位に関する生態調査の結果をまとめて、提出。クモ類目録は、Kishidaia(東京クモ談話会会誌)あるいは千葉生物誌(千葉県生物学会研究会誌)に投稿を目標にまとめる。

オオシロカネグモ 撮影:長谷川雅美

3.実習地 : 房総丘陵、君津市大福山

実習地略図 房総丘陵の大福山山系のほぼ中心部に位置し、房総丘陵全体をみてもその中央部に位置している。大福山は、東京湾に注ぐ養老川の3つの支流(浦白川、芋原川、梅ケ瀬川)と小櫃川の1つの支流(御腹川)の水源地となっており、福野小学校の北東に位置する浦白川源流部と南東に位置する梅が瀬渓谷は、千葉県の自然環境保全地域の指定を受け、将来的な開発から守られている。その一方で、小櫃川水系に属する御腹川の源流部には大小4つの産業廃棄物最終処分場が既設、あるいは建設中であり、千葉県の自然環境の良い面と悪い面を併せ持った立地環境となっている。
  これらの流域は、水田耕作が継続している里地・里山的環境(御腹川流域、芋腹川流域、浦白川流域)とすでに耕作が放棄され原生的自然への復帰が図られている流域(梅ケ瀬川流域)に分けられ、房総半島の原生的自然と里山としての2つの側面をコンパクトに体感できる立地となっていることが大きな特徴である。
  梅ケ瀬渓谷と浦白川源流域の2つの自然環境保全地域(梅が瀬渓谷自然環境保全地域(236.65ha);大福山北部自然環境保全地域(103.86ha))は、房総丘陵の代表的自然環境であり、この両自然環境保護区が大福山の南北に設置されたことによって、総面積300ヘクタールにのぼる広大な保護区が形成されている。ここには房総半島に生息する野生生物のほぼ全ての種が生息し、野外教育・研究のフィールドとして十分な条件を備えるとともに、房総半島の中央部に位置するという地理的条件により、ここを拠点として、東京湾・太平洋岸のフィールドへの展開が容易であることも本立地の大きな魅力となっている。

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4.宿泊地

宿泊地 福野小学校の様子
君津市の許可と地元自治会のご厚意により、2005年度は試験的に利用させて頂いています。
2006年度からは正式に実習地として利用させて頂く予定です。

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5.日程 : 2005年9月12日−16日(現地3泊4日、大学実習室2日)

日付 時間 内容
9/12(月) 9:00-17:00 陸上無脊椎動物の中で節足動物の主要群の標本を観察した後、クモ類の主要な科の参照標本を双眼実体顕微鏡で観察し、科の識別に用いる単眼の配列模式図を作成する
(9:00-12:00) 節足動物門の主要グループ(甲殻綱、多足綱、昆虫綱、クモ形綱の代表種を観察し、形態的特徴を整理する。
(13:00-16:00) クモの8科(ジグモ科、ユウレイグモ科、コガネグモ科、ヒラタグモ科、コモリグモ科、フクログモ科、カニグモ科、ハエトリグモ科)に属する種の単眼配置を観察し、テキストを参考にして科別の単眼の配列模式図を作成する。
9/13(火) 12:00 福野小学校校庭現地集合
13:30-16:00 地形と生物相の把握、クモ相の把握(見つけ取り・カード記入・採集・同定)調査、宿舎付近の夜間採集。
9/14(水) 9:00-16:30 クモ相の把握(見つけ取り・カード記入・採集・同定)調査
環境を満遍なく探す。継続
20:00-22:00 データ整理・生態調査の企画、計画書作成
9/15(木) 9:00-16:30 生態調査(環境毎にテーマを決める)
20:00-22:00 データ整理
9/16(金) 9:00-12:00 移動時間
13:00-:1700 大学実習室にて、採集した標本の同定、整理

