掲載:2007年6月4日

第95回鳥島アホウドリ調査(2007年4月)報告

オキノタユウ(=アホウドリ)のひな、231羽が海に飛び立つ
〜 そのうち16羽が北西斜面の新コロニーから巣立ち〜

2007年3月18日から5月4日に、95回目の鳥島オキノタユウ調査を行ないました。

3月18日に八丈島に着き、無人島生活の準備をして、3月23日に神湊港から鳥島に向けて出航したものの、途中でにわかに風が出てきて波が高くなったため、青ヶ島の手前から八丈島に引き返しました。その後、海が荒れてなかなか出航できず、八丈島で海が穏やかになるのを13日間待機して、4月6日にようやく鳥島に向け出帆しました。

4月7日に鳥島に到着し、ただちに上陸してベースキャンプを設営し、23日間滞在して調査・観察をつづけ、30日に鳥島を離れました。  

4月26、27日にひなに足環標識を装着し、巣立ちひなの数を確定しました。昨年12月の産卵数調査とあわせて、2006-07年期の繁殖成績をつぎの表1にまとめました。

表1 鳥島における2006-07年繁殖期の繁殖状況

区域
産卵数
巣立ち数
繁殖成功率
(前年比)
燕崎
東地区
84
57
68%
 ( +23% )
西地区
230
156
68%
 ( +3% )
崖上平地*
3
2
67%
 ( +42% )
北西斜面*
24
16
67%
 ( -20% )
合計
341
231
68%
 ( +8% )

従来コロニー

 従来コロニーは鳥島の南東端に位置する燕崎斜面にありまその西地区は、高い崖の下にあり、その崖によって強風がさえぎられるため、繁殖成功率がこの6年間にわたって65%以上に維持されました。

 一方、東地区はなだらかな尾根の上にあり、南からや東よりの風の影響を受けやすいため、この数年間に繁殖成功率が大きく変動し、2004-05年繁殖期にはこれまで最低の28%で、昨シーズンは42%、今シーズンは68%でした。今シーズン、東地区での繁殖成功率がおおはばに改善された結果、燕崎斜面の従来コロニーから合計213羽のひなが巣立ちました。

 2004-05年繁殖期に2組のつがいが初めて産卵した燕崎崖上の平地の新コロニーでは、その年には両つがいとも繁殖に失敗しましたが、昨シーズンに初めて1羽のひなが巣立ち、今シーズンは2羽が巣立ちました。しかし、ここには営巣に適した場所が少なく、繁殖つがい数の急速な増加は見込めません。  

 旧気象観測所のある北西側の斜面の中腹にデコイと音声再生によって形成された新しいコロニーからは、16羽のひなが巣立ちました。ここでの繁殖成功率は67%で、昨シーズンより20%低く、従来コロニーとほぼ同じ水準になりました。  

 鳥島全体では、昨年12月の予想(第94回調査報告を参照)より約20羽も多い、231羽のひなが巣立ちました。1998年に100羽を超えるひなが巣立ってから9年で、ついに200羽を超えたのです。  

 東地区で繁殖成功率が回復した理由は、今シーズン中におそらく強風が吹かなかったためと、2年前に被害を受けた植生が少しずつ回復してきたためだろうと推測されます。そのほかに、保全管理作業が繁殖成功率の向上に寄与している可能性があります。2005年から、火山灰が混じった強風から卵を抱く親鳥や幼いひなを守るため、東地区西側の縁に沿って、チガヤの株が一列に移植されました。それらが成長して本格的に防風のはたらきをするのはまだ先ですが、すでにいくらか効果を発揮し始めているのかもしれません。

 2年前に東地区で繁殖成功率が最低を記録してから、一部の繁殖つがいがそこでの営巣を放棄して他の場所に移動し、繁殖年齢前の若い鳥も東地区を避けて、おもに北西斜面の新コロニーに定着したと考えられました(前回の報告を参照)。しかし、今回の観察で、営巣環境が改善されつつある東地区に若鳥が再び住み着こうとしていることが観察されました。今後、東地区の保全作業を継続すれば、好適な営巣環境が創り出され、ここでの繁殖成功率が60〜70%に維持されるはずです。その結果、若鳥の住み着きが促進され、数年後には繁殖つがい数が元の水準(約120組)を回復するにちがいありません。

