掲載:2013年10月10日

第112回鳥島オキノタユウ調査報告

燕崎斜面の従来コロニー保全工事の結果

 2013年9月2日から10日まで鳥島に滞在し、環境省の「平成25年度国指定鳥島鳥獣保護区保全対策工事」に現地で助言しました。滞在中、ぼく自身が7月9-16日に燕崎斜面の従来コロニーで行なった保全工事(第111回調査報告参照)の結果を確認しました。また、北西斜面の新コロニーで、ひなの足にからまる恐れのある地面を這う蔓性植物(サオトメバナ)を刈り取りました。

植栽工事に成功

  鳥島では、植栽工事を行なった7月中旬に雨が降らず、その後も8月末まで、天気図によって推測した限り、まとまった雨が降らなかったようです。そのため、移植したチガヤの株が根付いたかどうか、ずっと気がかりでした。
 今回の調査で、移植したチガヤの株がしっかりと根付いていたことが確認されました(写真1・2)。移植後、雨は降らなかったけれども、朝露が降り、水が供給されたのかもしれません。

▼写真1 西地区の最下辺に設置したトリカルネット籠と移植したチガヤ

写真1

▼写真2 西地区の泥流跡に設置したステンレス網籠と移植したチガヤ

写真1

新コロニーで蔓性植物を除去

 北西斜面の新コロニーの平地には、サオトメバナやノアサガオ、ツルソバなどの蔓性植物が生育しています。このうち、サオトメバナの蔓は長く伸び、とくに強靭です。以前に、その蔓がからまったために足が変形したオキノタユウのひなを観察したことがあります。また、今年の4月には、蔓が両足にからまったために死亡したクロアシオキノタユウのひなを観察しました(写真3)。こうした事故をできるかぎり減らすため、新コロニーでサオトメバナの蔓を取り除きました。

▼写真3 両足に蔓がからまって死亡したクロアシオキノタユウのひな(北西斜面で、2013年4月17日)

写真1

環境省による保全対策工事

 この9月に鳥島で、環境省によってかなり大規模な鳥獣保護区保全対策工事が行なわれました。
 その第一は、旧気象観測所の建物の修理で、窓はアルミサッシに交換され、床や天井には合板が張られました。その結果、数名の調査者が快適にキャンプ生活を送れるようになりました。第二は、組み立て式ウィンチの設置で、船着き場からキャンプまで大量の物資を迅速に荷揚げできるようになりました。第三は、燕崎の崖上の砂防工事で、雨水は浸透升に集められ、それに接続したホースで東側の崖下に誘導されるようになりました。これによって、水は燕崎斜面の中央排水路に流れ込まないようになるはずです。さらに、気象観測ロガーが据え付けられ、オーストンウミツバメやカンムリウミスズメなどの小型海鳥類を捕食するクマネズミを捕獲するためのベイト・ステーションが設置されました。この保全対策工事は2017年まで継続される予定です。

 この工事中の9月15日に台風18号が鳥島の西を通過し、工事後の9月26日に台風20号が鳥島を直撃し、さらに10月1日には台風22号が鳥島の東を通過しました。これらの台風のうち、とくに工事後に鳥島に接近した20、22号による雨に対して、新しい砂防システムがどのように機能したか、今後、気象観測データと関連して解析がなされるでしょう。そして、その解析結果にもとづいて、来年度以降の砂防工事計画が立案されるでしょう。




調査報告一覧