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6.個人持ち物

デイパック/水筒/雨具(合羽)/帽子/タオル/軍手/長袖シャツ/運動靴/常用薬/ビニール袋/野帳/コンパス(方位磁石)/筆記用具/懐中電灯/保険証のうつし/虫除け/日焼け止め/米(6食分、5合) /シュラフ

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7.費用

  金額の目安 備考
宿泊費・食費(2食) 1,500円 x3泊 自炊の食費
500円x3日=1,500円を含む
交通費 津田沼→五井(JR) 480円 片道
五井→上総大久保(小湊鉄道) 1,160円 片道
養老渓谷駅→福野小学校(タクシー) 2,000円 4人 大多喜タクシー(株)

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8.参加者及び班構成

班名 人数
オニグモAraneus班 4名
ジグモ Atypus班 4名
コガネグモArgiope 班 4名
コモリグモLycosa班 4名
班構成 : 班長・会計・記録

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9.実習課題 : クモ目の棲み場所(生態分布)と形態の多様性

 陸生の節足動物門の中で、昆虫綱はもっとも種数が多く生態学的にも多様な進化を遂げ、食性やそれを反映した摂食器官(口器)も著しく多様である。それに対して、他の綱に属する節足動物は、綱毎にほぼ決まった形態的特徴を示し、生態学的にも一定の地位を占めている。例えば、全てのクモ目は他の動物を襲う捕食者であり、植物食者はいないが、昆虫にはグループ全体で多様な食性(捕食性、吸血性、植物食(葉、果実、蜜、材)、寄生性、腐肉、植物遺体など)と食性に応じた口器を有している。
 生態的に多様に分化した昆虫類は、それぞれ異なる生活資源を利用するため、同じ場所に複数の異なったグループが生活することが可能である。一方、全てが捕食者であるクモ類は、それぞれの種が同じタイプの餌資源(主に昆虫類)を利用しつつ、餌の取り方や微細な住み場所を違えることで共存している。
 実習では、ある植生に同所的(同じ場所に)生息するクモ類の種類構成、微細生息場所、餌の獲り方(網の形態、設置場所、設置時間)、活動時間帯、形態的特徴を調べることを通じて、クモ類における生態的多様化の実態を学ぶ。

1−2日目
クモ類のファウナ調査。班毎に新しく発見した種類を生かしたまま、透明容器、チャック付きビニル袋等に入れて宿に持ち帰り、科レベルまでの同定を行う。同じ科に属するが異なる種が複数捕獲されている場合には、枝番号を付けて仮に種の区別をしておく。クモを捕獲する際、網を張っているクモの場合は、網の特徴をスケッチしておくことを忘れない。
 種の同定にはルーペ、携帯用双眼実体顕微鏡(ファーブル)を用いる。クモは発砲スチロールの上に置き、肢を伸ばした状態にしてから、ノギスを用いて形態測定を行う。測定部位の選択に際しては、大きさを指標する部分と、形の違いを指標する部分を意識して区別する。測定箇所を選ぶにあたっては、採集したクモを一列にならべ、形態的な特徴の違いが著しく現れている箇所を探し出す。そのとき、選んだ特徴がその種のどのような生態的、行動的特性を表しているのか、班内で議論しメモを残しておくように。
  測定終了後の個体はガラス製の管瓶にラベル(採集地名、採集年月日、採集者名をケント紙に鉛筆で記入したもの)とともに入れ、標本とする。管瓶には固定及び保存液として80%エタノールを入れる。

3日目
特定の植生(人家の周辺、森林内、水田、渓流沿いなど)から、対照的な2つの調査地(森林内と渓流沿いなど)を選ぶ。選んだ地点の位置と標高を地図上で確認する。一定面積の調査区を設定する。一定の探索時間内に調査区内で発見されたクモをすべて採集し、発見した時の状況を個体毎に記録する。捕獲したクモはチャック付きビニルに入れる。クモを採集した場所にテープで目印をつけ、そのテープとクモを入れたチャック付きビニルには同じ番号を記入し、観察を終えたクモを元の場所に逃がせるようにする。記録項目は以下を参考にして各班で相談して決めること。1日目の夜には、記録用紙の下書きを作り、2日目の夜までに完成させ、3日目には使用出来る状態にする。

