伊豆諸島鳥島
 
 

2. 伊豆諸島鳥島

   

1)繁殖状況

    下の表1は、この11年間の鳥島での繁殖状況の統計で、地区ごとの産卵数、巣
立ちひな数、繁殖成功率(%)を比較している。

   

表1. 伊豆諸島鳥島におけるアホウドリの繁殖状況

産卵年 従来のコロニー 新コロニー * 鳥島全体
西地区 東地区 小計
% % % % %
1990 77 45 58 31 21 68 -- -- -- -- -- -- 108 66 61.1
1991 79 35 44 36 16 44 -- -- -- -- -- -- 115 51 44.3
1992 93 50 54 46 16 35 -- -- -- -- -- -- 139 66 47.5
1993 94 50 53 52 29 56 -- -- -- -- -- -- 146 79 54.1
1994 92 49 53 61 33 54 -- -- -- -- -- -- 153 82 53.6
1995 89 35 39 68 26 38 157 61 38.9 1 1 100 158 62 39.2
1996 99 58 59 75 32 43 174 90 51.7 2 0 0 176 90 51.1
1997 113 71 63 80 58 73 193 129 66.8 1 1 1000 194 130 67.0
1998 123 80 65 89 62 70 212 142 67.0 1 1 100 213 143 67.1
1999 122 72 59 97 75 77 219 147 67.1 1 1 100 220 148 67.3
2000 135 101 75 102 71 70 237 172 72.6 1 1 100 238 173 72.7
     *新コロニー人為的形成計画は、1992年11月に41体のデコイを設置して始められ、翌93年3月からは音声放送装置が作動した。

    2000-01年繁殖期には、巣立ちひな数が鳥島全体で173羽で、昨シーズンより25羽も増え、また繁殖成功率は72.7%となり、どちらも近年の最高を記録した。
これは、とくに従来コロニー西地区で、繁殖成功率が75%に達したためである。

昨年6月半ばに、東京都と環境庁は、私の提案にそって、従来コロニーを保全するために、
(1)西地区最上部の崖下に壁面にそって新しい排水路を掘削・形成し、小泥流のコロニーへの流入を防ぎ
(2)小泥流の流路跡にステンレス網籠を設置して地面を安定させ、そこにシバとチガヤの株を移植して営巣環境を整える工事を行なった。
この保全管理工事によって繁殖成功率が引き上げられたと評価される。

また、昨年7月半ばに、要所に限ってではあったが、中央排水路に堆積している土砂を、私自身で除去した。その結果、西地区コロニーへの泥流の流入が抑えられたにちがいない。

25年という長い歳月を要したが、鳥島の従来コロニーでは、砂防工事やコロニーの保全管理工事を行なうことによって、卵やひなの事故死を確実に減らし、ひなを増産することが可能であることが完全に証明された(図2)。
したがって、今後もそうした工事を継続すれば、繁殖成功率を65〜75%程度に維持し、たくさんのひなを巣立たせることができるだろう。

ひな以外に、鳥島で観察したアホウドリの個体数は423羽で、これも近年の最高を記録した(これまでは、1998年4月の403羽)(図1)。また、2001年6月には、鳥島集団の総個体数は、巣立ったひなを含めて推定で1300羽余りに回復した。


   

2)新コロニー形成の人為的促進

    1987年に従来コロニーで地滑りが起こって、翌88年から泥流がコロニーに流入し、卵やひなを押し流したり、砂で埋めたりしたため、繁殖成功率は50%以下に低下した(図2)。

これを克服するため、1992年11月から、地滑りの心配のない鳥島の北西側のなだらかな斜面の中腹にデコイを設置して、録音した音声を再生・放送し、アホウドリの繁殖前の若鳥を誘引し、それらをそこに定着させ、新しいコロニーの形成を人為的に促進する計画がはじめられた。

いろいろの工夫を重ねた結果、1995年11月に最初の1つがいが産卵し、翌年6月にひなが巣立った。しかし、その後、新コロニーに定着するつがいの数が増えず、最初の1つがいが、以来、毎年産卵し、今シーズンを含めて、これまでに5羽のひなを育てた(表1)。

そのうちの1羽(足環番号白101の新コロニー2羽目のひな)が3歳(産卵から数えて)になって新コロニーにもどり(従来コロニーにも姿をあらわしていた)、4歳の個体(橙036)と頻繁に求愛行動をしていた。しかし、まだ特定の場所でではなく、数カ所で求愛行動をしていて、つがい関係が確立したとはいえない。
これまでの観察から、繁殖開始年齢は早くても5歳であるから、最短で2002年11月までこの個体は繁殖しないであろう。

今シーズン、新コロニーで、7日間で59.5時間の調査観察を行なった。その結果、

(1)新コロニーへの飛来頻度(時間当たりの飛来数)
(2)飛来個体の着陸率
(3)着陸個体の滞在時間(観察時間中の滞在時間の割合や1羽の滞在時間の長さ)
(4)夜間滞在の頻度(観察日数のうち日没まで滞在していた鳥が見られた日数の割合とその平均羽数)


などが昨年よりいくらか改善された。

このように、新コロニー形成の人為的促進は、現在、“足踏み”状態にある。
しかし、

(1)新コロニーから巣立った個体が今後も生まれた場所に帰ってくるにちがいなく

また、

(2)近年、従来コロニーからたくさんのひなが巣立っているので(最近4年間で590羽)

いずれ燕崎コロニーが混雑し、新コロニーに移動してくるにちがいない。

したがって、数年のうちには北西斜面に数組のつがいが定着し、新コロニーが確立されるにちがいないと、私は確信している。これを促進するために、今後もいっそうの工夫が必要である。

   

3)従来コロニーの砂防・保全管理

    昨年11月に産卵数の調査をして以降、おそらく2001年3月ころ、燕崎で大きな
泥流が発生し、それは中央排水路の西縁に沿って、一気に海岸まで流下した。
幸運にも、西地区コロニーへの流入は防がれた(上述)。

この中央排水路に堆積している大量の土砂を排出・除去する工事が2001年6月
に環境省と東京都によって実施された。しかし、堆積している土砂の総量は数
百立方メートルにのぼり、いろいろの工夫を試みたが、1年の工事ですべてを
排出することは困難であった。

この中央排水路に堆積した土砂を、われわれはこれまでずっと、水路の両側に
排出してきた。すると、掘削部に新たな土砂がつぎつぎに流入して堆積し(燕
崎の崖上の斜面でも水路に土止めのため小堰堤を6カ所に設置してきたにもか
かわらず。実際には水流によるだけでなく、強風によっても火山砂が運搬され、
崖下に吹き溜めができる)、その量が工事によって排出した量を上回ったため、
排水路は中央部が盛り上がって“天井川”のようになってしまった。
したがって、もしつぎに大量の土砂が流れた場合には、それが両側の“堤防”
を乗り越えて、西地区と東地区のコロニーに流入する危険性が高い。

この問題を抜本的に解決するためには、燕崎斜面の最上部で掘削工事して新し
い排水路を形成し、従来の水流を東側の崖にそって流すようにする以外にない。
そうすれば中央排水路を泥流が流れることはなくなり、そこにシバやチガヤを
植栽すれば、その一帯は新しい営巣地に生まれ変わり、まさに一挙両得となる。

しかし、このためには土木工事機械(小型パワーショベルを2台)や蛇篭・杭
など多量の資材を大型の台船で運搬し、ヘリコプターでつり上げて搬入しなけ
ればならず、およそ1億円規模の膨大な経費が必要になる。