掲載:2016年5月30日

第120回鳥島オキノタユウ調査報告

巣立ちひな数は472羽で、鳥島集団の総個体数は推定約4,220羽に

 2016年3月16日から5月15日まで2ヶ月間、伊豆諸島鳥島でオキノタユウ(アホウドリ)の繁殖状況を調査しました(鳥島滞在は3月22日から5月9日まで)。この調査は、1976-77年繁殖期の最初の調査から40年目になりました。その結果の概要を報告します。

巣立ちひな数と繁殖成功率

2015年11月下旬から12月中旬に行なった第119回調査で産卵数を調査し、今回、4月末にひなに足環標識を装着して、巣立ちひな数を確定しました(表1)。繁殖成功率は、生まれた卵の数に対する巣立ったひな数の割合です。

表1 2015-16年繁殖期の産卵数、巣立ちひな数、繁殖成功率
区域 産卵数 巣立ちひな数 繁殖成功率(%)
従来コロニー
西地区
360
225
62.5%
東地区
159
91
57.2%
小計
519
316
60.9%
新コロニー
燕崎崖上
16
7
43.8%
北西斜面
217
149
68.7%
鳥島全体
752
472
62.8%

 燕崎斜面の従来コロニー西地区から225羽のひなが巣立ち(昨年より4羽の増加)、繁殖成功率は62.5%で(昨年より3.3ポイント減)、東地区からは91羽(11羽の減)、57.2%(9.9ポイント減)でした。昨年6-7月に西地区でコロニー保全管理工事の補完作業を行なったので(第118回調査参照)、繁殖成功率低下の防止に効果があったのかもしれません。一方、保全作業を行なわなかった東地区では10ポイント近く低下し、この10年間で最低になりました。この東地区のうち、上側地区では39羽で(69.6%、9.6ポイント減)、従来地区では52羽でした(50.5%、11.0ポイント減)。

 従来コロニー全体では昨年より7羽少ない316羽が巣立ち、繁殖成功率は昨年より5.3ポイント下がって60.9%で、この10年間で最も低い値でした。

▼写真1 燕崎斜面の従来コロニー西地区(2016年3月26日)

▼写真2 従来コロニー西地区の近景(2016年3月26日)

▼写真3 従来コロニー西地区(2016年3月30日)

 北西斜面にある新コロニーからは昨年とほぼ同数の149羽のひなが巣立ち(2羽の減)、繁殖成功率は68.7%(13.8ポイント減)でした。また、燕崎崖上の平地にある小さな新コロニーからは7羽のひなが巣立ち(2羽増)、繁殖成功率は43.8%(6.2ポイント減)でした。

 

▼写真4 北西斜面の新コロニー(2016年3月26日)

▼写真5 新コロニーの近景(2016年3月23日)

▼写真6 新コロニー(2016年3月28日)

 今シーズン、鳥島全体では昨年より7羽少ない、472羽のひなが巣立ち、繁殖成功率は62.8%で、昨年より7.5ポイント低下しました。そのため、残念ながら、ひな数は期待していた500羽以上にはなりませんでした。

これら472羽の巣立った幼鳥に、1-6歳の若鳥の推定個体数、約1,910羽、7歳以上の成鳥の推定数、約1,840羽を合計した繁殖期直後の鳥島集団の総個体数は、推定で約4,220羽になりました。昨年より約320羽の増加で、鳥島集団は順調に個体数を増やしています。

エル・ニーニョ現象の影響は?

 一昨年の春から(とくに昨年春から)今年の春まで、大規模なエル・ニーニョ現象が発生し、日本列島は暖冬になりました。このような年には冬期の季節風の吹き出しが弱く、伊豆諸島南部海域は低圧部になり、しばしば南岸低気圧が発達しながら東進し、強い冬型の気圧配置となって寒気を呼び込みます。その結果、天候が激しく変動する“荒れる冬”になります。

 実際、2016年1月18日には低気圧(988 hPa)が急速に発達しながら本州南岸を北東に進んで、北海道の東の海上に達しました(968 hPa)。このとき、関東甲信地方は大雪になり、日本各地は大荒れになりました。その後、強い冬型の気圧配置になって寒気が流れ込み、1月24日に西日本で記録的な低温、奄美大島名瀬で115年ぶりの降雪、沖縄本島北部で霙が観測されました。また、1月29日から30日にも再び南岸低気圧が通過しました。

 オキノタユウの孵化期は12月末から1月下旬なので、誕生したばかりのひなが低気圧による強風やそれにともなう砂混じりの突風の影響を受けたことは十分に考えられます。今シーズン、繁殖成功率は低かった地区は、従来コロニー東地区(とくに、そのうちの従来地区)と燕崎崖上の新コロニーです。この地区は南西からの強風が吹くと、砂を含んだ突風が発生しやすい場所です。“穏やかな冬”だった昨シーズンと較べて(第117回調査報告を参照)、繁殖成功率が7.5ポイントも低下した原因の一つは、激しく変動した気象現象だったにちがいありません。

 過去に大規模なエル・ニーニョ現象が起こった年の繁殖成功率を表2に示しました。

表2 大規模なエル・ニーニョが起こった年とその前後の年の繁殖成功率
期間 海面水温偏差* 1年前 当年 1年後
1972年春-73年春 +2.8℃ - (約70%) (約30%)
1982年春-83年夏 +3.3℃ 33.3% 50.7% 49.2%
1997年春-98年春 +3.6℃ 51.1% 67.0% 67.1%
2014年夏-16年春 +3.0℃ 70.3% 62.8%  

注) 括弧内は推定値。
1972年産卵期には約34組のつがいが産卵したと推測した。73年の巣立ちひな数は24羽だった(Lance Tickell による調査)。1973年産卵期には約36組と推測した。74年春に11羽のひなが巣立った(NHK取材チームの観察)。

* 気象庁ホームページ(下記サイト)の月平均値の極大値を図から読み取った。 http://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/data/elnino/learning/faq/elnino_table.html

 しかし、エル・ニーニョの年には繁殖成功率が低下するという関係は見いだせませんでした。1982年と1997年当時、従来コロニーでは好適な営巣環境を造成するために砂防工事と植栽工事が実施されていたので、エル・ニーニョの影響が緩和された可能性も考えられます。また、もしエル・ニーニョが繁殖成功率に影響を及ぼすとすれば、来シーズンは繁殖成功率が元の水準(70%前後)に回復するはずです。

来シーズン以降の予測

 オキノタユウの集団生物学的特性と単純な集団モデルから、来シーズンの繁殖つがい数は約815組と予測されます。おそらく、燕崎斜面の従来コロニーで約540組、燕崎崖上の新コロニーで約20組、北西斜面の新コロニーで約255組が産卵するでしょう。そして、鳥島全体の繁殖成功率が67%程度だとすると(最近5年間の平均は67.6%で、10年間の平均は68.7%)、約545羽のひなが巣立ち、鳥島集団の総個体数はおよそ4,570羽になるでしょう。

その次のシーズンの2017-18年繁殖期には約865組のつがいが産卵し、約580羽のひなが巣立ち、総個体数は約4,930羽になり、さらに2018-19年繁殖期には約930組が産卵、約625羽が巣立ち、約5,330羽になるでしょう。そして2019-20年繁殖期には約1000組が産卵すると予測されます。ぼくが目標としてきた5,000羽に到達するまで、あと2-3年です。



調査報告一覧