行動形態とスケッチ
 野外で採集し、宿舎へ行かしたまま持ち帰った個体は、逃げ出さないように気を配りつつ1個体ずつ広めの容器に移してから行動を観察する。観察の観点としては、歩行速度、跳躍頻度、跳躍距離、威嚇、擬死、などである。運動機能について定量測定(歩行速度、跳躍頻度、跳躍距離)を行うか、定性的な記述にとどめるかは班のメンバーで相談して決める。
 行動観察が終わった個体は一旦保管容器に戻す。形態観察に入る前に、観察対象個体をエタノール溶液で殺し、シャーレに移す。ルーペあるいは、双眼実態顕微鏡の下で、外部形態をスケッチする。背中側からのスケッチが終わったら、実習書の絵解き検索表を用いて種の同定作業に入る。スケッチと同定作業は同時進行でも良い。スケッチは1枚のケント紙に1個体分を描き、同定の決め手になった部位の名称と拡大図を添える。
 スケッチを描く際に、見えたままを描くのではなく、対象生物の特徴をはっきりと示すように、標本の姿勢や脚、触角の位置を整える。体型を正確に描くには、観察個体を測定し、倍率を定めてケント紙上に基本レイアウト(縦横、輪郭)を整える。スケッチ1枚には、科名、学名、採集場所、採集者名、採集年月日、自分の名前に小文字でdel(誰が描いたかを示す記号)を書き加え、ケント紙の右下角にデザイン良く収める。

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調査用具

  • 捕虫網−飛翔昆虫の採集、木の枝をたたき、そこに生息する種を下に落とし、網で受け止める
  • 吸虫管−微細な種を傷つけずに採集する
  • 小型ペットボトルを用いた採集容器(ペットボトルの底をナイフで切り取ったもの、蓋は付けておく)−すばやく徘徊するクモの採集道具
  • チャック付きビニル袋−採取した個体の一時保管
  • 透明プラスチック瓶−採取した個体の一時保管
  • 絵筆−生かしている個体を容器から別の容器へ移動させる際に用いる
  • ピンセット−標本のハンドリング
  • ワリバシ−標本のハンドリング
  • ヘッドランプと懐中電灯(なければ、どちらか1つ、両方あると便利)−夜間採集、木の穴の中を探す
  • スコップ−土壌のサンプルを採取する
  • ビニル袋−採取した土壌を一時保管する
  • ビニル風呂敷(大型のビニール袋可)−土壌中のクモやワラジムシを探すのに採取した土を広げて探す
  • ルーペ−野外観察及びスケッチ用
  • 1/2500地形図−調査地点の位置記録(大学側で用意する)
  • 買い物カゴ−採集道具入れ
  • 検索表・絵解き検索図−標本の同定
  • 図鑑−標本の同定、解説
  • ノギス(20cm)−標本測定
  • 発泡スチロールの小片−標本固定台
  • まち針−標本の整形と固定
  • プラスチック製物差し(30cm)−スケッチ用
  • ケント紙(A4版)−スケッチ用
  • ファーブル(屋外用簡易双眼実体顕微鏡)−種の同定及び観察用
  • タッパーウエア−小物道具入れ
  • スクリューバイアル(SV10ml)(100個入り3箱)−液浸標本の保管
  • アルコール原液−液浸標本保存液
  • メスシリンダ(プラスチック製、500ml)−アルコール濃度調整用
  • 分注瓶(塩ビ)−標本用ガラス小瓶へエタノール溶液の分注用
  • 大型ポリ便(100ml)−大型サンプルの保存用
  • プラスチックシャーレ−標本の観察用

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