掲載:2017年5月31日

第122回鳥島オキノタユウ調査報告

533羽のひなが巣立ち、鳥島集団の推定総個体数は約4,615羽に

 2017年3月19日から5月15日まで、伊豆諸島鳥島(写真1)でオキノタユウ(=アホウドリ)の繁殖状況を調査しました(鳥島滞在は3月29日から5月8日まで)。その結果の概要を報告します。

▼写真1 南から見た伊豆諸島鳥島(2017年5月8日)

▼写真2 従来コロニーがある燕崎斜面(2017年5月8日)。

中央に泥流の跡があり、向かって右側の草地が東地区で、左側が西地区。この斜面の崖上の平坦地に新コロニーがある(この写真では見えない)。

 

巣立ちひな数と繁殖成功率

2016年11月下旬から12月上旬に産卵数を調査し(第121回調査を参照)、今回、4月下旬にひなに足環標識を装着して巣立ちひな数を確定しました(表1)。繁殖成功率は、生まれた卵の数に対する巣立ったひな数の割合です。

▼写真3 燕崎斜面の従来コロニー西地区(2017年4月3日)

▼写真4 北西斜面の新コロニー遠景(2017年3月30日)

▼写真5 北西斜面の新コロニー近景(2017年4月26日)


表1 2016-17年繁殖期の産卵数、巣立ちひな数、繁殖成功率
区域 産卵数 巣立ちひな数 繁殖成功率(%)
従来コロニー
西地区
376
239
63.6%
東地区
160
68
42.5%
小計
536
307
57.3%
新コロニー
燕崎崖上
27
20
74.1%
北西斜面
274
206
75.2%
鳥島全体
837
533
63.7%

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 鳥島からの巣立ちひな数は、昨シーズンから61羽も増加し、ついに500羽を超えて533羽になりました。地区別にみると、燕崎斜面の従来コロニー(写真3)で307羽(昨シーズンから9羽の減少)、燕崎崖上の平地にある新コロニーで20羽(13羽の増加)、北西斜面の新コロニー(写真45)では206羽(57羽の増加)でした。

 繁殖成功率を地区別に比較すると、従来コロニーでは57.3%で、11年ぶりに60%を割りました。一方、新コロニーでは、燕崎崖上で74.1%、北西斜面で75.2%と高く、鳥島全体ではほぼ昨シーズン並みの63.7%でした。

 燕崎斜面の従来コロニーは、西地区と東地区に分けらます。西地区からの巣立ちひな数は239羽で(昨シーズンより14羽の増加)、繁殖成功率は63.6%でしたが(ほぼ昨年並み)、東地区からは68羽で(23羽の減少)、繁殖成功率は42.5%(14.7ポイント減少)でした。この東地区での低い繁殖成功率が従来コロニー全体での繁殖成功率に影響しました。

 東地区はさらに2区域に分けられます。従来の区域と2004年に大規模な泥流が発生して、その翌シーズンに従来区域の上側に形成された新区域です。この新区域では、植栽工事が奏功して繁殖つがい数は着実に増加し、今シーズンは66組が産卵し、43羽が巣立ち、繁殖成功率は65.2%でした。一方、従来区域では2004年の泥流発生以降、強風による飛砂を防止するために周辺一帯に植栽作業を行なった結果、繁殖つがい数は少しずつ回復しましたが(2年前シーズンには104組が産卵して、64羽のひなが巣立った)、今シーズンは昨シーズンより9組減少して、94組でした。そして、巣立ったひなの数はわずか25羽で、繁殖成功率は26.6%でした。この著しく低い繁殖成功率の原因は昨年秋に発生した泥流で、中央排水路の下方に盛り上がるほど大量の土砂を堆積させました(写真6)。2004年の泥流の後と同様に、西寄りの強風が吹くときには突風によって堆積土砂の表面から砂が飛ばされて抱卵・保育している親鳥に打ち付け、それに耐えられなくなった親鳥は巣を離れ、その結果、繁殖に失敗したのでしょう。

 この盛り上がった堆積土砂(写真7)によって、この区域から南西方向への飛び立ちが困難になり(離陸のためには堆積土砂の上まで歩かなければならない)、また西方向からの着陸にも不都合な存在となります。さらに、もしこの斜面でつぎに大規模な泥流が発生した場合には、低くなったこの区域の西縁部一帯に土砂が流入するおそれがあります。

▼写真6 燕崎斜面の中央排水路の下部に堆積した大量の土砂(2017年4月16日)

