掲載:2013年1月18日
2012年11月25日から12月18日に、第109回鳥島オキノタユウ(アホウドリ)調査を行ないました。下の表は、調査結果の概要です。
従来コロニー | 新コロニー | 鳥島全体 | |||
---|---|---|---|---|---|
燕崎斜面 | 燕崎崖上 | 北西斜面 | |||
繁殖つがい数(組) |
412 |
4 |
122 |
538 |
|
昨年比 |
+9 |
-3 |
+20 |
+26 |
|
増減率 |
+2.2% |
-42.9% |
+19.6% |
+5.1% |
|
カウント数 (羽) |
平均 |
665.8 |
21.4 |
234.8 |
924.9 |
昨年比 |
+64.2 |
+11.2 |
+41.5 |
+106.5 |
|
増減率 |
+10.7% |
+109.8% |
+21.5% |
+13.0% |
|
最大 |
710 |
28 |
257 |
982 |
|
昨年比 |
+67 |
+13 |
+51 |
+100 |
|
増減率 |
+10.4% |
+86.7% |
+24.8% |
+11.3% |
鳥島全体で、繁殖つがい数は538組で、昨シーズンから26組、5.1%の増加でした。とくに、デコイと音声装置を利用して形成した北西斜面の新コロニーでは122組が産卵し、昨シーズンより20組、20%も増加しました(写真1)。
一方、燕崎斜面の従来コロニーでは、つがい数は412組で、昨シーズンから9組、2%の増加でした。そのうち、西地区(写真2)では303組で、3組の減少、東地区では109組、12組の増加でした。東地区の従来区域では72組で、1組の増加でしたが、2005年春先の強風による被害を受けた後、2005年秋の産卵期から数組のつがいが移住して定着した東地区上側の新区域では(第91回調査を参照)、37組が産卵し、11組(42%)の増加でした。
2004年産卵期から燕崎崖上の平坦地に自然に形成された新コロニーでは、2008年から4年間、6、7、6、7組と1組の増減がみられただけでしたが、今シーズンは3組も減少しました。この区域にはごく疎らで貧弱な植生しか生育していないので、10月中旬(交尾期と産卵期直前に当たる)に、相次いで鳥島に接近した台風22号(10月17日、中心気圧996hPa、最大風速25m/s)、21号(10月19日、994hPa、25m/s)の影響を強く受けたと推測されます。
それぞれの区域で数えることができた平均の個体数は、燕崎斜面では665.8羽で、昨年比10.7%の増加、燕崎崖上では21.4羽で、110%の増加、北西斜面のでは234.8羽で、21.5%の増加、鳥島全体では924.9羽で、昨年比106.5羽、13.0%の増加でした。また、カウント数の最大値をみても、ほぼ同様の増加傾向が読み取れます。とくに、今シーズンに繁殖つがい数が減少した燕崎崖上では、観察個体数は昨シーズンのおよそ2倍に増加しました。したがって、来シーズンの繁殖つがい数は、以前の7組ほどに回復するにちがいありません。
これらの観察結果から、各地区の繁殖つがい数を予想すると、
1)燕崎斜面の西地区では、ほぼ繁殖つがい数が飽和状態に達して、今後の増加の余地はほとんどない。
2)増加が見込める区域は、従来コロニーではとくに東地区の上側の新区域で、東地区の従来区域でもいくらか余地がある。
3)燕崎崖上の新コロニーは今後も10組以下にとどまる。
4)北西斜面の新コロニーは、空間的制約がまったくないので、従来コロニーから巣立った若い個体がどんどん移入してきて、今後、急速に成長する。
鳥島全体での繁殖つがい数は、昨シーズンの予測(約550組)より10組余り少ない、538組でした。この原因の一つは、交尾期と産卵期直前の10月中旬に相次いで鳥島に接近した台風21、22号でしょう。おそらく、吹き荒れる強風によって交尾行動が妨害され、交尾後に営巣地に残って営巣なわばりを守っていた雄は突風や砂嵐などの影響を受けたにちがいありません。また、交尾後に海に出て卵を形成していた雌は荒れる海で十分な食物を確保できなかったかもしれません。
しかし、12月期に営巣地で観察された個体数は、昨シーズンより約100羽、10%以上も増加しました。したがって、鳥島集団の成長が鈍っているのでは決してなく、予測を下回ったのは一時的なもので、来シーズンには以前の予測値である約590組が産卵するにちがいありません。
