掲載:2010年3月25日

アホウドリ保護・研究・調査報告

共同研究の発表 2010

 次の共同研究が発表されました。

1)Finkelstein, M. E., Wolf, D., Goldman, M., Doak, D. F., Sievert, P. R., Balogh, G., Hasegawa, H. 2010. The anatomy of a (potential) disaster: volcanoes, behavior and life history of the Short-tailed Albatross Phoebastria albatrus. Biological Conservation, 143:321-331. 

アホウドリは、現在、伊豆諸島鳥島と尖閣諸島(南小島・北小島)の2カ所で繁殖しています。鳥島は日本列島で最も活発に活動している火山の一つで(1902年と1939年に大噴火、2002年には小噴火)、しかも鳥島集団は種全体の約85%を占めています。もし、繁殖地の鳥島火山が大噴火を起こしたら、アホウドリの命運はどのように左右されるのだろうか。また、かれらが採食する海域で漁業による“混獲”の犠牲になり死亡率が増加した場合、アホウドリの個体数はどうなるのだろうか。こうした疑問に答えるべく、アホウドリ集団の詳細な数のモデルをつくり、火山噴火の頻度とその影響や率についていくつかのシナリオを設定して、アホウドリ集団の存続可能性をくわしく検討しました。その結果、10年間に3、4回というように極端に頻繁に噴火しない限り、火山噴火の影響は少なく(集団全体の約75%は海上で生活していて、噴火の難を逃れるため)、むしろ日常的に起こっている混獲によって死亡率が数%増加することの方がアホウドリ集団に致命的な影響を及ぼすと推論されました(アホウドリは少産少死・長寿命なので、若鳥や成鳥が死亡すると将来の繁殖が消滅する)。

 

 

2) Kuro-o, M., Yonekawa, M., Saito, S., Eda, M., Higuchi, H., Koike, H., Hasegawa, H. 2010. Unexpectedly high genetic diversity of mtDNA control region through severe bottleneck in vulnerable albatross Phoebastria albatrus. Conservation Genetics, 11:127-137.

多くの人の協力によって、アホウドリ集団の遺伝学的多様性が解析されました。ミトコンドリアDNAの制限領域(Dループ)の塩基配列を決定し、遺伝学的な型(ハプロタイプ)を比較した結果、鳥島のアホウドリ集団は遺伝学的にかなり多様で、近親婚の繰り返しによる生存力の低下を心配しなくてもよいことがわかりました。アホウドリは短期間に(この種の世代時間に比較して)大量に捕獲されましたが、生き残った個体はランダムに取り出されたサンプルに相当し、「絶滅」が懸念された1940〜1950年代にも、かなりの数の個体が広大な海洋に生き残っていたと推測されます。それらがしだいに鳥島にもどって繁殖を開始したと考えられます。非常に長生きであることがアホウドリを絶滅の渦から救出したといえるでしょう!