新コロニー

 北西斜面の新コロニーで繁殖成功率が67%に下がった原因を特定することはできませんでした(2004-05年期は100%、2005-06年期には87%)。考えられる要因として 、

などが考えられます。今後の継続調査で、新 コロニーの繁殖成功率に影響を及ぼす要因が明らかにされるでしょう。

 今シーズンからデコイや音声再生放送装置が撤去された新コロニーで、日没時刻に観察された個体数は平均55.2羽で(観察日数20日、最少16羽、最多80羽)、昨年の同 時期より5.4羽だけ増えました。しかし、昨年12月の抱卵期に観察された日没時の滞在個体数は平均68.2羽だったので、13羽だけ少なくなりました。新コロニーに多数の鳥が定着し始めた2003年3〜4月以降、日没時の観察個体数は調査のたびに順調に増えてきましたが、今回は19%も減少しました。 減少した理由の一つに、上陸が遅くな り調査期間が例年より後にずれたことがあげられます(鳥島全体での観察数は、4月中旬ころから鳥島を離れる非繁殖個体が多くなるため、3月のほうが多い)。また 、2年前に鳥島から巣立ったひなの数が151羽と少なかったため、鳥島にもどってきた若鳥の数自体が少なかったことも影響しているでしょう。しかし、昨年は195羽、今 年は231羽と巣立ちひな数がおおはばに増えたので、それらが成長して鳥島に帰還しはじめる来シーズン以降は、新コロニーに住み着こうとする若鳥の数が着実に増加す るでしょう。

 新コロニーに滞在していた鳥の大部分は繁殖年齢前の若い鳥で、およそ10組の新しいつがいができていました。このことから予想すると、来シーズンにはここでおそら く30〜35組のつがいが産卵し、20〜25羽のひなが巣立つと期待されます。

来シーズンの予測

 2007年11月には、燕崎斜面の従来コロニーで約340組、崖上の平地で3〜4組、北西斜面の新コロニーで30〜35組、合計370〜380組のつがいが産卵し、もし繁殖成功率が 今シーズン並みならば、約250羽のひなが巣立つはずです。

 来シーズンから小笠原諸島への移住作戦が本格的に始められます。2008年2月に孵化後1カ月目のひなを鳥島の従来コロニーから小笠原諸島の聟島に運んで、3カ月間余 り人の手で飼育し、海に飛び立たせます。これを5年間にわたって行なう計画です。このとき、巣立つひなの数が多ければ多いほど、早期に確実に新コロニーが形成されます。

 もし、予測どおりに従来コロニーで約230羽のひなが誕生すれば、そこからおよそ15羽を聟島に移動させても、鳥島集団の個体数増加におおきな支障はないでしょう。 毎年、鳥島から数多くのひなを聟島に送り出すためには、従来コロニーで保全管理作業を継続して繁殖成功率を60〜70%に維持することがたいせつです。

過去30年間の数の増加と今後の展望  

 表2に、この30年間の個体数の増加を示しました(括弧はおおまかな推定値)。

 初めて鳥島に上陸した1977年3月下旬、鳥島で確認されたひなの数はわずか15羽でした 。ですから、この30年間に約15倍に増えました。繁殖つがい数は約8倍に、抱卵期のカウント数は10倍に、推定総個体数も約10倍に増加しました。平均すれば、この30年間で鳥島集団のおおきさはおよそ10倍に増えたことになります。

表2.鳥島におけるオキノタユウの数の増加、1977〜2007年

繁殖期
1976-77年期
2006-07年期
増加倍率(年率)
繁殖つがい数(組)
(42)
341
8.1 ( 7.2% )
巣立ちひな数(羽)
15
231
15.4 ( 9.5% )
抱卵期のカウント数(羽)
67
671
10.0 ( 8.0% )
繁殖後の推定個体数(羽)
(200)
1945
9.7 ( 7.9% )

 

もし、オキノタユウが採食に利用する海洋と繁殖に利用する陸上の環境が変わらな ければ、鳥島集団の個体数は順調に増え続け、30年後の2037年には、繁殖つがい数が およそ3,000組、巣立ちひな数は約2,000羽、抱卵期にコロニーで観察される個体数は 約6,000羽、総個体数は約20,000羽になるでしょう。

→鳥島の位置とコロニーの場所を地図で確認する