今シーズン、鳥島で982羽のオキノタユウを数えることができました。つまり、約1,000羽を一度に観察できるほどに、鳥島集団の個体数が回復したのです。この調査を始めた1976-77年繁殖期の観察数は71羽でしたから、ほんとうに夢のようです。
付記
今回は、ガラパゴス諸島で育ち、現在はニュージーランドを拠点に活躍しているネイチャー・フォトグラファーのトゥイ・ドゥ・ロイ(Tui De Roy)さんが同行しました。彼女とは、2002年にハワイ諸島カウアイ島のリフエで開催された太平洋海鳥学会(Pacific
Seabird Group)の研究集会で出会いました。学会のあと、彼女はエクスカーションでミッドウェー環礁に行きましたが、つぎには、是非、鳥島に行きたいと、別れ際に告げられました。しかし、当時、北西斜面に新コロニーを形成する「デコイ作戦」が足踏み状態で、その解決が最重要課題だったため、ぼくは彼女の要請にとても応えられませんでした。
昨年2012年8月に、ニュージーランドのウェリントンで開催された第5回国際アホウドリ・ミズナギドリ会議で、10年ぶりに再会しました。そのとき、鳥島のオキノタユウ集団の現状を説明しながら、ぼくが「2014年3月に大学を定年退職する」と話すと、「その前に是非とも鳥島に同行して、オキノタユウを撮影したい」と強く希望しました。彼女は写真を豊富に掲載したアホウドリ類についての本を出版し(Tui De Roy, Mark Jones & Julian Fitter. 2008. Albatross: their world, their ways. 240pp. Christopher Helm, London)、その他にも、ガラパゴス諸島やニュージーランド、アンデス、ケニアの自然と生物についての本を相次いで出版し、また現在、ペンギン類の本を編集中とのことでした。ぼくは、野生動物や自然の保護にたいする彼女の考え方に共感し、情熱や写真表現能力に感動し、鳥島への同行に同意しました。
鳥島滞在中、彼女は、雨の中でも強風の日でも、未明から薄暮まで、オキノタユウやクロアシアホウドリ、鳥島の景観を精力的に撮影しました。ニュージーランドにいったん帰って、4日後にはフォークランド諸島に飛び、約2ヶ月間そこに滞在して、アホウドリ類やペンギン類を撮影する予定とのことでした。
彼女による優れた写真は、オキノタユウの"復活物語"を世界の人びとに分かりやすく伝えてくれるでしょう。
Tui De Royさんに刺激されて、ぼくもいくつか写真を撮影しました。そのうち、興味深いものと痛々しいものをここに掲載します。
白029、白021の足環を付けている2羽は、ともに1978年11月に生まれで(卵)、79年5月に巣立った34歳の鳥です。この他に、遠かったため番号ははっきりと読み取れなかったものの、同じ白い足環をつけている個体を1羽観察したので、このシーズンに巣立ったひな22羽のうち、少なくとも3羽が34歳まで生き残っていたことになります。オキノタユウが長生きであることを示します。
鳥島を離れて八丈島に帰るとき、船長に頼んで燕崎の沖の海に船を進めてもらいました。そのとき、凪いだ海に浮き、朝の光を受けているオキノタユウの群れ(raftと呼ばれる)を観察し、撮影しました。この群れの大部分は未繁殖の若い鳥でした。繁殖中の成鳥は、陸上で抱卵中か沖に出て採食中だったにちがいありません。
求愛ダンスをしている左側の若い鳥は、喉に底釣り針(釣鉤)を引っかけ、1mほどのテグスを垂らしています。この鳥を従来コロニーの東地区でみつけたとき、針とテグスを取り外してあげたいと思いましたが、飛び立てない場所に追い込もうとすると、卵を抱いている他の個体をパニックに陥れる危険があったため、それができませんでした。4月(ひな期)であれば、ゆっくりと草地に追い込んで、取り外すことができます。
この鳥は両足のみずかきに小さな穴があいています。釣り針に引っかかったためでしょう。撮影することはできませんでしたが、片足の先端部(みずかきのぶぶん)を完全に欠損した個体を従来コロニーと北西斜面の新コロニーで、それぞれ1羽ずつ観察しました。こうした先端部の欠損は、テグスや漁網が絡まる事故にあった結果だと推測されます。漁業との関わりで、このように体の一部を欠損したり、死亡したりするオキノタユウを目の当たりにするのは、とても辛いことです。