掲載:2015年7月12日

第117回鳥島オキノタユウ調査報告

昨シーズンより79羽も多い479羽のひなが巣立ち、鳥島集団の総個体数は推定で約3,900羽に!

 2015年3月18日から5月11日まで、伊豆諸島鳥島で第117回オキノタユウ(学名 Phoebastria albatrus, 別名 アホウドリ)繁殖状況調査を行ないました(鳥島滞在は3月26日から5月3日まで)。その結果の概要を報告します。

巣立ちひな数と繁殖成功率

2014年11月下旬から12月中旬に行なった第116回調査で産卵数(一腹1卵なので、繁殖つがい数と同じ)を調査し、今回、4月下旬にひなに足環標識を装着して、巣立ちひな数を確定しました(表1)。繁殖成功率は、生まれた卵の数に対する巣立ったひな数の割合です(繁殖に成功したつがいの割合でもある)。


表1 2014-15年繁殖期の産卵数、巣立ちひな数、繁殖成功率
区域 産卵数 巣立ちひな数 繁殖成功率(%)
従来コロニー
西地区
336
221
65.8%
東地区
152
102
67.1%
小計
488
323
66.2%
新コロニー
燕崎崖上
10
5
50.0%
北西斜面
183
151
82.5%
鳥島全体
681
479
70.3%
 

燕崎斜面の従来コロニー西地区から221羽(昨年より3羽の増加)のひなが巣立ち、繁殖成功率は65.8%(昨年より2.5%減)、東地区からは102羽(21羽増)、67.1%(5.3%増)でした。従来コロニー全体では323羽(24羽増)、66.2%(0.2%減)でした。

▼写真1 従来コロニー西地区(2015年4月25日)。ひなに足環を装着するときに撮影。

 

▼写真2 従来コロニー東地区(2015年5月2日)。親鳥や若鳥は海に出て、ひなたちだけがコロニーに残っていた。

 

 北西斜面にある新コロニーからは予想をはるかに超える151羽のひなが巣立ち(54羽も増加)、繁殖成功率は82.5%(17.0%増)でした。また、燕崎崖上の平地にある小さな新コロニーからは5羽のひなが巣立ち(1羽増)、繁殖成功率は50.0%(13.6%増)でした。

▼写真3 たくさんの若鳥や成鳥、ひなでにぎわう北西斜面の新コロニー(2015年4月18日)。クロアシオキノタユウのひなのセンサスのときに撮影。

 

▼写真4 燕崎崖上の平坦な場所にあるコロニー(2015年4月23日)。ここでは、裸地に散在するハチジョウススキの株のそばで営巣している。ハチジョウススキの株の数が少ないため、営巣場所が限定され、今後も繁殖つがい数は10組前後で推移すると予想される。

 

 今シーズン、鳥島全体では昨年より79羽も多い、近年最高の479羽のひなが巣立ち、繁殖成功率は70.3%で、昨年より4.6%も改善されました。

燕崎崖上の砂防堰堤の補修

 2014年12月4日の大雨で、燕崎斜面で泥流が発生し、中央排水路に流れ込みました。かつて、1993年から2004年にかけて環境省が従来コロニーの保全管理工事を行なった時、燕崎の崖上から燕崎斜面への土砂の流下を防ぐために燕崎の崖上の水路に合計9基の砂防堰堤(蛇籠・布団籠)が設置されました。しかし、これらの蛇籠や布団籠の中には、経年劣化(針金が錆びて部分的に蛇籠や布団籠が破れてしまった)によって機能しなくなったものがありました。そのため、それらを錆びることのないプラスチックのトリカルネットと土嚢で補修してきました(2009年6月以降。第102回調査報告を参照))。今回の滞在中、4月30日と5月1日に、今後の泥流発生を少しでも防止するため、これまで十分に補修されなかった2基の堰堤(上流側から第6、第9)を、トリカルネットと耐久性土嚢で補強しました(写真56)。

▼写真5 第6堰堤の補修。トリカルネットと耐久性土嚢で砂防堰堤を補強し(左)、約15 mの堰堤を補修した(右)。

 

▼写真6 第9堰堤の補修。布団籠の破れた部分(左)をトリカルネットと土嚢で補強した(右)。

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今シーズンの繁殖状況の評価と今後の保全対策

 昨シーズンは、繁殖期の後半に南岸低気圧がいくつも通過する「荒れた冬」だったため、どの区域でも繁殖成功率がその前の年より低下し、鳥島全体での繁殖成功率は65.7%でした。今シーズンは、「穏やかな冬」であったため、従来コロニー西地区で繁殖成功率が昨シーズンよりわずかに低下しただけで(2.5%の減少)、その他の区域では改善しました。

