掲載:2012年2月28日

アホウドリ保護・研究・調査報告

共同研究の発表 2010

 次の共同研究が発表されました。

1)Finkelstein, M. E., Wolf, D., Goldman, M., Doak, D. F., Sievert, P. R., Balogh, G., & Hasegawa, H. 2010. The anatomy of a (potential) disaster: volcanoes, behavior and life history of the Short-tailed Albatross Phoebastria albatrus. Biological Conservation, 143:321-331. 

アホウドリは、現在、伊豆諸島鳥島と尖閣諸島(南小島・北小島)の2カ所で繁殖しています。鳥島は日本列島で最も活発に活動している火山の一つで(1902年と1939年に大噴火、2002年には小噴火)、しかも鳥島集団は種全体の約85%を占めています。もし、繁殖地の鳥島火山が大噴火を起こしたら、アホウドリの命運はどのように左右されるのだろうか。また、かれらが採食する海域で漁業による“混獲”の犠牲になり死亡率が増加した場合、アホウドリの個体数はどうなるのだろうか。こうした疑問に答えるべく、アホウドリ集団の詳細な数のモデルをつくり、火山噴火の頻度とその影響や率についていくつかのシナリオを設定して、アホウドリ集団の存続可能性をくわしく検討しました。その結果、10年間に3、4回というように極端に頻繁に噴火しない限り、火山噴火の影響は少なく(集団全体の約75%は海上で生活していて、噴火の難を逃れるため)、むしろ日常的に起こっている混獲によって死亡率が数%増加することの方がアホウドリ集団に致命的な影響を及ぼすと推論されました(アホウドリは少産少死・長寿命なので、若鳥や成鳥が死亡すると将来の繁殖が消滅する)。

 

2) Kuro-o, M., Yonekawa, M., Saito, S., Eda, M., Higuchi, H., Koike, H., & Hasegawa, H. 2010. Unexpectedly high genetic diversity of mtDNA control region through severe bottleneck in vulnerable albatross Phoebastria albatrus. Conservation Genetics, 11:127-137.

多くの人の協力によって、アホウドリ集団の遺伝学的多様性が解析されました。ミトコンドリアDNAの制限領域(Dループ)の塩基配列を決定し、遺伝学的な型(ハプロタイプ)を比較した結果、鳥島のアホウドリ集団は遺伝学的にかなり多様で、近親婚の繰り返しによる生存力の低下を心配しなくてもよいことがわかりました。アホウドリは短期間に(この種の世代時間に比較して)大量に捕獲されましたが、生き残った個体はランダムに取り出されたサンプルに相当し、「絶滅」が懸念された1940〜1950年代にも、かなりの数の個体が広大な海洋に生き残っていたと推測されます。それらがしだいに鳥島にもどって繁殖を開始したと考えられます。非常に長生きであることがアホウドリを絶滅の渦から救出したといえるでしょう!

 

 

共同研究の発表 2012

1)Eda, M., Koike, H., Kuro-o, M., Mihara, S., Hasegawa, H., & Higuchi, H. 2012. Inferring the ancient population structure of the vulnerable albatross Phoebastria albatrus, combining ancient DNA, stable isotope, and morphometric analyses of archaeological samples. Conservation Genetics, 13:143-151.

羽毛採取のために乱獲され、20世紀半ばには絶滅したと信じられたアホウドリは、1951年1月6日に伊豆諸島の鳥島で約10羽が、また1971年4月1日には尖閣諸島の南小島で12羽、北小島で2羽、合計14羽が"奇跡的"に再発見されました。この研究では、鳥島と尖閣諸島の2つの現繁殖集団と北海道礼文島の浜中遺跡から発掘されたアホウドリ(繁殖地ではなく、約1000年前に周辺海域で捕獲された個体)の骨によって復元された1つの考古集団について、ミトコンドリアDNAを抽出して塩基配列(制限領域とシトクロームb)を決定し、集団遺伝学的に解析しました。その結果と安定同位体比や形態学的な分析をあわせて考察すると、現在の2繁殖集団は、1000年前には遺伝学的に分化していた2つの系統に属し、それらはお互いにかなり異なり、それぞれ独立した集団である可能性が高いと考えられました。そうであれば、アホウドリの保護を推し進めるときに、それぞれの繁殖集団を重視しなければならなくなります。今後、尖閣諸島集団の現状調査と保護に、早急に取り組まなければなりません。