▼写真7 横から見ると、盛り上がって堆積した様子がよくわかる(2017年4月16日)

 結局、東地区の従来区域はオキノタユウの営巣にとって好適な場所ではなくなりました。この区域で営巣していたつがいは来シーズン以降、営巣場所を移動するにちがいありません。それらの移転先は、上側の新区域やこの区域の東端部、燕崎崖上コロニーでしょう。

 今シーズン、533羽のひなが巣立った結果、鳥島集団の総個体数は推定で約4,615羽になりました(1-6歳の若鳥が推定約2,030羽、7歳以上の成鳥は推定約2,050羽)。昨シーズンより395羽増加し、鳥島集団の個体数は順調に増えています。

鳥島集団の今後の予測

 来シーズンの繁殖つがい数は、燕崎斜面の従来コロニーでは昨シーズンより微増して約550組、確立後に急成長している北西斜面の新コロニーでは大幅に増えて約330組、燕崎崖上では昨シーズンより少し多い約30組、鳥島全体では約9%、70組余り増加して、約910組になるとおおまかに予想されます。

 しかし、燕崎崖上のつがい数はこれまで植生の生育状況によって大きく影響を受けました。もし、現在の植生状態が存続すれば繁殖つがい数は増加して、約35組になる可能性がありますが、台風の接近や通過にともなう強風によってススキの草むらが消失すれば、営巣に適した場所が失われ、つがい数は減少して20-25組になるでしょう。また、燕崎斜面の東地区の従来区域では巣を放棄したつがいがかなりいたと推測されるので、ここでの繁殖つがい数はさらに減少するでしょう。その結果、東地区では繁殖つがい数が減少するものの、西地区でその減少分を上回る増加があり、従来コロニー全体では微増となると予想されます。

 鳥島集団のカウント数は2010年から急増し、最近7年間の平均増加率は毎年約10%でした。この主な要因は、大規模な泥流が発生した翌年の2005年から5年間にわたって行なわれた営巣地保全管理の補完作業で、その結果、2007年から2009年まで繁殖成功率が70%以上に維持され、たくさんのひなが巣立ったからです。しかし、2010年に小規模な泥流が発生して繁殖成功率は64%に低下しました。その後、砂防・植栽工事が実施され、それから4年間、繁殖成功率は平均約69%になりました。このカウント数の急増に対応して、2013年から繁殖つがい数が急増し始め、最近4年間の平均増加率は毎年12%近くになりました。

 巣立った幼鳥は3-4年後から鳥島に帰り始め、平均して約7歳から繁殖を開始します。巣立ち後の生き残り率はほぼ一定だと推測されるので、ごく大まかに言えば、繁殖成功の成否が3年後のカウント数に影響を及ぼし、さらにその4年後の繁殖つがい数の傾向を決めます。したがって、これから数年間、繁殖つがい数は毎年10%前後で増加すると予想されます。もし、毎年10%で増加すれば、来シーズンは920組、再来シーズンには約1,000組になると予測されます。

泥流によって堆積した土砂への対策

 燕崎の崖上に設置された土留め堰堤はどれも機能し、下流側への土砂の流下を防いでいました。今回の滞在中、石積みを追加して堰堤を補強する砂防工事を行ないました。

 燕崎斜面の中央排水路に新たに堆積した土砂は認められず、昨年12月以降に発生した泥流はありませんでした。前述したように、東地区の従来区域の西縁に盛り上がるように大量に堆積している土砂は、この区域で繁殖するつがいの繁殖の成否に強く影響を及ぼすと推論されます。しかし、これらの大量の土砂を除去することは困難です。また、飛砂を防止するために堆積土砂の上に植栽工事を行なうことも困難です。そのため、滞在中にこの区域で密集して営巣している区域に限って、砂まじりの強風を緩和するために、植栽工事(チガヤの株の移植)を行ないました。

 今後は、さらに土砂が堆積することを防ぐため、中央排水路の下部に堆積している土砂を掘削・除去し、中央排水路の流路を回復することが必要です。

▼写真8
 従来コロニー西地区で見つかった、くちばしに奇形のあるひな(2017年4月29日)

下くちばしは奇形の程度が低く、親鳥が吐き戻したえさをしっかりと受け取っていた。このような奇形のあるひなを観察したのは、これまで41年間の調査で初めて。悲しいことだが、巣立っても自分ではえさを採ることができず、死亡するにちがいない。


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