 とくに北西斜面の新コロニーでは、繁殖成功率が82.5%と非常に高く、昨シーズンより大幅に改善しました(17.0%の増加)。昨年の繁殖状況の評価で、平坦な場所にある新コロニーで繁殖成功率が以前の70%台から2年続けて65-66%に下がった原因について、コロニーが急成長して混雑してきたために個体間の相互干渉が強まったこと、とくに抱卵中の親鳥や小さなひなとの着陸時の衝突の増加だろうと推論しました。グライダーのような細長い翼をもち、体が大きなオキノタユウは着陸時に小回りが効かず、コロニーに高速で進入して、両足をそろえて着地します。風が弱いときには“軟着陸”しますが、やや強いいときには、前につんのめって胸や翼を地面に打ちつけたり、胴体着陸したりし、ドサッとかバサッという音を立てます。このとき、着陸を制御できない個体が地上の個体と衝突することがあるのです。

 この仮説にもとづいて、2014年8-9月に環境省が実施した「国指定鳥島鳥獣保護区保全対策工事」のとき、新コロニー周辺にある離着陸の飛行の障碍となる高木(ハチジョウグワ)や低木(マルバアキグミ)を伐採しました。おそらくその結果、鳥たちはさまざまな方向から進入飛行することができるようになり、比較的空いている場所を見つけて着陸し、他個体との衝突を回避したにちがいありません。この進入飛行路の自由度の拡大が繁殖成功率改善の一因になったと考えられます。実際に観察していて、着陸しようとしている個体がコロニーの上空を何回も旋回することが少なくなり、旋回することなく直接着陸することが多くなったという印象を持ちました。もし、この仮説が正しければ、来シーズン以降も新コロニーでの繁殖成功率が70%台に維持されると予測されます。

 従来コロニー西地区での繁殖成功率は65.8%で、昨シーズンよりやや低下しました。2010年2月、この地区の下部に泥流が流れ込み、約10羽のひなが生き埋めになり、死亡しました。地上営巣性のオキノタユウにとって、平坦な場所や適度の植生が生育する安定した斜面は繁殖成功に重要です。泥流跡の不安定な地面を改善するために、2013年7月、金網籠と土嚢で地面を安定させ、その下側と脇にチガヤを植栽しました。このときに移植した株はいったん根付いたのですが、その後、残念ながら枯れてしまいました。その原因は、鳥たちの歩行にともなう土壌のずり落ちと風による浸食作用で、移植したススキの株の根元が浮いてしまったためです。

 燕崎斜面の従来コロニーで、2005年から2009年にかけて営巣地保全管理工事の補完作業(砂防工事とチガヤの植栽)を行ない(第90、93、96、99、102回調査)、2007-2009年の西地区での繁殖成功率を70%以上に維持することに成功しました(これらの年に毎年10?15羽のひなが小笠原諸島に運ばれたが、それらを除いて計算)。その当時と比べると、西地区中央部の植生は、最近、かなり衰退しました。その主な原因は、密集して営巣している鳥が巣造りの材料として植物の茎や葉を利用することや、大量の排泄物を浴びて枯死することでしょう。さらに、鳥たちの頻繁な歩行にともなって土砂がずり落ち、草が砂で埋まったり、土が根元から流れ出てしまったりしたためでしょう。

 もし、この区域とその周辺に以前と同程度の植生を回復することができれば、繁殖成功率は再び70%台に引き上げられるはずです。そのための保全管理工事(トリカルネット籠とステンレス金網籠の設置、チガヤの植栽)を、ひなが巣立った後の2015年6月に実施する予定です。この時期ならば、鳥島付近に梅雨前線が停滞していて、雨が植栽するチガヤの株の根付きを確実にします。

 また、同時に燕崎斜面で砂防工事を行ない、2014年12月初めに発生した泥流によって、中央排水路に堆積した土砂をできるかぎり除去する予定です。

鳥島集団の推定総個体数と今後の予測

 今シーズン直後の鳥島集団の総個体数は、7歳以上の成鳥が推定1,668羽、1歳から6歳までの若齢個体が推定1,755羽、巣立った幼鳥は479羽で、それらを合計した推定総個体数は約3,900羽になります(昨年より約360羽の増加)。

 単純集団モデルにより、次の繁殖期のつがい数を予測すると約740組(燕崎斜面で約500組、燕崎崖上で10組、北西斜面で230組)となり、従来コロニーの保全管理工事によって繁殖成功率を70%に維持できるとすれば、約520羽のひなが巣立ち、総個体数は約4,250羽になるでしょう。その次の2016-17年繁殖期には、約800組のつがいが約560羽のひなを育て、約4,600羽になり、さらに2017-18年期には約855組が約600羽のひなを育て、鳥島集団の総個体数は約5,000羽になると予測されます。



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