掲載:2014年6月19日
2014年4月1日から5月8日まで、第114回鳥島オキノタユウ(=アホウドリ)調査を行ないました。その調査結果の概要を報告します。
2013年11月下旬から12月中旬に行なった第113回調査で、産卵数(=繁殖つがい数)を調査し、今回、ひなに足環標識を装着して巣立ちひな数を確定しました。表1に2013-14年繁殖期の状況をまとめました。
区域 | 産卵数 | 巣立ちひな数 | 繁殖成功率(%) | |
---|---|---|---|---|
従来コロニー | 西地区 |
319 |
218 |
68.3% |
東地区 |
131 |
81 |
61.8% |
|
小計 |
450 |
299 |
66.4% |
|
新コロニー | 燕崎崖上 |
11 |
4 |
36.4% |
北西斜面 |
148 |
97 |
65.5% |
|
鳥島全体 |
609 |
400 |
65.7% |
繁殖成功率は、燕崎斜面にある従来コロニーの西地区で68.3%(昨年比−1.7%)、東地区で61.8%(昨年比−15.3%)、従来コロニー全体では66.4.%(昨年比−5.4%)と、全体的に低下し、とくに東地区で大きく低下しました。しかし、巣立ちひな数は昨年より3羽だけ増えました。
北西斜面にある新コロニーから巣立ったひなの数は97羽で、繁殖成功率は昨年とほぼ同じで65.5%(昨年比-0.1%)でした。また、燕崎の崖上の平地に形成された小さな新コロニーからは4羽のひなが巣立ち、そこでの繁殖成功率は36.4%(昨年比-38.4%)でした。
今シーズン、鳥島全体での繁殖成功率は65.7%(昨年比−4.7%)で、巣立ちひな数はちょうど400羽(昨年比+21羽)でした。巣立ちひな数は2006-07年繁殖期に200羽台に乗ってから8年で、2倍の400羽台に到達しました。
昨シーズンに較べて、今シーズンはどの区域でも繁殖成功率が低下しました。このことは、2013年12月から翌年3月まで気象条件が全般的に厳しく、「荒れた冬」であったことを物語ります。実際、2014年2月には本州南岸の沖を通過した低気圧(南岸低気圧)の影響で、日本列島の広い範囲で大雪となり、関東甲信地方では最深積雪の記録を大幅に更新しました。また、3月にも南岸低気圧が通過して、各地は激しい雨と強風に見舞われました。
この南岸低気圧が通過するとき、鳥島では南西方向から強風が吹き込みます。すると、南西側が開けていて"無防備"になっている従来コロニーの東地区と崖上コロニーでは、強風が吹き抜け、砂嵐や突風が発生します。おそらく、そのために誕生後まもないひながまともに影響を受けて、これらの2地区で繁殖成功率がとくに低下したと推測されます。
南岸低気圧による「荒れた冬」は2005年にも起こり、そのシーズンには従来コロニー東地区での繁殖成功率は過去最低となる27.9%で、崖上コロニーでは2組のつがいが初めて産卵しましたが、両方とも繁殖に失敗しました。一方、北西斜面の新コロニーでは新たに3組のつがいが加わって、合計4組が産卵し、すべて繁殖に成功したのです(第89回調査報告を参照)。
そうした強風の影響を受けにくい北西斜面の新コロニーでは、2004-05年繁殖期から2011-12年繁殖期まで(2006-07年繁殖期の1シーズンだけを除いて)、繁殖成功率は70%以上でした。しかし、最近2年間は65.6%、65.5%と、やや低い傾向がみられます。このコロニーは平坦な場所に形成されているので、つがいは安定した巣を造ることができます。したがって、急傾斜な燕崎斜面にある従来コロニーとは異なる要因が繁殖成功率に影響を及ぼしていると考えられます。
推測される要因の一つは、新コロニーの混雑にともなう個体間の相互干渉です。新コロニーは、2004-05年繁殖期に4組のつがいが産卵して確立してからわずか9年間で、148組が産卵するまでに急成長し、鳥島集団の約25%を占めるまでになりました。それらが比較的狭い平地にやや密集して営巣しています。もし、その周辺部の草地に着陸した場合には、その個体は深い草むらをかき分けて歩き、コロニーにたどり着かなければならないので、かなり労力を必要とします。そのため、鳥たちはできるかぎりコロニーの内部の平地に着陸しようとします。その限られた区域に着陸するとき、抱卵中の親鳥に衝突し、卵が割れてしまう事故が起こりえます。また、自由に歩くことができない小さなひなは着陸個体との激突によって負傷し、場合によっては致命傷を負うかもしれません。従来コロニーでは営巣区域周辺の火山砂が堆積した広い空間を着陸に利用できるので、こうした個体間の相互干渉の頻度は低いと考えられます。
今後、新コロニーにおける繁殖成功率の推移を追跡調査し、それに影響を及ぼす要因を究明しなければなりません。
今繁殖期直後の鳥島集団の総個体数は、7歳以上の成鳥が推定1,492羽、1歳から6歳までの若齢個体が推定1,646羽、今シーズンに巣立った幼鳥は400羽で、それらを合計した推定総個体数は約3,540羽になりました。
来シーズンには、燕崎斜面の従来コロニーで約460組、燕崎崖上の新コロニーで約10組、北西斜面の新コロニーで約180組、鳥島全体では約650組のつがいが産卵し、繁殖成功率をこの5年間の平均の68.5%と仮定すれば、約445羽のひなが巣立つと期待されます。そして、鳥島集団の総個体数は3,790羽になるでしょう。
今シーズン巣立った400羽のひなは、7年後の2020-21年繁殖期に繁殖年齢になり、およそ290羽が生き残ると推定されます。そのシーズンの繁殖つがい数を鳥島集団の集団生物学的特性にもとづいて、ごく単純な集団モデルで予測すると約1,045組となります。また、鳥島集団が指数関数的に成鳥している仮定として、1979年以降の繁殖つがい数に当てはめた回帰式(R2=0.997)からは約990組と予想されます。したがって、2020-21年繁殖期に約1,000組のつがいが産卵することはいっそう確実になりました。