掲載:2008年6月12日
うれしいニュースが二つあります!2008年2月19日に、ヘリコプターで鳥島から南に約350km離れた小笠原諸島の聟島に運ばれた10羽のアホウドリのひなは、山階鳥類研究所の出口智広さんたちのたいへんな努力によって、きっちりと育てられ、すべて巣立ちを迎え、無事、5月下旬に海に飛び立ちました。衛星追跡によって、その後、順調に渡りの旅をつづけていることがわかっています。
それらのひな以外に、今シーズン、鳥島から合計270羽のひなが巣立ちました。この数は昨シーズンより39羽も多く、再発見以降の最高数を記録しました。鳥島集団の個体数は順調に増加し、総個体数は推定でおよそ2140羽になりました。
2008年4月5日から5月3日まで、第98回鳥島アホウドリ(オキノタユウ)調査を行ないました。鳥島には4月6日に上陸し、23日間滞在して、4月29日に島を離れました。その調査結果を下表にまとめました。
表.鳥島におけるアホウドリの繁殖状況.最近5年間の産卵数と巣立ちひな数(繁殖成功率)を示す。
燕崎従来コロニー |
新コロニー |
鳥島全体
| ||||||||||
西地区 |
東地区 |
小計 |
燕崎崖上 |
北西斜面 |
||||||||
産卵年 |
卵 |
ひな |
卵 |
ひな |
卵 |
ひな |
卵 |
ひな |
卵 |
ひな |
卵 |
ひな |
2003年 |
159 |
107 |
117 |
85 |
276 |
192 |
0 |
0 |
1 |
1 |
277 |
193 |
繁殖成功率(%) |
67% |
73% |
70% |
100% |
69.7% |
|||||||
2004年 |
174 |
113 |
122 |
34 |
296 |
147 |
2 |
0 |
4 |
4 |
302 |
151 |
繁殖成功率(%) |
65% |
28% |
50% |
0% |
100% |
50% |
||||||
2005年 |
213 |
139 |
93 |
42 |
306 |
181 |
4 |
1 |
15 |
13 |
325 |
195 |
繁殖成功率(%) |
65% |
45% |
59% |
25% |
87% |
60% |
||||||
2006年 |
230 |
156 |
84 |
57 |
314 |
213 |
3 |
2 |
24 |
16 |
341 |
231 |
繁殖成功率(%) |
68% |
68% |
68% |
67% |
67% |
67.7% |
||||||
2007年 |
255 |
182 |
88 |
59 |
343 |
241 |
4 |
4 |
35 |
25 |
382 |
270 |
繁殖成功率(%) |
71% |
67% |
70% |
100% |
71% |
70.7% |
燕崎斜面にある従来コロニーでは、西地区から182羽、東地区から59羽、合わせて241羽のひなが巣立ちました。その斜面の崖上にある新コロニーからは4羽、燕崎から見て島の反対側にあたる北西斜面の新コロニーからは25羽、鳥島全体では270羽のひなが巣立ちました(2008年2月19日に小笠原諸島島聟島列島の聟島に運ばれたひな10羽は、この数には含まれていません。それらはすべて西地区から運ばれました)。
今シーズン、巣立ったひな数は予測よりも20羽多くなりました(第97回アホウドリ調査報告を参照.。小笠原諸島に運ばれたひなを加えれば、+30羽)。これは、おそらく、鳥島でこの冬の天候がおだやかで、卵やひなの事故死が減り、繁殖成功率が向上したためでしょう。1951年の再発見以降、繁殖成功率の記録がある40年のうち、それが最も高かった年は半世紀も前の1958年(産卵年)で90.0%、2番目に高かったのは2000年で72.7%、3番目が今シーズンの70.7%でした。繁殖成功率が70%を超えたのは、40年のうちでもこれら3年しかありません。
また、2004産卵年に春の嵐の影響を受けて繁殖成功率が著しく低下した従来コロニーの東地区で、その後の営巣環境の保全管理補完作業によって、繁殖成功率が元の水準に回復してきました(28%から67%へ)。このことが、従来コロニー全体の繁殖成功率の回復(50%から70%へ)に寄与し、ひなの“増産”がもたらされました。
もし営巣環境が大きく変化しなければ、繁殖集団の単純モデルによって、来シーズン(2008産卵年)には鳥島全体で、およそ410組のつがいが産卵すると予測され(区域別予想:西地区270組、東地区90〜95組、燕崎崖上5組、北西斜面40〜45組)、265〜270羽のひなが育つと期待されます(繁殖成功率を過去10年間の平均値65.3%として)。これらのうち、15〜20羽のひなが小笠原諸島に運ばれるとすれば、鳥島から約250羽が巣立つことになります。
同様に、そのつぎの2009産卵年には約440組が産卵し、280〜290羽のひなが育てられ、20羽が小笠原諸島に運ばれれば、260〜270羽のひなが鳥島から巣立つでしょう。さらに、そのつぎの2010産卵年には、約480組が産卵し、310〜320羽のひなが育てられ、鳥島からはおよそ290羽のひなが巣立ち、さらに2010産卵年には、約500組が産卵して鳥島から300羽のひなが巣立つと期待されます。
この5年間に、燕崎斜面の従来コロニーでは1535個の卵が生まれ、974羽のひなが巣立ち(63%)、北西斜面の新コロニーでは79個の卵から59羽が巣立ちました(75%)。従来コロニーからの若鳥の移入によって急速に成長している北西斜面の新コロニーでは、平均的繁殖成功率が従来コロニーでよりも10%以上高く、今後、鳥島全体の繁殖成功率を引き上げるにちがいありません。その結果、鳥島集団の増加率は少しずつ高くなるはずです。
2008年6月現在、鳥島集団の総個体数は、繁殖年齢に達している成鳥(7歳以上)が推定で約935羽、1歳から6歳までの若鳥も約935羽、それと巣立った幼鳥(0歳)が270羽で、合計およそ2140羽になりました。1999年5月に1000羽を超えてから9年間で、2倍の2000羽に到達したことになります。したがって、従来コロニーの保全管理作業を継続して、そこでの繁殖成功率を60〜70%程度に維持すれば、9年後の2017年5月に総個体数は4000羽を超え(今後、2012年まで鳥島から小笠原諸島にひなを運ぶので、その数によっては1年遅くなるかもしれませんが)、それから4年後の2021年5月には5000羽を超えるはずです。
繁殖集団の単純モデルや回帰分析によると、2020産卵年に鳥島集団の繁殖つがい数が1000組に達ます。ぼくは、燕崎斜面の従来コロニーと北西斜面の新コロニーにそれぞれ半数の500組ずつが産卵するようになり、その後は繁殖つがい数は新コロニーの方が多くなると推測しています(第97回アホウドリ調査報告を参照)。それまでは従来コロニーが主な営巣地なので、そこでの繁殖成功率を60〜70%に維持するように努力しなければ、上述の個体数増加を実現することはできません。
2008年6月中旬に、ぼくは鳥島に赴き、少しでも繁殖成功率を引き上げ、ひなを“増産”するため、従来コロニーの保全管理補完作業(中央排水路に堆積した土砂の除去、砂嵐から鳥を守るための営巣地辺縁部へのチガヤ株の植栽、安定した営巣場所の形成など、きめ細かな作業)を行ないます。